株式会社キャステムは1970年創業の鋳造(ロストワックス精密鋳造)と焼結(金属粉末射出成形),2つの製造技術をメインとした金属部品製造会社です.

元々は同じ広島県福山市にあるマルト製菓株式会社というお菓子屋の製造部で,お菓子を作る機械も当時自社開発していました.そこでロストワックス製法*1を始め,やがて時代の流れとともにお菓子を作る機械も外から買った方がいい,ということになり,ロストワックスの部署を切り分けする形で,キャステムの前身であるキングインベスト株式会社が誕生しました.

仕事はお客さまから図面をいただいて部品を製造するという,いわゆる普通の製造業です.ただ,キャステムは社長が折り紙飛行機の滞空時間のギネス記録保持者という顔を持っていて,社内にも折り紙飛行機を通じてものづくりの楽しさを伝えるメセナ事業があるなど,少しユニークなものづくり会社です.平日は金属部品を作り,週末は学校やイベントなどで一般のお客様に折り紙飛行機の指導を行う中で,法人だけでなく個人へのサービス提供の感覚を養っていきました.継続は力なりで,メーカーとしての認知より折り紙飛行機活動の認知が先だったというお客様もいて,そこから仕事に繋げていった事例も多くあります.会社として着々と事業の成長を続けていきながら,同時に付加価値の高いコンテンツを生み出し会社の魅力を高め,他社との差別化を図ることが重要なのだと仕事をやりながら気づいていきました.

そんな中,2013年に新しい技術を開発する部署を立ち上げ,小さい3Dプリンタが導入されました.使い方がよくわからない3Dプリンタに対し,「遊びでもいいから使え!」と社長が号令を出したことをきっかけに,開発担当者は無料のCADソフトを使い, 様々なオモチャを造形していきました.そこから「自由に作っていいんだ」という雰囲気が出てきて,「それならこんなモノも作れる?」といった感じで社内に自由な空気が浸透していきました.最初は3Dプリンタだけで完結する樹脂の試作品たちが量産されていましたが,3Dプリンタの樹脂はロストワックス製法で使用するワックスの代替となれる素材ではないかという発想が生まれ実行した結果,金属化に成功しました.最新のデジタル技術と従来のアナログ技術の掛け算から生まれた技術を改良を重ね,現在では金型を必要としない超少量開発案件で活躍している製法となっています.

ここで“歴史を作る”をコンセプトにした「History Maker」の事例をご紹介します.

数年前,製造業の間でコマ大戦という各企業や団体が自分たちでコマを作り対決させる喧嘩コマの大会がはじまり,キャステムもその大会に参加しはじめました.優勝者総取りというルールのもと,毎度手に汗握る戦いが繰り広げられる訳ですが,大会に参加する中でコマ大戦に参加者として参加するだけでなく,何か自社の製造技術を活かしたことが出来ないかと考えた結果,大会の優勝者の手をその場で型取りして後日,金属化して優勝者にトロフィーとして贈るという企画が立ち上がりました.初めての取り組みでしたが,試行錯誤の末,  納品に漕ぎ着けました.そして,その後早速この試行錯誤を次に活かそうと金属手形のサンプルを持って広島東洋カープさんに売り込みに行きます.有り難い事に製作をさせて頂ける事になり,前年に引退された黒田投手をはじめ3選手の手形を製作させて頂きました.当社は広島の企業ですから選手の手形を作るとなったら社員のモチベーションにも影響し,それまで何をやっているかわからない新規事業部がカープ選手の手型を作る案件を取ってきて,それらが即日完売したことから,社員の中から新規事業への期待感が高まっていくきっかけになりました.

ここからHistory Makerがはじまり,ボクシングの6階級制覇王者マニー・パッキャオ選手や世界3階級制覇王者の井上尚弥選手といった現役のボクシング選手,プロレスラーの長州力選手や蝶野正洋選手といったレジェンド選手など,格闘家やプロスポーツ選手をはじめ,芸能界の著名人をこれまでに製作させて頂きました.

最初History Makerは本人から直接型取った金属手形のみのシリーズでしたが,3Dスキャンや3Dモデリングといったデジタル技術も取り入れ,アナログ技術とデジタル技術の掛け合わせで商品の幅を徐々に拡げていきました.先日発売したプロレスラー蝶野正洋さんについては5種類15個を商品化しました.手形トロフィーをはじめ全身スキャンを使ったフィギュア,ハンディスキャンを使った3Dフェイスステッカーやミニチュア手型キーホルダーなど,“歴史を作る“を軸に技術や企画を結集した結果,どんどん新しい商品や展開ができてきています.

また,モノから作るHistory Makerでは広島の平和記念公園の折り鶴の少女像のモデルで有名な佐々木禎子さんが病床で最後に折った折り鶴を精密に複製するプロジェクトを手掛けさせて頂きました.当初,我々の持つ技術を紹介し,新しい展開,新しい取り組みの一助になれたらと佐々木家にお声かけさせて頂いたところ,「今まさに悩んでいた課題を解決してくれるサービスです」と言って頂きました.禎子さんの折り鶴は世界各国から寄贈の依頼があるものの数量に限界があるため気軽にお渡しする事は出来ない,どうすればそのような声に応えることが出来るのか,と悩んでいた矢先に我々がお声かけしたという,まさに巡り合わせだと感激して頂きプロジェクトが始まりました.我々が持てる技術を全て詰め込み,精密に再現した永遠に残すことの出来る金属製の折り鶴の量産体制が出来ました.折り鶴だけでなく,城の鯱鉾や思い出の記念品をスキャンして小さく商品化するなど,History Makerの展開は年々拡大していっております.

従来の知識や技術を受け継いで形にしていくだけでは話題に上がらず,見慣れてきたら飽きられてしまいます.国内の競合やライバル企業に負けないため,そして海外の同業企業にも負けないためには常に新しい知識を蓄え,技術を磨き,経験を積んでいくしかありません.

基盤事業である部品製造で培った経験は商品開発にも活かすことが出来ます.例えば,キャステムしかやりたがらない形状やキャステムにしか出来ないコストで部品を作る技術があれば,他社には出来ない企画,価格で販売する事が出来ます.それが出来ればきっとお客様にとって必要とされる企業となることが出来ます.最近は発信力を高めるためSNSやプレスリリースに力を入れているので,お客様とのコミュニケーションもSNS上で行ったりもします.そこで,得られる新鮮な情報をキャッチし,商品企画を立ち上げるなども行なっています.“作ること“と“伝えること“の両輪で今後も新たな展開を作っていきたいと考えています.

著者紹介

戸田 有紀

株式会社キャステム 取締役 新規事業本部長


  1. ロストワックス製法:アメリカで確立された鋳造技術であるロストワックスにキャステム独自のノウハウを加え,形状,材質,強度が自由自在に表現でき,なおかつ高い寸法精度が得られる,業界屈指の品質を誇る金属鋳造技術.
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