はじめに

サービス学会では,海外のサービス研究の学会・コミュニティとの関係構築・強化を目的とし,各種国際会議におけるセッションの共同開催等の取り組みを行なっている.本報告ではその皮切りとして,The 30th RESER International Congress(開催日:2021年1月21〜22日)*1にて開催されたジョイントセッション “RESER-SfS special session on: Cross-cultural aspects of digitalization and service innovation”について報告する.

RESERについて

RESER(European Association for Research on Services)は,欧州のサービス研究分野では比較的歴史が長い学会である*2.経営学,経済学,政策科学,工学等,多様な学術領域の研究者が参画しており,欧州における政策提言等にも貢献している.近年はサービス学会からも複数名が参加しており,前年第29回大会でのサービス学会関係者とRESER関係者のやりとりがきっかけとなり,今回のジョイントセッションの開催につながった.
30回目の国際会議は,元々2020年中にスペイン・マドリッドにて開催予定だったが,新型コロナウィルスの感染拡大により延期され,最終的に2021年1月21〜22日に遠隔会議形式で開催された.大会長はUniversity of AlcaláのProf. Luis Rubalcabaであった.

ジョイントセッションの概要

本セッションは,筆者とフィンランド・Aalto UniversityのProf. Marja Toivonenが共同座長として開催した.テーマは,「デジタル化とサービスイノベーションにおける文化横断的側面」とした.本テーマを選択した理由は,日本と欧州のサービス研究の学会の間で共催するセッションとして適切なテーマであろうと考えたこと,また,筆者とProf. Toivonenは以前,介護分野におけるデジタル技術の活用に向けた,介護サービスシステムの2国間比較研究のプロジェクト「METESEプロジェクト」*3を立ち上げており,双方にとって関心のあるトピックだったことが挙げられる.
本セッションの概要は下記のとおりである.
● Opening remark: Prof. Marja Toivonen
 (Aalto University,フィンランド)
本セッションでは,まず最初にProf. Toivonenが,同氏の近著を踏まえ(Toivonen and Saari,2019),デジタル化の推進において,人間中心のサービスイノベーションの実現が重要であること,また文化的側面の考慮が重要であることを開催挨拶として述べた.その後,4名の講演者が発表を行なった.
● Talk 1: Dr. Kentaro Watanabe(産総研)
Opening remarkに続き,筆者がサービス学会の概要とその研究活動の特徴について紹介し,前出のMETESEプロジェクトの結果を引き合いに,サービス分野のデジタル技術活用の推進における制度・文化(Institution)の考慮の重要性を提起した.また,本セッションを通じ,デジタル化とサービスイノベーションのアプローチに関する文化的側面から見た共通点と相違点について理解を深めたい旨を示した.
● Talk 2: Prof. Spring Han(京都大学)
サービス学会からの2人目の発表者として,Spring Han准教授から,おもてなしに代表される日本のホスピタリティサービスとその特徴について,文化的背景も交えた紹介が行われた.
● Talk 3: Dr. Walter Ganz(Fraunhofer IAO,ドイツ)
RESERからの発表者として,Dr. Walter Ganzから,ドイツと中国の間で行われた,サービスロボットを用いた高齢者介護のスマート・サービスの開発プロジェクトが紹介された.同サービスは中国のリビングラボ環境を活用した共同デザインを通じて開発されており,異文化間の共同開発のあり方についても言及された.
● Talk 4: Dr. Kirsi Hyytinen(VTT,フィンランド)
RESERの2人目の発表者Dr. Kirsi Hyytinenからは,デジタル技術を活用したサービスイノベーションを対象とする評価フレームワークの紹介が行われた.本フレームワークは,同氏の参加した公共サービスのイノベーションに関するプロジェクトにおいて開発されたものであった.

本セッションでは発表後にパネルディスカッションを予定していたが,発表時間が予定以上に長引いてしまい,発表のみでセッション自体は終了となった.しかし,日本からの複数の参加者も含め,盛況なセッションとなった.また終了後も,発表者を中心に意見交換が行われ,両学会の最初の取り組みとしては有益なものであったと考える.

おわりに

本稿では,サービス学会の国際連携強化の取り組みの一環として,RESERとのジョイントセッションの報告を行なった.今後,2021年7月に開催予定のAHFE 2021 International Conference – Human Side of Service Engineering*4においても,同様のセッションの開催を予定している.来年予定されているサービス学会の国際会議ICServも含め,さらに他学会との連携を含む,国際連携の取り組みを推進する予定である.ぜひ今後多くの学会員にこうした取り組みに参加いただければ幸いである.また,本活動を通じて,サービス学の国際的な共同研究等への発展にも貢献できればと考える.

参考文献

Toivonen, M., and Saari, E. (2019). Human-Centered Digitalization and Services, Singapore: Springer Nature Singapore.
Watanabe, K., and Niemelä, M. (2019). Aging and Technology in Japan and Finland: Comparative Remarks. In Toivonen, M., Saari, E. (eds.) Human-Centered Digitalization and Services, Springer Nature Singapore, 155-175.
渡辺健太郎(2018). METESEシンポジウム.サービソロジー,5(1), 44-45.

〔渡辺 健太郎(産業技術総合研究所)〕

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  1. 大会ホームページ: https://congresosalcala.fgua.es/covalreser2020/
  2. RESERホームページ: https://www.reser.net
  3. METESEプロジェクトの詳細は,下記URLの最終報告書に詳しく掲載されている.
    https://cris.vtt.fi/files/20202336/METESE_Final_report_30July2018.pdf 
  4. また,同プロジェクトの成果については,(渡辺,2018; Watanabe et al. 2019)も参照のこと.
    AHFEホームページ: http://2021.ahfe.org
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