全く新しいタイプのサービスマーケティングの教科書の登場だ.著者の思惑通り,理論と実践が一続きのストーリーとして構成されている.そのため,読み手は一気に内容に引き込まれる.想定される読者は,学部生,初めてサービス化に取り組む実務家であろう.但し,サービスの理論から,顧客,提供者,多様なステークホルダー視点による論点など必要な基本を押さえており,手早く見直すために手元に持っているのに最適だ.その上,企業事例,実務で活用できるフレームワークまで習得できるお買い得感満載な教科書だ.
本の内容は,サービス定義,特性・分類から品質・顧客満足度,サービス需要者としての顧客及び提供者に関する考慮点,管理と新サービス開発まで含む.例えば,サービスデザインの10章は,企業の課題提示から始まり,それを考える上でヒントとなるサービスイノベーションの様々な論点,デザインマインド,デザインプロセス,手法など,すぐ現場での実践に活かせそうな内容が網羅されている.また,取り上げられている事例は,日本の企業が多く親しみやすい.その他馴染みのある海外企業や,大企業・中小・スタートアップのバランスが良い.業界は,ややサービス領域が多いが,製造業,公共サービスも含まれている.
もう一歩踏み込むならば,デジタル化,データおよびAI活用などの技術に関するトピックや,それらを活用したマーケティングの変化,それらの導入に伴う企業組織の変容などの議論があっても良いかもしれない.書籍内の事例で活躍する朝垣・越野両氏のこれからも含めて,今後の続編に期待する.
今回改めて本を読んで感じるのは,企業と顧客だけではなく,サプライヤーや社会の様々なアクターとのインタラクションを含むように,サービスマーケティングの対象領域が広がってきているということだ.つまり,Service Dominant Logic的には,アクターとアクターの価値共創システムを対象とするようになってきた.一方,これまでのサービスマーケティングの視点は,どちらかというと既存の事業の改善,改革に止まっているように思われる.サービスデザインは,一歩踏み出し,新規事業開発までカバーする.サービスデザインの概念や手法の中には,既存のマーケティング概念や手法と相反する部分もあるだろう.今後サービスマーケティングは,イノベーションや起業理論,デザイン,エコシステムなど近隣領域から刺激を受け進展していくのだろう.


〔澤谷 由里子( NUCB Business School 教授,Design for All(株) CEO)〕

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