コロナ禍での第4回日本サービス大賞

ようやく新型コロナ危機にも先にはっきりと光が見え始めた2022年12月6日,岸田内閣総理大臣をお迎えして,第4回の日本サービス大賞*1の表彰式が賑々しく開催された.内閣総理大臣賞に選ばれた株式会社エアークローゼット(以下,企業名の株式会社を省略)をはじめ30社が表彰されたが,いずれも各組織の代表者の出席のもと,各省大臣,JETRO理事長,茂木日本生産性本部会長,日本サービス大賞委員長から対面で直接,表彰が行われた.

今回の日本サービス大賞は,その募集が2021年の12月20日という,まさに新型コロナ危機の真っ只中に締め切られたため,応募が激減するのではないかと懸念されたが,実際には,多方面の手厚い支援を得て,第2回に比べて大幅に応募が増加した第3回並みの749件という多くの応募をいただくことができた.

その審査に際しては,価値共創のサービスモデル,いわゆるニコニコ図を審査委員の間で共有して,サービス学会の支援も受けながら,サービス学に裏打ちされた審査を心がけた.

その結果選定された30社は,表1に示すとおりである.内閣総理大臣賞とJETRO理事長賞は1件であるが,経済産業大臣賞,総務大臣賞,農林水産大臣賞,国土交通大臣賞,地方創生大臣賞とも2件から3件の複数件が受賞した.また,今回は,大臣賞の受賞には至らなかったが日本サービス大賞委員会が大臣賞並みと評価した6件は,優秀賞と審査員特別賞のダブル受賞となった。加えて, 優秀賞の受賞は9件であった.

受賞企業を従業員規模別にみると,今回の特色が際立ってくる.第1回から第3回までは,従業員数1,000人以上の大規模企業がほぼ4割近くを占めていたが,第4回には,約3割に減少した.既存大企業は,さすがに新型コロナ危機の下で経営環境の激変に対応するのに忙殺され,新たなサービスイノベーションを仕掛ける余裕を充分持ちえない状況が続いたと思われるが,それでも約3割,新たな革新に挑む大規模企業の受賞企業が存在したという事実は注目に値しよう.

その一方で,従業員99人以下の小規模企業の比率は,第2回が3割,第3回が4割だったのに対して,第4回は5割近くまで拡大しているのである.

また,受賞企業を会社設立後の年数別分布で見ると,第3回は,設立後9年以下が20%を占めていたが,第4回には,2倍以上の43%まで急増している.

そして,最高賞としての内閣総理大臣賞は,第1回がJR九州,第2回が三菱地所,第3回が小松製作所と,いずれも一部上場の大企業が選定されてきたが,第4回には,はじめて,従業員数が100人台のスタートアップ企業であるエアークローゼットが選定されたのである.このように,大企業が環境変化対応に追われる中,スタートアップやベンチャー企業が,厳しい経営環境の中でも果敢に新たな市場の創出を目指すサービスイノベーションに挑戦していたということが,日本サービス大賞の受賞企業からも分かるのである.

以下では,このような日本サービス大賞受賞企業が,新型コロナ危機に席捲される日本経済の中で,どのような特色を持ってサービスイノベーションを生み出していったかを,それぞれのサービスの本質に着目して見ていきたい.

表1 第4回日本サービス大賞受賞企業一覧*1

社会システム型サービスイノベーション【S】

第4回の日本サービス大賞が,2021年12月に応募を締め切ったことは,応募数の減少への懸念と同時に,応募されるサービスが,ほとんど新型コロナ危機への対応や,それを回避しようとするサービスばかりになってしまうのではないかという懸念も抱かせた.しかしながら,これも予想を裏切り,直接的に新型コロナ危機対応を謳うサービスは意外に少なく,むしろ,企業活動には厳しい環境であるにもかかわらず,地球環境問題や医療健康問題,さらにはグローバルな貧困問題等の,スケールの大きな社会的な課題の解決に,真正面から挑戦しようとするサービスが多かったのが,第一印象であった.

具体的な受賞企業の事例で見ていくと,内閣総理大臣賞であるエアークローゼット自体が,このような特色を持っている.エアークローゼットのサービスは,もちろん30代から40代の忙しく働く女性に,そのタイムパフォーマンスを上げ,ワクワク感をもたらす新しい組み合せの洋服を提供することが事業の肝になっていることは間違いないが,同時に,この業界がもつ,生産される衣服の約5割が売れ残り,その9割以上が焼却・埋立て処分の対象となるという,いわゆる「アパレル廃棄問題」への挑戦が,事業立ち上げの早期から経営上の重要な価値とみなされ,間接的ながら,サステイナビリティや地球環境問題への貢献が当初からサービスモデルの中に組み込まれているのである.

より直接的に医療健康問題に貢献しようとするサービスには,優秀賞と審査員特別賞のダブル受賞をしたメンタルヘルステクノロジーズがあげられる.産業界では,従業員のメンタルヘルス問題の深刻化が叫ばれて久しいが,企業による産業医の確保がままならない状態が続いている.そのような中で,メンタルヘルステクノロジーズはクラウドサービスで企業に産業医のサービスを提供し,メンタル面のカウンセリングやストレスチェック等を通じたメンタルヘルス問題への挑戦を通じて医療健康問題解決に貢献しようとしている.

隣接分野の介護福祉問題に対しては,国土交通大臣賞のマザーズリヴ・サポートイン南知多が,日々介護に追われる介護家族にとってほっとする時間を提供する家族旅行に対して,障害者や高齢者介護のプロがきめ細かく寄り添う本格的なバリアフリー旅館サービスを愛知県や三重県で展開している.たとえば,これまでは,障害者や高齢者は,せっかく旅行に出ても夕食は家族とは違うものを食べざるを得なかったのを,同じメニューで,刻み食,ミキサー食を準備することで同じ料理を味わえるというようなことを可能にする福祉特化型旅館サービスという形で,介護福祉問題の解決に貢献しようとしている.

子育て支援問題に挑戦しようとしているのは,BABY JOBである.保育園に通う子供を持つ親は,毎日紙おむつを園に持参し,使用後の紙おむつを帰りに持ち帰らなければならない場合が多いが,BABY JOBは,このような状況に対して親や保育士のために紙おむつの定額使い放題の「手ぶら登園」サービスを展開している.ただ,BABY JOBは,自分たちが紙おむつのサブスクの会社だと呼ばれることを本意としていない.自分たちは,あくまで,本来楽しいものであるべき子育てが,今の日本ではそうなっていないのに対して,本当に「子育てを楽しくする会社」になりたいというパーパスを掲げていて,「手ぶら登園」以外に,保育士向けのEコマースや保育園向けの教育コンテンツサービスを展開する等して,子育て支援問題に直接的な貢献を行っている.

このように,今回は,新型コロナ危機問題をはじめとして,社会的な課題に挑戦しようとするサービスが多かったのであるが,数えてみると,受賞企業30社中,実に18社がこのカテゴリーに属するサービスであった.

2023年3月に京都大学で行われた第11回国内大会の招待講演で筆者は,このような,社会的な課題の解決に,企業活動を通じて,社会システムに働きかけることによって貢献しようとする,明快なパーパスを持ったサービスイノベーションを,「社会システム型サービスイノベーション」と呼んだ.今回の日本サービス大賞の最大の特色は,この社会システム型サービスイノベーションが,全体の60%という多きに亘ったということである.

DXと日本型デジタルプラットフォーム【D】

このような社会的な課題に挑戦しようとするソーシャルなサービスをSとすると,第2の特色は,デジタル化のDである.サービスを効果的に作りとどけるために,AIやIoT等の先端の情報技術を含むデジタル技術を有効に使いこなすサービスが非常に多かったことである.デジタルの分野では,日本はよくデジタル敗戦だとか,DXに遅れているということが言われるが,日本サービス大賞の受賞企業がいずれも当たり前のようにデジタル技術を存分に使いこなしているのを見ると,これは一体どこの国の話だろうか,という感を強くした.

これも事例を見ていくと,総務大臣賞のunerryは,従業員39人のスタートアップが,全国210万ヵ所,月間200億件のリアルタイムの人流ビッグデータを構築してしまった事例である.これまで人流の位置情報は,携帯電話とGPSの組合せで把握されてきたが,実は,店舗や大型商業施設等の屋内に稠密に設置されているビーコンでもそれは可能である.unerryは,ビーコンシェアというビーコンの相互連携・相互運用のシステムを開発することにより,瞬く間に日本中のビーコンを連携して人流を把握できるデジタルプラットフォームを開発してしまった.しかも,データの取得・活用の個別許諾を徹底し,最新の個人情報保護法にも準拠する信頼性の高いプラットフォームを構築したのである.ここでは,データサイエンティストが活躍するのは,当たり前だが,同時にカスタマーサクセスチームが,人流データの利用者の立場にたって,次々に新たな利用形態を開発している.

同じく総務大臣賞のプラグは,飲料メーカー等のパッケージデザインの生産性向上に貢献しようとしている.プラグでは,AIが1時間に約1,000件のパッケージデザイン代替案を生成するが,この会社の特色は,それらに地道な市場調査の積み上げが伴っており,生成されたデザイン案のそれぞれに消費者がどう評価するか,という情報が付加されていることである.このデザイナーとリサーチャーの連携により,プラグは,デザインの生産性という,生産性向上問題の聖域に切り込もうとしている.

すこし変わったところでは,住宅資本ストックの,いわゆる空き家問題に挑戦するアドレスがあげられる.この空き家問題という出口の無い厳しい問題にほとんどの自治体が立ちすくんでいるなかで,民間企業であるアドレスは,全国200ヵ所以上の空き家をリノベーションして,定額住み放題で多拠点居住を可能にするプラットフォームを確立している.それぞれの空き家には,「家守」とよばれるコーディネータが配されており,住民の課題解決と満足度向上にあたっており,空き家問題だけでなく,デジタル田園都市構想にも貢献するものとなっている.

このような何らかの形でデジタル技術を活用しているサービスが,今回は,全30社中,27社までにのぼっており,受賞企業の中では,デジタル化は当たり前のサービスの実現手段となっており,時としてみられる最新デジタル技術の導入が目的化しているケースは皆無であった.

しかも特筆すべきことは,そのうちの約4割は,GAFA(GAMA?)のように徹底してヒトの関与を排してデジタルプラットフォームの効率性を追求しようとするのでなく,あえて,これまで述べたようなカスタマーサクセスチーム,市場調査リサーチャー,家守だけでなく,エアークローゼットのパーソナルスタイリスト,キュレーター,コンシェルジュ,オープンイノベーション・コンサルタントといった,ヒトを標的顧客とシステムの間にかませて価値共創を強化する役割をはたさせるというスキームをとるデジタルプラットフォームであったということである.筆者は,これを「日本型デジタルプラットフォーム」と呼んでいるが,第4回の日本サービス大賞では,デジタル化の27社中,11社にのぼっていたのである.このGAFAとは一味ちがうデジタルプラットフォームが,単にDXを進めるだけでなく,価値共創を重視する日本的なデジタルなサービスイノベーションを生み出すものと期待できる.

グローバル化のサービスイノベーション【G】

今回の日本サービス大賞の第三の特色は,グローバル化志向のGである.新型コロナ危機は,企業によるグローバル活動を極めて困難にした.しかしながら,そのような環境下でも,決してあきらめずにグローバル化に果敢に挑戦した大企業のサービスや,事業立ち上げの初期からグローバル化を目指すスタートアップやベンチャーのサービスが多かった.

グローバル化志向の代表は,JETRO理事長賞のジグザグである.ジグザグは,国内にECサイトを持つ事業者がJavaScriptのタグを1行加えるだけで,そのECサイトを,たちどころに越境ECサイトに転換して,アメリカや中国に対しても販売できるようにする.この従業員50人足らずの企業は,世界125ヵ国で各国の法令に準拠した海外決済・海外配送代行のオペレーションが可能な体制を整えている.大手を含む1,300社がすでに利用しており,コロナ禍で,オーダーは7倍に拡大している.

経済産業大臣賞のマクアケは,クラウドファンディングの手法を用いて,企画段階から将来の顧客と繋がることができ,作る前に売ってしまう無在庫先行販売の仕組みにより「応援購入」というスキームを確立しているが,その成長には,顧客企業の魅力を引き出し,品質の事前審査によって信頼性も担保するキュレーターが重要な役割をはたしている.マクアケは,2019年には,すでにこのシステムのグローバル版を開始していて100万人の利用者を数え,2021年からは,海外バイヤーが,ジャパンクール等を卸値で仕入れることができる「応援仕入れ」のスキームも開始している.

Global Mobility Serviceは,特許取得済みの自動車エンジンの遠隔起動制御技術を開発しており,借りた金を返せなければ遠隔でエンジンが止まってしまう仕組みによって,発展途上国の真面目に働く貧困層に自動車金融を受ける機会を提供している.この事業のグローバル化の特質は,最初から海外発であることで,2015年にフィリピンでまず事業をはじめ,カンボジア,インドネシアに展開し,コロナ後は日本に逆輸入して,低所得者層に自動車金融の機会を提供している.

これまでの日本経済のグローバル化は,輸出と海外直接投資を軸に展開されてきたが,これらのグローバル化は,そのようなオーソドックスなグローバル化ではなく,グローバル化の手法そのものを多様化するものとなっている.他にも,ダイキン工業がタンザニアで,エアコンのサブスクによって市場を確立しようとしたり,有田焼の徳永陶磁器が外国人の参加による伝統工芸のグローバル化に取り組んだり,アイスタイルやヤマハがAmazonやDAZNといったグローバルプレーヤーと組むことによって新たなグローバル化の姿を模索しようとしており,まさにグローバル化のサービスイノベーションというべき状況が生まれている.

「日本のサービスイノベーション2022」

2022年は,人口が持続的に減少する中で新型コロナ危機の経済的インパクトを克服しなければならなかった日本のサービス産業にとって,このまま持続的なマイナス成長に甘んじるか,それとも,サービスイノベーションの全面展開を軸として日本経済の新たな姿を模索するかという,分水嶺の年であった.

この分水嶺の年に発表された第4回日本サービス大賞の30社の受賞企業は,卓越した顧客との価値共創の仕組みを確立した上で,パーパスの中に社会システム型サービスイノベーションを組み込んでサステイナビリティやウェルビーイングを志向する社会システムの構築に貢献し(S),デジタルトランスフォーメーションを行うのは当然として,システムと標的顧客の間にヒトをかませて価値共創を強化する日本型デジタルプラットフォームを活用しつつ(D),多様性に満ちたグローバル化の姿(G)を志向していた.この,SDGにサービスを意味する小文字のsを加えた「日本のサービスイノベーションのSDGs」は,2020年代の日本経済が追求すべき「サービスイノベーションの全面展開」のあるべき方向性を示してくれている.

そして,2007年の設立以来,サービス産業の生産性向上とイノベーションの推進に向けてたゆみない努力を続けてきたサービス産業生産性協議会は,日本サービス大賞だけでなく,日本版顧客満足度指数(JCSI)調査等の多様な活動の中で,第4回日本サービス大賞受賞企業30社以外にも,その3倍を超える優れたサービスイノベーションの模範となる事例があることを認識している.

それをふまえて,サービス産業生産性協議会では,2023年3月28日に,日本サービス大賞受賞企業30社を含む92社の事例を包含した「日本のサービスイノベーション2022*2 を公表した.これらは,国連のSustainable Development Goalsだけでなく,「日本のサービスイノベーションのSDGs」を超えて,サービスイノベーションの全面展開の在り方に,より深い学びと勇気を与えるものとなることを確信している.そして,それらは,日本のサービス産業のみならず,サービス学,サービソロジーの研究者にとっても,今後の発展に多大の寄与をなしうるものになるはずである.今後,第4回の日本サービス大賞受賞企業とともに,「日本のサービスイノベーション2022」に対しても,サービスに対する科学的・工学的アプローチが活発に行われることを強く期待したい.

著者紹介

村上 輝康

産業戦略研究所代表.サービス学会顧問.日本生産性本部理事・サービス産業生産性協議会幹事・日本サービス大賞委員会委員長.情報学博士(京都大学).


  1. サービス産業生産性協議会 (2022) 第4回日本サービス大賞, https://service-award.jp/result04.html(最終アクセス日:2023年4月3日)
  2. サービス産業生産性協議会 (2023). 日本のサービス・イノベーション2022, https://www.service-js.jp/modules/contents/?ACTION=content&content_id=1807(最終アクセス日:2023年4月3日)

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