協力支援に至った経緯

はじめに,全国のコロナウィルス感染症COVID-19対策に従事する皆様に心より感謝と敬意を表します.

2020年2月28日,北海道は全国に先駆けてCOVID-19の拡大防止策として緊急事態宣言を発出しました.懸念された感染拡大は,一旦回避されたように思えましたが,第2波ともいえる感染拡大の波が札幌市に押し寄せ,4月12日には北海道・札幌市緊急共同宣言*1が発出され,北海道は再び緊急事態宣言の対象になりました.連日の報道で知る感染者数の増加や医療従事者の過酷な現状に,同じ看護職として「今,私たちに協力できることは何だろうか?」と思っていた矢先のことでした.4月17日,厚生労働省医政局看護課から看護職の免許を有し,養成所や大学等で教育活動に携わっている教職員等にCOVID-19対策に関連した活動への協力依頼に関する事務連絡が届きました.時を同じくして,札幌市新型コロナウィルス感染症対策室(以下,対策室)に支援に入っていた救急関連の仲間からの1本の電話をきっかけに,対策室の現状や課題を知ることになりました.その翌日,札幌市当局から札幌市立大学看護学部にCOVID-19対策への協力依頼があり,5月1日から31日までの期間において協力する決定がされました.

写真. 教職員を派遣することを決定した札幌市立大学

協力依頼の内容は2つ,患者調査・健康観察とCOVID-19軽症者の入院調整への支援でした.これらに協力できる教職員を募集するにあたり,教授会において看護学部長より依頼内容を説明して協力を募ったところ,18名の教職員が自ら名乗りを上げてくれました.学内における支援体制は,対策室からの依頼内容に基づいて2つの班を結成し,各班2名ずつ交代制の体制を整え,支援を開始することとなりました.

患者調査・健康観察班への支援内容

患者調査・健康観察班の業務は,PCR検査班からCOVID-19陽性患者の報告を受けて活動が始まります.専門的には,積極的疫学調査*2と呼ばれている業務です.まず患者本人に対する陽性の告知を行い,入院または宿泊療養が開始されるまでの自宅待機を依頼する電話をかけます.同時に個人属性に関する詳細を尋ね,情報公開に関する協力をお願いします.さらに,症状が出始めた日から2日間程度さかのぼってご本人の行動歴と同席していた方々の詳細についてお聞きします.これらの聞き取りは,プライバシーに踏み込んだ内容であり,また相当な苦しい症状を呈しているご本人の様子を電話ごしに察しながらの長時間におよぶ聞き取り調査になります.患者・保健師双方にとって辛い作業ではありますが,感染拡大を防ぐための協力を切にお願いしながらの作業でした.

 次に,この積極的疫学調査によって判明した濃厚接触者に対しては,患者との最終接触日の翌日から数えて14日間にわたる毎日の健康観察(電話)を行います.この健康観察の期間において,症状の出現や悪化の兆候が見られた場合には迅速に対策室の医師に相談し,その判断に応じてPCR検査受付班と調整します.このようにして,濃厚接触者からの2次感染を早期に発見して療養につなげることにより,その先の3次,4次の感染拡大を防ぐことを目指しました.しかしながら,感染拡大がピークを迎えている最中にあってPCR検査の十分な体制が整わず,限られた医療資源のなか,受話器を握る看護師や保健師らにとっては命の倫理と向き合いながらの健康観察でした.

大学から支援に入った教職員は,これら第一線の業務を直接担当することの他に,健康観察に従事する看護師らからの相談や保健所職員との間に入って,その連絡調整の役割を担いました.私たちが支援に入ることで保健所の保健師らは,より管理的な業務や保健所の通常業務にも注力することができるようになりました.

入院調整班および宿泊療養調整班への支援内容

支援初日から2日目までは,札幌市保健所内に設置された対策室で,当初からの協力依頼内容にあった入院調整班において,COVID-19軽症者の入院調整に関わる連絡業務を担当しました.対策室では,札幌医科大学救急医学講座の医師らが北海道庁と札幌市と連携しながら,札幌医療圏入院調整チームを組織していました.そこには北海道からの要請で看護職も支援に入っていました.そこで,すでに対策室で活動していた看護職と情報や問題・課題を共有しながら,支援していくことにしました.

支援3日目には,札幌市内の2つの宿泊療養施設に関わる問題や課題に対応するため,宿泊療養調整班に移動しました.宿泊療養調整班では,医師を含むチームで,現在の問題や課題を整理・共有し,役割分担しながら取り組みました.主な内容は,宿泊療養施設に従事する看護師の確保,看護師の業務に対する不安等への対応,PCR検査の安全かつ円滑な実施への支援等を行いました.宿泊療養施設に従事する看護師は,通常とは異なる環境や健康観察業務,特にPCR検査に関する業務への不安があるため,保健所の保健師とともに宿泊療養施設を1日に1回ラウンドし,その場で説明したり,問題や不安に耳を傾けながら対応しました.支援22日目には,感染者数の減少に伴い,宿泊療養施設も削減されることになり,5月22日で私たちの支援は終了となりました.

協力支援活動を終えて

COVID-19の拡大は,人々のこころと身体を脅かすとともに,医療従事者を過酷な環境に直面させました.看護職には,人々の健康な生活の実現に貢献する使命があります.今回の支援活動を振り返って思うことは,看護の免許を持つ大学教職員の組織力の高さとフットワークの柔軟さがあったからこそ,この支援を継続することができたと感じています.今回,直面した試練は大学としても有事の事態であり,遠隔授業の導入など,まさに分単位で情報が更新される中で,その対応に追われるという状況にありました.それにも関わらず,組織の壁を超えてでも,専門外の業務であっても,「なんとか力になりたい!」という看護職としての職能の共同体意識の高さには,改めて感心させられました.

 今回のCOVID-19に限らず,近年はまさに想定外の出来事が続いています.これからの大学教育においては,人々がこれまでに経験したことのない未知の危機に遭遇しても,柔軟に対応できる高い能力をもった人材を養成していくことが求められています.今回の経験は教職員の実地研修としても非常に貴重な機会であり,これからの大学教育に還元していけるものと期待しています.

著者紹介

菅原美樹(すがわら みき)

札幌市立大学看護学部・大学院看護学研究科准教授,専門分野は「救急看護とクリティカルケア看護」,
URL: https://www.scu.ac.jp/profile/miki-sugawara/

本田 光(ほんだ ひかる)

札幌市立大学看護学部・大学院看護学研究科准教授,専門分野は「公衆衛生看護学」
URL:https://www.scu.ac.jp/profile/hikaru-honda/

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