地域活性化

本稿では,「地域活性化」を,サービスデザインの観点から捉え直してみることを試みる.それにあたって,地域活性化という概念について,改めて調べてみた.すると,日本政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」における議論(内閣府 2015)によれば,日本で語られている地域活性化(または地方創生)とは,もともと,“東京一極集中を是正”し,“地方に「しごと(雇用)」と「ひと」の流れをつくる”ことを目的とした取り組み全般を指す概念のようである.地域経済の活性化と人口増加が重要である点について異論はないが,この目標設定は,資本主義的な考え方に少し偏っているのではないだろうか.高齢化が進み,国全体の人口もどんどん減少していく今後の社会では,経済の活性化や人口増加には必ず限界が訪れる.また,ウェルビーイング(Calvo 2017)やサーキュラーエコノミー(Korhonen 2018)といった,新たな価値観も重要視されつつある.そのため今後は,資本主義的な価値観に限らない,人々がその人らしくと暮らせる(つまり,“ウェルビーイング”な)持続的な地域をめざすことの方が重要だと考えている.そこで本稿では,地域経済の活性化と人口増加だけに論点を絞らず,少し抽象的ではあるが,ウェルビーイングで持続的な地域をつくることを地域活性化だと捉える.

サービスデザイン

本稿におけるもうひとつのキーワードは,「サービスデザイン」である.サービスデザインとは,広く言えば,新たなサービスを創出する,もしくは既存のサービスを改善する行為の総称である.サービスデザインは非常に広範な理論背景を持つ概念であり,ユーザの体験をデザインするUser Experience Designの方法論や手法をベースにしている研究コミュニティや,工学設計(Engineering Design)をベースにしている研究コミュニティなど様々なアプローチがある.本稿では,サービスデザインの定義や関連理論等の解説は行わないが,ご興味のある方は筆者の論文(赤坂 2020)をご参照いただきたい.
先に述べたように,地域活性化がウェルビーイングであり持続的な地域をつくっていくことだとすると,「地域活性化のためのサービスデザイン」とは,どうあるべきなのだろうか.本稿では,地域活性化に関する先進的な国内事例を見つつ,このテーマについて議論したい.

地域活性化に関する事例

「地域活性化のためのサービス」という文脈では,農業のICT化のためのサービスソリューションや,伝統工芸品のサプライチェーンの生産性向上のためのサービスなど,何らかの領域に特化したサービスが議論されていることが多い(総務省 ICT地域活性化ポータル).これらのサービスは領域限定的な取り組みであり,こういったサービスにより地域の部分的な課題は解決され,その積み重ねによって,地域全体が活性化されるという可能性もありうる.しかしながら,地域全体のウェルビーイングや持続性を本質的にめざしていくのであれば,領域限定的,個別的な事象・課題だけではなく,地域全体の構造(アーキテクチャ)をよりよくすることにフォーカスすることが重要になる.この議論は,カーネギーメロン大学(CMU)が提唱しているTransition Design(社会的移行のためのデザイン)のコンセプト(Irwin 2015)にも重なる.
そこで本稿では,こういった新たな視点,すなわち,地域全体の構造をよりよくすることにフォーカスした,2つの事例を取り上げ議論する.1つは,地方自治体(村)が地域の企業と協業しながら地域活性化を行っている事例である.もう1つは,民間企業が新たな立ち位置で地域活性化に取り組んでいる事例である.

西粟倉村

最初に紹介する事例は,岡山県の西粟倉村における地域活性化事例である.西粟倉村は,岡山県北部の山間地域にある小さな村だが,「百年の森林構想」を掲げ,様々な地域ベンチャー(ローカルベンチャー)が起業しており,その結果として,移住者も増え続けている.筆者も,数年前にこの村を訪れ,施設見学や関係者との対話を行ったが,様々な志を持った人々に溢れた村であり,非常に感銘を受けた.
西粟倉村の特徴的な取り組みのひとつに,平成27年から始めた「ローカルベンチャースクール(LVS)」がある.LVSは,地域で起業をしたい人に対して,最大3年間というタイムスパンで一定の活動費を村から提供するとともに,行政(村役場)や先輩起業家との対話など,起業と自立に向けた“学びの場”も提供する事業である.この取り組みの結果として,西粟倉村には,モンテッソーリ教育やジビエ加工業など,多様でユニークなローカルベンチャーが生まれ,起業のための移住者が増えている.
また,西粟倉村では,2021年から,LVSに代わる新たな仕組みとして,「TAKIBI」というプログラムが始まっている*1.TAKIBIは,地域発信の事業課題や事業アイデア等をベースとして,そこに共感するインターンやプロボノ(知識やスキルを活かして貢献するボランティア活動やその人のこと)の方々を集め,共に事業を創出していくプログラムである.地域の外の起業家の想いやアイデアが起点となっていたLVSから,地域内の人々やプレーヤの想いやアイデアが起点となるTAKIBIへの移行を進めていくことにより,地域の人々がより主体的に関わることができる仕組みを実現することを狙っている. これらの,LVSやTAKIBIといった仕組みは,地域と起業したい人々をつなぐ“中間支援組織”である,エーゼロ株式会社*2によって企画・運営されている.また,西粟倉村では,LVSやTAKIBIのような地域におけるサービス・事業創出支援の仕組みをつくるだけではなく,行政職員の意識改革や縦割り構造に捉われない組織づくりなども並行して進めることで,今や,地域活性化の先進地域として全国的に注目を集めるまでに至っている.

地域創生Coデザイン研究所

次に,企業が新たな立ち位置で地域活性化に挑んでいる先進事例として,NTT西日本が2021年7月に設立した「地域創生Coデザイン研究所*3(以下,Coデザ)」を紹介する. Coデザは,持続的な地域社会への変革を見据え,人々が主体的に共創できる社会の実現をめざすために設立された組織である.具体的には,暮らしを統合的に捉えた「課題探索」から,持続的な仕組みとして回りはじめる「社会実装」までの一連の活動を,地域の人々と実施し,地域活性化に向けた研究事業や地域課題のコンサルティング事業に取り組んでいる. Coデザの特徴的な点は,地域活性化を図1に示すスコープで捉えていることである.すなわち,Coデザでは,社会課題を解決するサービスを創出する「地域のビタミン」活動だけでなく,その課題の根本にある,行政の政策や地域コミュニティ,産業構造などの社会システムの再構築(「地域の体質転換」)に合わせて取り組んでいる.一般的に,企業が地域活性化に関わるときには,自社の技術やソリューションを用いて何らかの地域課題を解決するためのサービスづくりだけを行うことが多い(図1における左上の「ビジネス開発」のみを取り組むなど).しかしながら,そういった取り組みだけでは,表面的な課題解決や一時的な実証実験で終わってしまい,地域が企業の“実験体”として利用されてしまうことも少なくない.これに対して,Coデザは,自治体や住民,他の企業との共創を通じて,「地域の体質転換」を志向することで,地域活性化を統合的に実現するアプローチをとっている. 具体的には,地域の生活者や行政と連携して中間支援組織(例えば,大牟田市における「大牟田未来共創センター*4」)を立上げ,その組織を中心に,地域の生活者が主体的に関われるプロセスや,社会システム転換に向けて問いを深める対話の場を持つことで,地域で持続的な活動や変化を生む仕組みを構築している(木村 2021).認知症ケアのまちとして有名な大牟田市は「人がまんなか」を理念にまちづくりに取り組んでおり,これに共感する地域内外の人々が集まり共創活動が行われている.
ここでのポイントは,既存の社会システム上の役割ではない形で,地域の全体にコミットする中間支援組織を中心とすることで,目先の課題・ビジネスに固執してしまうマインドや,既存の地域の事情や社会システム(組織構造等)に捉われてしまうマインドから外れ,より長期的で統合的な目線で地域の体質転換について考えていくことにある(木村 2020).より具体的な実践例や方法論は今後徐々に公開されていくことになるが,この姿勢は,企業が地域活性化に関わる際の新たな視点だと言えよう.


図1 地域創生Coデザイン研究所のスコープ

地域活性化のためのサービスデザイン

以上の事例をもとに,地域活性化のためのサービスデザインについて考えてみる.ここでポイントとなるは,何をデザインするか?という視点である.
先に述べたように,サービスデザインとは,「サービス」を「デザイン」することである.そのため,地域活性化のためのサービスデザインとは,地域をよりよくするための(もしくは,地域課題を解決するための)サービスそのものを計画・創出・実践することを意味することが一般的であった.しかしながら,Coデザが図1で主張しているように,表面的な課題解決のためのサービスデザインだけでは,その地域にとっての根本的な課題解決には至らないことが殆どである.これに対して,先に述べた2つの事例に共通するポイントは,(i) 地域のビジョン(構想や理念)にコミットし,率先して地域活性化のサービスデザインに取り組んでいる“中間支援組織”があること,そして,(ii) その中間支援組織が,ビジョンに共感してサービスデザイン活動をする地域内外の人々を応援・伴走する仕組みを構築していることである.各事例に対応させると,西粟倉の取り組みでは,(i)はエーゼロ,(ii)はLVSやTAKIBIが相当する.また,Coデザと大牟田市の取り組みでは,(i)は大牟田未来共創センター,(ii)は社会システム転換に向けて問いを深める対話の場を含めた地域で持続的な活動や変化を生む仕組みが相当する.
上で述べたようなことは,“デザインする人を支える環境をデザインする” ことに相当するが,このことは,デザイン学の領域では,Meta designやDesign for Designなどと呼ばれる(Fischer 2000).Meta designやDesign for Designをサービスの文脈で考えると,地域やその課題にする価値提案(Value Proposition)(Vargo 2004)そのものをするというよりも,価値提案ができる人々を支援するためのサービスを,中間支援組織が主体となって構築・提供している,ということになる.このように,①中間支援組織が地域活性化のための活動を支えるために取り組むサービスのデザインと,②実際のサービス実践者が中間支援組織の提供する仕組みを活用して取り組むサービスデザインの2層構造で進めていくことが重要になる.
また,地域活性化では,デザインの最終的な目的は,地域を活性化すること(すなわち,ウェルビーイングな地域をつくること)になる.先に述べたCMUのTransition Designが示唆しているのは,既存の社会システムの延長では根本的な社会課題は解決できないということであり,そのために新しい社会システムへの転換が求められる時代であるということである.これをサービスデザインの文脈から読み換えると,商業目的等の領域限定的なサービスデザインとは異なり,再び同じような課題が生まれないような構造(アーキテクチャ)を構想すること,また,その一部を具現化することで地域のリアルな問題に対処するサービスをつくること,というところまでフォーカスしなければならない.その際は,2つの事例から示唆されているように,企業の技術やサービスの仮説を一方的に地域で検証するのではなく,地域の暮らしをアーキテクチャとして俯瞰的に見る視点(De Weck 2011)や,生活者の暮らしを深く理解し現場のリアリティを質的に把握する視点(木村 2021)が求められる.そしてそのためには,先に述べた“中間支援組織”という存在が,地域の既存の枠組みやしがらみから一定の距離を保ち,未来のビジョン・理念のための取り組みを推進できる立ち位置にいることが重要になる.これにより,既存の枠組みや慣習,短期的な視点に過度に縛られることがなくなり,地域全体の新たな構造を実現するためのサービスのデザインやその実践が,地域の中で活発に展開されるようになる.

おわりに

本稿では,国内の2つの先進事例(西粟倉村,地域創生Coデザイン研究所)をもとに考察し,地域活性化のためのサービスデザインについて述べた.その中で,地域における中間支援組織とそれを中心とした2層のサービスデザインの重要性やそこで重要となる考え方(地域の暮らしを俯瞰的に捉える視点等)を考察した.本稿は,領域ごとの課題解決の取り組みを否定するものではないが,ウェルビーイングで持続的な地域を目指すのであれば,地域の社会システムを根本的に転換する取り組みも,同時に行っていくことが重要であることを示唆している.本稿で紹介した事例のような取り組みが,今後,様々な地域で新たに起こることを期待している.

参考文献

Calvo, R. & Peters, D. (2014). Positive Computing , MIT Press.
De Weck, O. L., Roos, D., & Magee, C. L. (2011). Engineering systems: meeting human needs in a complex technological world. Mit Press.
Fischer, G., and Scharff, E. (2000). Meta-design: Design for designers. In Proceedings of the ACM Conference on Designing Interactive Systems (DISʼ20), 396-405.
Irwin, T. (2015). Transition design: A proposal for a new area of design practice, study, and research. Design and Culture, 7 (2), 229-246.
Korhonen, J., Honkasalo, A., & Seppälä, J. (2018). Circular economy: the concept and its limitations. Ecological economics, 143, 37-46.
Vargo, S. L., and Lusch, R. F. (2004). Evolving to a new dominant logic for marketing. Journal of marketing, 68 (1), 1-17.
赤坂文弥,中谷桃子,木村篤信.(2020).サービスデザインに関する多様な研究アプローチの可視化と今後の連携に向けた考察.サービソロジー,4(1),10-17.
木村篤信,原口 悠,山内 泰,松浦克太,金みん秀.(2021a).持続的な活動/持続的な変化に向けたリビングラボ概念の拡張.日本デザイン学会第68回春季研究発表大会.
木村篤信.(2021b).高齢者を支える技術と社会的課題.第5章 リビングラボの可能性と日本における構造的課題,調査資料2020-6,国立国会図書館調査及び立法考査局.
総務省,ICT地域活性化ポータル.https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/local_support/ict/jirei/index.html
内閣府(2015).まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」と「総合戦略」の全体像等.

著者紹介

赤坂文弥

産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 研究員.博士(工学).専門は,サービスデザイン,リビングラボ.最近は,モデリングと共創を組み合わせた,社会のための技術/サービス創出の方法論を研究している.
木村篤信

地域創生Coデザイン研究所 ポリフォニックパートナー,博士(工学).リビングラボ,ソーシャルデザインなどの社会課題解決の実践・研究に従事し,新しい公共私の連携や社会システムの転換を探索するチームを牽引.

・・・

  • *1
TAKIBIプログラム http://throughme.jp/idomu_nishiawakura_sdgs_04/
  • *2
エーゼロ株式会社 https://www.a-zero.co.jp/
  • *3
株式会社地域創生Coデザイン研究所 https://codips.jp/
  • *4
一般社団法人大牟田未来共創センター http://poniponi.or.jp/

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