「サービス生産性」が,Webマガジンでの重要テーマの一つとして決定した.「サービス生産性」とは,サービス産業の生産性を指すのではなく,サービス社会に適した生産性だと捉えていただきたい.
サービソロジー24号(Vol. 6, No. 4)の特集が生産性議論だったことは,記憶に新しいのではないだろうか.その特集では,国や企業,経済学や経営学といった多様な視点から生産性について議論が交わされた.それぞれの視点で共通しているのは,“既存の生産性指標では測れないものがある”,“新たな視点を含める必要がある”ということだ.測定できるものだけでなく,測定できないものの方にも価値があり,これを包含するための新たな視点が必要だというわけである.
日本では,日本再興戦略改訂2015を皮切りに,生産性向上に関する施策や提言がなされている.その結果,効率化につながるロボットやAIの導入がさまざまな業界で進んだ.次は,価値を向上させるための行動を取るときであろう.そのためにも活発な議論があったほうがいい.
生産性議論は古くて新しい.特に製造業では,Frederick W. Taylor(1911)が科学的管理法を提唱した100年以上前から議論がなされてきた.この間,さまざまな取り組みや努力によって,価値の増加,高効率化が進んだ.我々の生活している現代社会は,この100年間の恩恵を受けていることは間違いない.だからといって,同じことを続けていてもこれまで通りに生産性が向上するわけでもないことは自明だ.
先進国をはじめとした多くの国では,人々の価値観が物的豊かさから精神的豊かさへ重視点が移行したサービス社会となっており, これまでの生産性指標では測れない知識, 感情を考慮した新指標群が提案されている(戸谷 2020).情報通信技術の急速な発展に伴い,新たなサービスが次々と生まれている.これらのサービスでは,これまで以上に知識や感情といった精神面の価値の重みが増すだろう.
そこで,「サービス生産性」特集では確かな未来に進む一助となるべく,さまざまなサービスを踏まえながら,サービス社会に適した生産性のあり方を多面的に議論していきたい.
参考文献
Taylor, F. W.(1911).The Principles of Scientific Management. Harper & Brothers.
戸谷圭子 (2020). サービス化社会に求められる新たな生産性のかたち. サービソロジー, 6(4), 30-35.
著者紹介
丹野 愼太郎
㈱マーケティング・エクセレンス コンサルタント.1978年7月1日生まれ.2001年同志社大学工学部物質化学工学科卒業,2013年同志社ビジネススクール修了(経営学修士).産業ガスメーカー勤務,関連会社役員,産業技術総合研究所を経て現職.製造業のサービス化における研究等に従事.