コロナウィルス感染症COVID-19の流行に伴い,人と会うハードルが一気に上がり,当たり前に行っていたリアルなコミュニケーションや移動が制限され,ライフスタイルはリアル中心からデジタル中心へと変化した.職場ではWeb会議システムを活用したテレワークへの移行が進み,家庭ではオンラインショッピングやオンラインデリバリーサービスなど,リアルサービスからデジタルサービスへの移行が進んでいる.その結果,デジタルでも十分に仕事や生活が成り立つという事実が認識されはじめ,これまで以上に,リアルであることの意義が問われている.

しなしながら,リアルが持つ,人や場所との偶然的な出会いから生まれるインスピレーションにこそ,人生の豊かさや価値を感じる人も少なくないはずである.一方,デジタルを活用した社会参画やライフスタイルは,不要な移動を無くし,物事を効率的に進めることに向いている.このリアルの良さとデジタルの良さの両方を取り入れた空間が「アバターシティ」である.

アバターを社会インフラとするアバターシティとは

avatarin株式会社が考えるアバターとは,社会課題決のために考えられた遠隔操作ロボットである.

ロボティクス,AI,VR,通信,触覚技術などの先端技術を結集し,インターネットを経由して遠隔地に置かれたアバターロボットを操作し,意識・技能・存在感を伝送させる.人々が繋がり,コミュニケーションや作業を行うことができる次世代モビリティおよび人間拡張テクノロジーである.

このアバターを誰でも自由に使うことができる世界初のアバタープラットフォームが「avatarin(アバターイン,URL:https://avatarin.com/)」である.

アバターシティは,街のいたるところに汎用的なアバターを設置し,「avatarin」プラットフォームのサービスを介して,デジタルからリアルな世界へ接続して得たデータをもとにバーチャルな世界を構築していく仕組みである.

ユーザーはリアルとデジタルの区別なく自由にアバターで行き来しながら,目的に合わせて,自分の行きたいところ,やりたいことを選んで,体験することができる.同時に,行動データや運動データ,映像データや音声データ,表情データなど,さまざまなデータが取得されて,街の三次元データが生成される.リアル世界を写したバーチャル世界(=ミラー環境)がリアルタイムに構築される.バーチャルな世界では,アバターを無限に効率的に操作することができ,また,そのデータはリアル世界のアバターの性能やサービス向上,リアルなまちづくりへとフィードバックされる.このサイクルを続けることで,より暮らしやすい街へと改善していくことが可能となる.

図1  アバターシティ(イメージ)

アバターシティで実現するまちづくりとライフスタイルについて

アバターシティは,まちづくりとライフスタイルにどのような変革を与えるのか?

アバターを活用したショッピング体験を提供する店舗の場合,下記のような例が挙げられる.

  • 時間や距離に関係なく,集客することができる.
  • リアルではアバター利用台数に限界があるが,バーチャルでは無限にアバターが利用できる.
  • アバターの行動データを元に店舗や店員の販売効率やサービスの向上に繋げることができる.
  • コロナ禍のような対面コミュニケーションが制限されている状況下でも,リアル同様の接客ができる.

またアバターの利用者側のメリットとしては,

  • 物理的な制限や身体的な制約を受けずに,遠隔で動きながらショッピングを楽しむことができる.
  • 短時間で複数店舗を巡ることができる.
  • リアル世界と同様に人とのコミュニケーションや新たな発見ができる.
  • コロナ禍のような状況下でも,行動を制限されない.

などが挙げられる.

今回のCOVID-19では,デジタルの利便性が注目され,改めて都市部に住む必要性が問い直されている.しかし,都市には,時間的・空間的価値,さまざまな人や価値観を交流させる力があり,文化やインフラを効率的に発展させることができる.一見無駄に見える行動やコミュニケーションがセレンディピティを生み出す.

例えば,コロナ禍の緊急事態宣言で休業を余儀なくされた書店での限定イベントでは,書籍コンシェルジュがアバターで来店した顧客に選書サービスを行うという実証実験を行った.体験者からは「アバターで店内を動きながらコンシェルジュと一緒に本を探すことで,自分が想像もしていなかった本に出会えたり,コンシェルジュとの会話からインスピレーションを受けることができた.リアルなショッピングよりも新しい発見があった.」とのコメントをもらっている.

図2  書店での限定イベントの風景

アバターシティでは,リアルの場で偶然起こるセレンディピティや人間味のあるコミュニケーション,空間のそのものを伝送することができる.リアルの魅力とデジタルの利便性を融合し,リアルな街の上にバーチャルな街を重ねることで,新しい社会のインフラやライフスタイルが作られ,都市の価値がアップグレードされていく.近い将来には,世界中の人々が,アバターシティの市民として,ひとつの都市のまちづくりやコミュニティに関わることも可能になるはずである.

著者紹介

深堀 昂

avatarin株式会社 代表取締役CEO
https://avatarin.com/
2008年に,ANAに入社し,パイロットの緊急時の操作手順などを設計する運航技術業務や新たなパイロット訓練プログラム「B777 MPL」立ち上げを担当するかたわら,新たなマーケティングモデル「BLUE WINGプログラム」を発案,Global Agenda Seminar 2010 Grand Prize受賞,南カルフォルニア大学MBAのケーススタディーに選定.2014年より,マーケティング部門に異動し,ウェアラブルカメラを用いた新規プロモーション「YOUR ANA」などを企画.2016年には,XPRIZE財団主催の次期国際賞金レース設計コンテストに梶谷ケビン(avatarin株式会社 取締役COO)と共に参加し,アバターロボットを活用して社会課題解決を図る「ANA AVATAR XPRIZE」のコンセプトをデザインしグランプリ受賞,2018年3月に開始し,現在82カ国,820チームをこえるアバタームーブメントを牽引中.2018年9月,JAXAと共にアバターを活用した宇宙開発推進プログラム「AVATAR X」をリリース,2019年4月,アバター事業化を推進する組織「アバター準備室」を立ち上げ,共同ディレクターとしてプログラムをリード.
2020年4月1日にANAホールディングス発のスタートアップとして「avatarin株式会社」を設立.
「アバターを,すべての人の,新しい能力にすることで,人類のあらゆる可能性を広げていく」をミッションに掲げ,新たな人々の移動手段や人間拡張手段として,「アバター」を社会インフラ化することを目指している.

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