はじめに

日本では2000年に通称「IT基本法」が施行され,政府はIT,ICT戦略を打ち出してきた.2021年には,内閣官房がデジタル田園都市国家構想実現会議を設置し,地方からデジタル実装を進めるとする,地方創生の方向性を示している.
そのような背景の中,インターネットを活用したシェアサービス「シェアリングエコノミー」が普及してきた.シェアリングエコノミーは,遊休資産(スキル,空間,モノなど)を共有し,持続可能な社会を実現する新しい手法として注目されている.一見,都市部で成立しうる経済の在り方であるが,2018年から奈良県吉野町で総務省のモデル事業としてシェアリングエコノミーによる地域課題の解決を目指す取り組みが行われてきた.事例①として,図書館がないまちで住民同士の本をシェアすることでまち全体を図書館とする「吉野まちじゅう図書館」プロジェクト,事例②として新型コロナウイルス感染症拡大により拍車がかかる「多拠点居住」の取り組みを紹介する.
人口減少が進む地方において,コミュニケーションの変化による新しい共助の形を模索する町の取り組みについて述べる.

地方から進むデジタル化

内閣官房が設置するデジタル田園都市国家構想実現会議によると,地方からデジタル化を進め,地域の課題解決や魅力向上を図っていくとともに幅広い地方創生の取組が重要であるなど,今後の地方創生の取組の方向性が示されている.また,具体的な取り組み方針として,デジタル技術を活用し,地方のイノベーションを生む多様な人材・知・産業を集めることなどの重要性が示されている.
また,デジタル技術の向上により,暮らしの利便性が高まる一方,中山間地域などデジタルインフラ整備が進んでいない地域では,デジタル技術の恩恵にあずかることができない地域が生まれている.地理的な制約のある地域こそオンラインによる医療や教育体制などの整備が必要と考えられるが,感染症流行に起因する都市部でのオンライン環境の整備に伴い,こうした格差はより拡大し,迅速な対応が求められており,ますます議論が加速すると考えられる.

地域でのコミュニケーションの減少

新型コロナウイルス感染症により,接触機会が減ったことに伴い,多くの地域で人が集まるイベントが延期・中止となった.かねてより町内会や自治会を母体とする地域運営組織においては,「担い手の不足」が活動上の課題として挙げられてきたが,地域イベントの延期・中止により,地域内で人が結びつく機会の減少にもつながり,「組織内のコミュニケーション不足・連携不足」「活動制限等による担い手の発掘・育成機会の減少」など,今後の地域コミュニティ運営に及ぼす影響も指摘されている.

吉野町の現状

吉野町では,少子高齢化(H27国勢調査7,399人,年少人口6.4%,高齢化率45.8%),人口減少(減少率H22→H27▲14%)が加速度的に進行していることから,民間事業者の撤退や廃業による働く場の減少,また住民の生活サービス(子育て,介護,買い物,移動など)の不足などの課題が顕在化しており,さらなる人口流出を招く要因になっている.
さらに,少子高齢化,人口減少により,地域コミュニティが維持困難な状況にある.当町では,旧来の自治会・町内会単位ではなく,旧小学校区で自治協議会の組織化を推進し,住民自治強化に取り組んでいるものの,自治協議会への参画する住民は限定的である.
吉野町の高齢者3,390人のうち1,482人(43.7%)は60~75歳以下である(図1).この層は,元気で,知識,経験,技術を持ち,自身の職業経験等を活かしたコミュニティサービス(学習支援,農業支援等)の実践が可能な人材である.しかしながら,シルバー人材センター加入者は約120名,老人クラブ加入率は44.5%(H26比▲2.5%)に留まり.高齢者(特に60歳代)のニーズにあった地域で活躍できるしくみが求められている.
また,当町の女性労働力率は39.3%(男性62.2%)と低く,家事を主としている方が1,189人(女性総数3,763人の32%)にのぼり,少子高齢化が進行する中,女性のまちづくりへの参画,活躍機会の創出が必要である.

図1 吉野町の状況(平成30年度事業実施時点)

吉野町でのDX

DX(Digital Transformation)は,デジタル技術による生活やビジネスの変革を指している.上述のとおり,国家をあげて地方からデジタル実装を行うために様々な施策展開が行われていくことになる.吉野町においてもデジタル化による生活の向上を目指した取り組みが行われており,以下に紹介する.
主な事例として,これまで吉野町では定時定路線型のコミュニティバスを運行していた.町民の半数が65歳以上の高齢者が占める町においては,地域公共交通はなくてはならない移動手段である.しかしながらバス運行会社が路線を廃止する中,運行経費については町の負担となっていることも事実である.また,定時定路線型のバスでは,自宅からバス停までの距離があり,高齢者にとっては必ずしも利便性が高いサービスとは言えない.このことは,全国の同じような自治体で課題とされている.
2021年7月より吉野町では乗合型デマンドバスの実証運行を開始した.このサービスには自動経路生成のシステムが導入され,予約は必要となるが1時間前までの予約で町内に約230か所ある乗降ポイントを事由に行き来することができる.同じ経路内に異なる町民が乗合の予約をすると,システムにより自動的に経路が生成され,ドライバーのタブレットに通知がいくものである.利用者にとっても,デジタル化でスマートフォンやパソコンでの予約も可能になり,24時間予約,確認,変更ができるようになった.
またそれ以外にもデジタル化による生活への変革の波が来ている.昨今の新型コロナウイルスワクチン接種関連の予約も,LINEなどから簡単に予約ができるようになり,生活に大きな影響を与えている.
ここで注目すべきことは,65歳以上の高齢者でスマートフォンを持つ方が増えてきており,デジタル化の恩恵は若年層ばかりではないと言える.ただし,すべてをデジタル化してサービスやプロジェクトを展開するのではなく,リアルとデジタルの融合が大事であると考えられる.このことは,これから述べるシェアリングエコノミーの進め方にも共通している.地方におけるシェアリングエコノミーは,インターネット上だけで完結するものを目指すのではなく,インターネットやデジタルコンテンツをきっかけにして,リアルな交流や助け合いを生み出すべきものである.

地方におけるシェアリングエコノミー

一般社団法人シェアリングエコノミー協会によると,昨今の社会情勢により,モノ,スペース,スキル,時間などあらゆる資産を共有する「シェア」の考えや消費スタイルが日に日に広がりを見せているとある.ただし,これらのほとんどは東京を中心とした都市部での展開であると考えられる.
吉野町は,全国的にも上位に位置するほど,人口減少が著しい.また,前述のように民間事業者の撤退や廃業による働く場の減少,また住民の生活サービス(子育て,介護,買い物,異動など)の不足などの課題が顕在化しており,さらなる人口流出を招く要因となっている.
住民自身が持つ経験,知識,技術等を他者と共有するしくみ(シェアリングエコノミー)を浸透させることによって,住民,移住者,また老若男女を問わず誰もがまちづくりに気軽に参画,地域で活躍できる環境づくりを進め,移住定住促進を図る.
吉野町のような地域においては,必ずしもシェアリングエコノミーが経済として成り立つことを前提とはしていない.深刻な人材不足による地域活力の低下を少しでも緩和することが重要と考えられる.以下にシェアリングエコノミーの手法により人と人との交流を促進し,地域活性化を試みる事例を2つ紹介する.

吉野町の事例①「吉野まちじゅう図書館」

吉野町は,シェアリングエコノミーを活用した地域課題解決に取り組んできており,その発展事業として,吉野町はハコモノの図書館を建設するのではなく,住民が所有するものも含め,まちじゅうの本を共有する,『吉野まちじゅう図書館プロジェクト』を2019年に開始した.
本プロジェクトは,誰もが図書館と同じように書籍の貸し出し管理を行える「リブライズ」というサービスを利用して実施するものである.まちのあちこちで個性的な小さな図書館が次々に生まれ,本の共有をきっかけに人の交流や新たな発見が生まれるまちを目指すものである.まちじゅう図書館は,住民のためだけではなく,旅人の新たな目的地にもなりうるものである(図2).
すでに吉野町では"シダ"植物の図書館やお寺,子どものための図書館など個性ある図書館が17か所生まれ,本の横断検索も可能となっている.今後,さらにこの活動の輪を広げる仕掛け,取り組みを展開していく.
まちじゅう図書館の目的は,上述のように,地域コミュニティの強化という問題意識や現実での交流の重要性を踏まえて,地域で人々が対面で交流できる場所を生み出すことである.
吉野町には文庫やゲストハウス,コミュニティ施設など住民が使用することができる場所が既にあるが,それらに気軽に立ち寄る動機がないということがある.そこで,誰もが気軽に立ち寄ることができるように,上述したような場所に図書館機能を付加し,まちじゅうに図書館(シェアエコ拠点)を設置する.さらにそれらの場所を横断的につなぐことによって,吉野町全体を一つの図書館に見立てる本プロジェクトを推進している.
吉野町には公立の図書館がなく,また吉野の歴史や吉野杉の情報など町外からの訪問者が関心を持つ情報をまとめて提供できる場がない.まちじゅう図書館はこのような課題の解決にも寄与するものと考えている.
図書館機能の付加については,「すべての本棚を図書館に」することを目指す「リブライズ」というサービスを活用している.リブライズはバーコードリーダーがあれば,誰でも無料で図書の貸し出しを行うことができるサービスであり,このサービスを活用し,まちじゅう図書館プロジェクトを進めるなかで,住民と地域の本を共有すること自体がシェアリングエコノミーの実践であるとも言える.
民間の商店なども巻き込んで,複数の「図書館(シェアエコ拠点)」をつくり,それぞれがテーマ性を持った手作りの図書館とする.その場所では本をシェアするだけでなく,Webプラットフォームで出会った人々がサービスを交換する.これは,サービス交換の活性化と安全性の担保,コミュニティの形成に貢献するものと考えている.まさにWebで出会い,リアルで交流を深め,地域で信頼を共有するものである.

図2 吉野まちじゅう図書館

吉野町の事例②「関係人口創出」の推進

人手が不足する地方において地域の住民同士の助け合いの強化あるいは,外部人材との交流は重要なテーマである.
地域内外の人材をマッチングするシェアリングエコノミー事業者である株式会社エニタイムズ,株式会社SAGOJOと協力し,住民や旅人との相互の助け合いを促進することで,町における課題解決を進めるため,連携協定を2019年に締結した(図3).
そもそも,株式会社SAGOJOと吉野町が進める事業は,「関係人口」を創出し,将来的に移住へとつなげるためのものである.この取り組みを「TENJIKU」と称し,これまで町外の旅人を多く受け入れてきた.町外からの人材のスキルをシェアすることで,地域活力の低下を防ごうとするものである.
旅人にとっては観光ではない貴重な「住民体験」となり,地域にとっては貴重な若い世代の方との人材交流となる.新型コロナウイルスの影響による移動制限があるなか,人気のサービスである.
また,シェアリングエコノミープラットフォームを展開する「エニタイムズ」はスキルのシェアサービスを展開する.サービスを利用したい人とサービスを提供できる人のマッチングを行うものである.
株式会社エニタイムズと株式会社SAGOJOと3者で連携することにより,地域のお手伝い(課題)をエニタイムズによって「見える化」し,地域外から地方に人を送ることができるSAGOJOのサービスでお手伝い(課題解決)の人手を増やす.Web上できっかけを創出し,リアルな交流,課題解決を行う.新しいコミュニケーションの形が生まれ,新しい共助の形に発展している.

図3 3者協働の仕組み

吉野町の事例③空き家のシェアによる多拠点居住者の増加

最後に,吉野町に特化した事例ではないが,関連する事例を紹介する.シェアリングエコノミーが加速的に浸透していく中,月4万円で全国の拠点で「定額住み放題」サービス「ADDress(アドレス)」が誕生した.文字通り,アドレスの拠点として登録されている全国約200か所の住居で住むことができる.このように多拠点で生活する方々をアドレスホッパーと呼ぶようになった.
さらに新型コロナウイルス感染症拡大により,テレワークやリモートワークといった働き方,暮らし方の変化により多拠点居住が注目されるようになった.
アドレスは,空き家をはじめとした日本各地の遊休物件を活用し,地方に移住したい人に貸すことで空き家問題を解決すると同時に多拠点居住という新しいライフスタイルを提案し,豊かな社会を実現することを目指すといった理念が昨今の社会情勢にマッチしている.
吉野町にも2か所のアドレス拠点が誕生し,これまで多くの多拠点居住者が訪れ,地域の中でこれまでになかったコミュニケーションが生まれている.前述した「TENJIKU」の取り組みや,アドレスのサービス展開により,若い人材が地方に目を向けることになった.吉野町に住んではいないが,関心を持ち,何かしら関わりを持ちたい,町のために力になりたいという方が増えてきた.これらの方を総称して「関係人口」と呼ぶ.地方においては,この関係人口をいかに濃度を高めて創出するかが地方創生において重要なポイントとなっている.

図4 旅人のシゴト・役割の例
SAGOJOホームページより引用

新たな共助の形への期待

これまで述べてきたように,地方特有の小単位のコミュニティである町内会,隣組の維持が人口減少で難しくなっている.さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響で,人と人のコミュニケーション自体が変化しつつあるが,「共助」を行うには「ご近所さん」とのコミュニケーションは必要不可欠である.
このような状況で吉野町では,新たな共助の形としてシェアリングエコノミーの考え方を取り入れてきた.吉野町のような比較的高齢の方が多くお住いの町では,インターネット上だけのつながりでは共助の形は成立しない.オンラインとリアルを掛け合わせたつながりを実現し,誰もが安心して暮らすことができる町を目指している.
まちじゅう図書館では,本を介した共通の話題により,コミュニケーションの機会を増やすことができる.SAGOJOの旅人の中には,地域の方との交流により魅力を感じ,吉野へ移住する人がでてきた.
デジタル技術によりもたらされた新たな共助の形が,紀伊山地の山間の小さな町から始まろうとしている.

参考文献

内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/index.html(2022年2月18日アクセス)
一般社団法人シェアリングエコノミー協会
https://sharing-economy.jp/ja/(2022年2月18日アクセス)
吉野町,エニタイムズ,SAGOJOの3者で連携協定を締結
http://www.town.yoshino.nara.jp/oshirase/sogoseisaku/sagojo3.html(2022年2月18日アクセス)
『吉野まちじゅう図書館』事業について
https://www.town.yoshino.nara.jp/oshirase/sogoseisaku/post-151.html(2022年2月18日アクセス)

著者紹介

八釣直己

2009年より奈良県吉野町役場勤務.

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