はじめに

コロナ禍や少子高齢化といった急激な環境の変化を迎える日本において,地方の地域開発および地域経営の捉え方はどのように変化するのか.本特集「地方の活性化」では,今後の日本に求められる地方における地域開発・地域経営の特徴などを取り上げる.     

本稿では、今後の日本における地方の活性化の取組みにおいてどのようなインパクトが求められるようになるのか、その方向性の発展のための課題としてはどのようなものがあるのか、といった点に関してサービス学の観点から、学識経験者にインタビューを行った内容を紹介する(本インタビューは2023年2月20日に関西学院大学大阪梅田キャンパスにて実施された).

コロナ禍や少子高齢化といった急激な環境の変化を迎える日本において,地方の地域開発および地域経営の捉え方はどのように変化するのか.本特集「地方の活性化」では,今後の日本に求められる地方における地域開発・地域経営の特徴などを取り上げる.     

本稿では,今後の日本における地方の活性化の取組みにおいてどのようなインパクトが求められるようになるのか,その方向性の発展のための課題としてはどのようなものがあるのか,といった点に関してサービス学の観点から,学識経験者にインタビューを行った内容を紹介する(本インタビューは2023年2月20日に関西学院大学大阪梅田キャンパスにて実施された).

地域活性化に関するこれまでの取り組み           

増田 山本昭二先生は,サービス・マーケティング,流通システム,消費者行動など広く流通・マーケティングを専門分野として,また,観光に関わる大学教育の取り組みにも長く携わっております.山本先生の地域の活性化に関する取り組みについて教えてください.

山本 私自身は,サービス・マーケティング,消費者行動,流通などが研究範囲になります.地域の活性化というのは,そもそも流通・マーケティングの立場から見ると,本当にストレートな問題なんです.例えば,中心市街地活性化法なんかも,流通・マーケティングの研究者の貢献の一旦だった訳です.私自身は,1993年から,社会人大学院で社会人の授業を受け持っています.また,2005年からビジネススクールで教えています.今,はやりの言葉で言うと,リスキリングになるのかわかりませんが,日本の大学教育では,なかなか十分にケアできなかった部分を,ずっと教えてきている訳です.

今は,ビジネススクールの正科のプログラムとは別に,「地域医療経営人材育成プログラム」というのと,「MICE・地方観光人材育成プログラム」という2つの履修証明書プログラムを作って,それらを実行している責任者もしております.

地域医療経営人材育成プログラムは地域包括ケアシステムに関係しており,経営的に厳しくなってる地方の地域医療に携わってる方々もこのプログラムに参加されています.医療教育の中で,経営などを学ぶことはほとんどないので,収支が合わなくなって,必要な医療機関が無くなってしまうということが起こらない様にすることが目的です.もちろん都市部は都市部,地方は地方で,色々悩みがある訳ですけど.

もう一つのMICE・地方観光人材育成プログラムも同時にやっていて,これは継続的に地方へ観光客に来てもらうためのプログラムです.一般的にMICEと呼ばれているミーティング,イベントなどを継続的に地方で実施していって,安定した集客を考える仕組み作りを学んで貰います.お祭りの時だけ来てもらう,というのではなくて.継続してMICEの実施ができる人材を育成しようというプログラムです.これにはDMOの人材育成も含まれます.こういうスキルとか考え方を分かった人を一人でも二人でも,地方の観光人材として育成したいということです.

そこに住んでおられる方がこういったプログラムを受けて,実施主体になっていただきたいということです.ずっと補助金でやってるところでは,やはり発展に限界がありますので,足腰を強くするということが大事かなと思います.地域の活性化といっても,地元の方が,自分のその足で動いて,頭で考えないと,継続性がないので,観光人材のプログラムの中では,そういう成功事例とかを取り上げていっています.もちろん両方のプログラムで共通に参加をする授業なんかもあります.

人口減少に伴う地域活性化の課題

増田 地域開発や地域経営における人口減少の課題についてはどうお考えでしょうか.

山本 人口減少は簡単に止められないだろうというのは皆さんが思っていると思うんですが,片側には移民の問題があります.それとのバランスで将来の計画を図らなきゃいけないと思います.今いる日本人だけで全部やり切るというのはなかなか難しい問題です.働き手の確保を含めて人口をどう維持していくかということになります.百年後を考えると,もう地球全体でおそらく人口は減り始めて,環境の限界といったことを考えると,人口減少は必ずしもマイナスばかりではないだろうというふうには思っています.

反対に,新しい産業を作ってもっと幸せに暮らせる人をたくさん作り出すことがもし可能であれば,人口を増やす,という手はいくつかあるんだろうとは思います.ある程度コンパクトに住むことで,コストも安く済むという方策を考えると,観光がものすごく大きな産業資源だろうと思いますね.

今後,モノづくりに関わる人たちは数を減らしていきますし,産業構造が変化しても生活できるような仕組みを作っていくということになると,どんなサービスが必要かという見込みをつけていかなきゃいけない.教育とか医療っていうのは,絶対に無くせないものです.だから,その無くせないものを先に見極めた上で,そこを効率化するっていうのはとても良いと思うんですね.

DXの導入は必要ですが,教育とか医療のサービス提供システムの改善で,コストを下げられると思います.それを阻んでいるものを取り除いていかなきゃいけない.どうしても地方の活性化で,コストを下げようとすると,例えば,ただでさえ働き口の少ない地方で雇用機会が減るんじゃないかという話にすぐなるんです.でも人が減っていってるんだから,雇用機会を減らすも何も,正に省力化をしなきゃいけない動機づけは地方の方がずっと大きいはずなんですよね.だから,働き手をやはり考えていただきたいというふうに思います.省力化ができないと,様々なイベントの維持みたいなことも簡単にはできないと思います.一人何役もやらなきゃいけない訳ですからね.人が減っていくということは,効率を上げなきゃいけないし,情報技術もちゃんと使えるようになっていただかないといけないということです.

今の若い方はICTの使い方は上手だとは思いますけど,本質的にその情報を使って何かを生み出すということになると,やはり一定の教育は明らかに必要ですよね.高等教育ぐらいのレベルで考えるサービスに関する教育と,それから,仕事として実際に成り立たせるための,例えば,専門的な職業につながるような教育が,地方では受けられないということは,やはり厳しいかなと思うんです.福島の会津大とか,情報に特化してる大学も確かにありますけど,地方では珍しいですよね.だから,関学のビジネススクールも実際,徳島県や岡山県,和歌山県もいますけど,結構遠方から学生が通って来てる訳です.近畿圏内でもやはり教育機会がない地域もあるので,地方の活性化を考えた人材育成という点に関しては,国を挙げて努力しないといけないと思います.

地域活性化における観光イベントの継続性について

増田 地域の活性化で観光が一つの切り口になるというところで,やはりイベントをどんどん入れていかないといけないということでしょうか.

山本 持続的にイベントをやるって結構大変ですよね.京都でもお祭りをずっとやっている訳ですが,それは担い手がくるくる変わるからできてる訳です.小さなところでは,その担い手をくるくる変えられません.ということは,さっき言ったみたいに一人何役もやらなきゃいけない.お祭りでないときでも人に来てもらえるような,いろんなものを用意しておかないとやはり観光都市としては維持できない.例えば,高山にある程度人が来るっていうのも,JRの特急が走っていて,高速道路もあってバスでやって来れるという,そういう近接性が維持できていることと,ある程度年間を通してのサービスが提供できるっていう,これがないとなかなか難しいですよね.

持続的な取り組みを維持しようとすると,やはりそれなりの人材が必要です.関学でやっているMICEのプログラムでも,地方から参加されてる方みんなの悩みですね.最近は,都市部でも同じ問題があります.例えば,堺市では,今,百舌鳥古墳群が世界遺産になって,これを何とかしようとしてる訳ですけど,広がりを持つには至っていないのが現状です.

観光資源というのは,やはり非常に重要な資源で,これを地方の活性化で活用するためには,知恵も必要ですし,お金もかかってくる.自然を見せるだけではなかなかうまくいかない.例えば,瀬戸内国際芸術祭が行なわれている直島がうまくいってるのは,コンテンツがしっかりしているところに非常に意味があると思います.

ですから,数少ない成功した観光地にはどうしても人が集中してしまう.成功した観光地に人が山ほど押し寄せて,観光公害が起こるというのは,ヨーロッパではそのような問題が起こっていますよね.ルーブル美術館みたいに予約制にせざるを得ないとか.エッフェル塔も,今,予約制でないと入れないとか.そういったことが起こっていますので,それはある程度制限せざるを得ないということになっています.その貴重な観光資源を無駄遣いしないで,どうやって地域を発展させられるかは本当に考えなきゃいけないなと思います.

地域活性化におけるインパクト

増田 地域活性化をどう測るかですが,経済的な効果だけでなく,社会的・文化的インパクト,環境へのインパクトなど,いろいろな観点が出てきます.こういったインパクトの捉え方はどのようお考えですか.

山本 ソーシャルインパクトの観点では,地域の魅力がどれだけとか,また,近接性という問題は昔からある訳です.単純化すると,近いっていうのと,魅力度っていうのは,大体同じことを言ってる訳です.あとは手数ですよね.インパクトの数がいくつあるか.これをどれぐらいインパクトの中で,私たちが考えるかってことになると思うんですよね.

インパクトの数をたくさん打つというのも,一つの方法だと思います.ちっちゃいものをたくさん打てばいい訳ですから.地方は,大きいものを少数打つより,ちっちゃいものを沢山打ったほうが本来,いいはずなんですよね.

ただ,どうしても地方だと集客には発地から距離があるので,大きいものをやりたがる訳ですよ.集客できないんじゃないかっていうことで.理屈的にはそうですよね,だけど,それとは逆で,ちっちゃいインパクトでも,たくさん手を打てば,やはり長い期間,人が来てくれる.例えば,直島では,イベントの時も見てくれるけど,それ以外の時も泊まりに来てくれたりとか.

ですので理屈通りに発想すれば,インパクトの数を増やして,小さいものをいっぱいやるっていうのは悪くないと思うんですよね.だから,いやこんな,なんかしょぼいものやってどう,みたいな感じにはなると思うんですけど.それで大きいものをやるとなると,身の丈よりでかいので,すぐに補助金が欲しいとか,大きいイベントのために良い建物を建てたいって話になるんですけど,実際そうではないんじゃないかなという気がするんですね.だから,医療機関とか学校っていうのはなぜ大事かというと,これも毎年毎年,人が入ってきて,病院もそうですよね.次々に人が入れ替わってお客さんが変わっていく.そこが大事なんですよね.小さなインパクトでも継続してできるようなものを考える.一辺,工場がぼんとできてしまうと,モノは行ったり来たりしますけど,そこで働いてる人はずっとそこにいる訳です.人の出入りは限られます.ですので,やはり学校みたいな施設というのは本来大事な施設かなと思うんですよね.

増田 例えば,YouTubeなどの動画の再生回数の増加傾向でも似ている話があります.

山本 YouTubeでは一般的にショートで刻んで,5分以内のものをいっぱい出す訳ですよね.その短く見てもらっている中で,コンテンツ力のある特殊な人が,やはり30分とか1時間というものを出して,そこでかなりのお客さんを惹きつける訳です.

個人で見るとそうですが,それを観光地で縦に集計すると,その観光地の中で1時間出せるものもあれば,5分のものもあります.それがちゃんと分布をしていて,どれぐらいの分布だったら,手数がちょうどいいんだろうっていう.長いものを毎日出せる人はすごいと思うんですよ,やはり.そういう人は本当にチャンピオン.ただそんなものばっかりじゃないですよね.京都でも大きな集客力のある施設って,やはり清水寺や金閣寺ですよね.清水寺であれば毎日30分のコンテンツを出せると思います.ただ京都はそれだけなくて,もっと小さなお寺だったりとか,ショートバージョンでたくさん手数を出せるものもちゃんと用意されている.そういう意味では,京都はバランスが取れてると思います.

奈良はどーんと人が来る東大寺とか,そういうのはあると思うんですけど,ちょっと場所が離れていたり,近接性が弱かったりして,それで泊まるところもないので,インパクトが弱くて,なかなか京都に追いつけないという問題があります.本来,奈良が持っているポテンシャルから考えると,もっとたくさん訪問者が来てもいいと思うんですよ.今言ったその部分がちょっと弱いということで,そこまで来ない.

東京は,そういう意味では全部揃ってますよね.ものすごく大きな観光地として,ディズニーランドみたいな大きな魅力のあるものから何でもあって,そのちっちゃいものから大きいものまで揃っている.京都を考えると,そういう意味では東京に近いぐらい揃ってると思います.

反対に,その大きな集客力がある施設が少ない,例えば,神戸みたいなところは,やはりなかなかそのバランスが取れないという問題がありますよ.

ソーシャルインパクトのシミュレーションをした時に,どういう分布が一番良いのかということを考えると,距離を克服する要素を何にするかが問題になります.それで考えていくと大阪にUSJがあるのはとってもいいことかなと思います.USJは本当にたくさんの人を連れてこられる大きな施設です.USJがあるから,ある意味交通網が整備されて,大阪駅起点で,大阪にたくさん人が来る.たくさん人が来てインバウンド顧客までやってくる訳です.そこに見えるウメキタの開発というのが,今のところ順調に進んでいる.梅田の再開発は,もうこれからどんどんビルが何本も建ちます.本社機能が東京に移転してしまっている中で大阪の活性化を考えると失敗できないプロジェクトになっています,

こうした循環は梅田だからできるんだっていう考え方もあるかもしれませんけど,でも,それのちっちゃいものっていうのは地方でも工夫次第で,できるんじゃないかなという気がしますけどね.不可能じゃないんじゃないか.今,言ったようなバランスと分布を,うまく考えれば,可能かなという気がします.

増田 そのちっちゃいものを回す時に,観光の効果としても小さくなる訳ですが,それを持続するために学校や病院のシナジー等が重要になるのでしょうか.

山本 地元の経済で維持しなきゃいけない部分を,インフラを含めてちゃんと維持する.例えば,伊勢志摩なんか分かりやすいです.もちろん伊勢神宮はものすごく大きなコンテンツで,日本中から人が来る.でも志摩とかになると,そんなに真冬にいっぱい人が来る訳じゃないですが,それが,地元や,もしくは,大阪や名古屋からといった周辺の観光客である程度維持できている.そこはもちろんおいしいものを食べられたり,日帰り,一泊二泊みたいな,そういう分布をちゃんと取れるような仕組みが出来上がっているので,維持ができています.もちろん近鉄があるからっていうのがあります.でも,これも全部,基本は近鉄資本でやっているので,そこは一定の時間,維持できる資本もないと,無理ですよね.伊勢志摩の開発を,例えば,公立でやれって言われたら,それは無理だと思うんですよ.やはり近鉄資本の全体の中で,バランスを取ってやっている.

増田 その点は,観光単独ではなく,両輪,片方の取り組みをうまく活用していくようなアプローチが必要になるということでしょうか.

山本 観光単独っていうのが,地方の人はそう考えがちなところがあるんですよ.自分の街で完結できる,何かがあるんじゃないかって.そんなことはあり得ないですよね.だって,遠くから人が来る訳だから.それはもうそもそも無理な訳です.例えば,直島もはっきりそこが分かってやっていると思うんですよね.もちろん船であったりとか,アクセスに関して補助金がある訳ですから.交通部分っていうのは,そもそも補助金があるんですよ.どんな地方交通でも,単独でやってお金になる訳ないので.

ということは,他の地域と連携しながら補助金が出る部分も上手に使わなきゃいけない.すなわち,中央から地方に対してお金が流れる仕組みがある部分は使わないと駄目ですよね.そこからスタートという感じです.

増田 その辺も,そういうスキームが分かっている人材が必要でやはりここも教育が必要でしょうか.

山本 そこは地方の人は分かってる人がいるんですけど,誰が分かってるかがよく分からないというのがあります.県庁レベルだと,そういうことは分かるんだけど,基礎自治体になると難しいですよね.交通系の補助金というのは,基本的には県単位で降りてきて,それを分配する場合が多い訳です.でも,バスとか鉄道,飛行機とか,それをばらばらにやっている.これは出元が違うから,なかなか一元化できない.そういう交通系の補助金も使いにくいところがあることはよく知られています.全ての制度に精通している人はなかなかいないですよね.それは縦割り行政だって言われるかもしれませんけど,そこを使いこなすのはやはり都道府県を連携させたスキームが必要となり、自治体側の腕になります.

ただ,そういう人たちを教育する,体系的なプログラムがあるかというと,不足していると思います.地域活性化とか地方の問題を考えると,どうしてもその地方にいる業者さんを助けようみたいなことをすぐ考えつく訳ですけど,そうではないですよね.地域振興だけをいくらやっても限界があります.だから,どういうバランスでお客さんを連れてくるとか,多数の参加者にある程度ネットワークの張れる人じゃないとダメになりますが,実施主体の能力を高める必要があります.

今までの成功例でいうと,都会での事業経験があるとか,そういう方が一般的に成功されています.結局ネットワークが弱いということになると,必要な能力を持っている人を遠くから連れてこなきゃいけない,というところでつらいんじゃないかな.私の知ってる限り,この地域医療のプログラムでやるケースの中でも,MICEのプログラムでやっているものでも,そういう事例がほとんどですね.地方の病院でも同じだと思います.やはり政府の委員をやっておられたり,東京との繋がりというのは,一定限度ないと難しいかなという気がしますね.

サステナブルへの対応について

増田 観光では国際的なトレンドの考慮も必要になりますが,サステナブルが一つのキーワードになるかと思います.どのように海外からの訪問者の方にサステナブルをアピールしていったら良いでしょうか.

山本 観光産業自体は,グローバル産業です.今はCOVID-19で,中国から人がまだあんまり戻ってませんけど,そこが戻ってきたら元通りになる訳ですから,人数からすると大変なことになりますよね.

ただ長期的に見ると,観光産業は大きな成長というか,伸びしろがある訳です.航空機の価格が下がったりとか燃費が良くなったりして,今だって上海に5,6万円で飛べます.片方にICTというのがあって,生産効率と消費の効率も大幅に上がった訳ですけど,ICTを使いつつ,もっと観光地の提供者側で効率が上がって,なおかつ価格も下がって生産性が高まるセクターになっていきます.無人化もどんどん進むと思います.

だから,そういうことを考えると将来性のある大きな産業なんです.問題は,資源の少なさということにどう対処していくかということになります.まず,新たな観光資源開発ということを,真剣に全世界で考えていかないといけないでしょう.こういう楽しいところがある,こういう面白いことがあるっていうことを,徐々に広めていくというのは,埋もれた資源の活性ですよね.これは国をあげてやっておられるところもあります.さっき言ったように,決して大きな施設を作ったりすることだけが目的ではないので,いろんなやり方が当然あるというふうに思います.

次に,当たり前ですけど,環境に優しい観光という視点を持っていただく必要があります.ここをどうやって実現するかということは,色んな意見が出てくるだろうと思います.大量に人を観光地に送り込んで,押し合いへし合いして,人の頭だけ見て帰ってくるみたいなことをどう避けるかということで,これもICTが使えますよね.VRなども使えるし,いろんな方法が考案されている訳です.技術の導入をもっと積極的に考えていただいてもいいんじゃないか.ここ20年,30年で確実にこうなることには対処が必要です.やはり中国から大量に来日したらどうなるだろうと真剣に思っていますけど,短期的には国際政治に左右されることはあってもグローバルな影響の平準化は避けられない問題かと思います.

増田 環境に優しい観光という点は,それを仕組みで入れ込んでいく必要があるのでしょうか.

山本 そういうことですよね.アメリカの国立公園に行かれた方は分かると思うんですけど,ゲートがあって,そこでお金払って中に入る.今はもう予約しなければ入れない.予約無しの観光客は入れてくれないですよね.それも何ヶ月も前から予約しなきゃいけない.オフシーズンであれば少しは入れてくれるんですけど,ハイシーズンは全然ダメです.どんどん入れればお金にはなりますが,もちろん環境の方が大事なので.一定数しか入れませんよ,というのは,どこでも考えつけるものだろうというふうに思います.

そうなると,お客さんが減るじゃないかという話が当然出る訳です.ただ,それに代わるものとして,例えば,VRも含めて経験を共有できる方法があると思います.一方で,観光する側も環境に対して対応できるだけの能力を身に付ける必要があるんだと思います.車で行くっていうことは,それだけ環境負荷が大きくなる訳です.ここからは,これだけ歩いてください,ということも文句を言わずに歩いてもらわないとダメだと思うんですよね.じゃあ,歩けない人はどうするんだみたいな話になると思いますけど,それはもちろん車いすでも構いませんけど,やはり一定限度の制限をかけないと,環境破壊が起こっちゃうという気がするんです.

日本でも,やはり車の流量規制はしないと大変なことになりますよね.日光でもそうですけど,途中の駐車場には入れるけど,その先は行けないですよ,といったところは日本でもたくさんあります.上高地とかもそうですね.

地域活性化のソーシャルメディア活用

増田 地域活性化でSNSといったソーシャルメディアをどう使っていくかというところはどうでしょうか.

山本 地域医療のプログラムでは,受講者募集にはFacebookの広告を使っています.そうすると全国からアクセスが来て,福島の山の中の看護師さんとか,北九州の診療所の事務長とか,色々な人が受けに来てる訳です.それは近接性を突破するという点で有効です.コストが低い,少額で,ターゲットを絞って,その距離を縮められるということが,私たちがSNSを使っていることの理由でもあります.初めからプログラムの説明会に関係ない人が来てもしょうがないですから.だけど,必ずしも全てのソーシャルメディアがそういったターゲットを絞れる訳ではないです.Facebookの場合,年齢の制限をかけることも出来ますが,未成年者への広告は難しいといった制限もあります.

SNSだから,インターネットだからといって,既存のマーケティング手法と変わるところはほとんどないです.あとはもう今言ったようなそれぞれのSNSでのやり方を,どう熟知するかということだけです.

ただ一番大きな違いは何かって言うと代理店です.テレビの広告は大きな代理店を通さないと,アカウントが取れない訳です.一方で,SNSの広告は誰でもできるので,小規模な事業所の広告でも出せます.小規模なものはテレビではできない.だからSNSでは,そういうゲートキーパーが存在しないので,ある意味情報の質については問題がある訳です.

何かインターネットマーケティングが始まると,今までと違うことがいきなり起こるんじゃないかという考えがあると思いますけど,実際,YouTubeを見てても,出てくる広告って大手さんのところがだっと出てきますよね.ものすごく細かくターゲットを取ってるので,住所地が分かってますから,この辺に住んでる,例えば,何歳の独身の男性だったら,これみたいな感じで,もうやたらと消費者金融のCMがバンバン出てきたりするっていう話も出てくるんですよね.

そういうペルソナを考えて基本的に細かくマーケティングを実施するということは,もうインターネットが出てきた2000年代から,十分想定されていることで,その方向に今のところ進んでると思います.だから,一番大きい変化は,参入障壁が低いということですよね.代理店使わなくてもできるし,誰でも,個人でもね,もちろん代理店を使ってもいいんですけど.インターネット広告をやってくれる代理店なんて山ほどあるので.もう誰でもやれますよね.

新しい産業を作り出すっていう意味ではソーシャルメディアでいいんですけど,インパクトっていう意味でスケーリングするためには,やはりテレビ広告やマスメディアがどうしても必要なんです.スケーリングする時にはそっちに持っていくので,そこまで来ると,やはり大きな代理店さんに頼らざるを得ない.もしくは,そこのアカウントを使って,メディアを取りにかかる訳です.そこも回避するとなると,マーケティング的には,例えば,ジャパネットさんみたいに,自分でBSのチャンネルを持つみたいなところまで行きますよね.

インターネットを使ったマーケティングを地方の活性化というところに使おうと思うと,そもそも地方でこういうことを手助けしてくれて,東京とちゃんと繋がったデジタル系の大きい会社がもっと広がらないと難しい.それが,全国ネットで,大手さんともタイアップできる,もしくは一緒に仕事できるというぐらいのレベルのものじゃないと.地方だからレベルが低くい会社でもいいんじゃないかみたいなことには,絶対になりません.これから日本で地域の活性化をやっていく上では能力の高い企業群が必要で,実はそういう企業はたくさんできてきていると思います.全国ネットでサービスしてくれると,リーチの障壁がなくなったインターネットの良さが活かせますよね.せっかくインターネットでリーチしてもらったのに,県内だけで何か広告回してますってそれはもったいなくないかっていう話です.

増田 そういう広域の対象にリーチするための仕組みとしては,ソーシャルメディアだけでは不十分?

山本 そうなんですよ.結局,自分たちが売るものには物流が必要だし.事業をやるんだったら情報流が必要なので,情報をちゃんと流さないといけない.だからそういうネットワークが商流も含めてちゃんと揃った企業が地方にも必要になります.

持続可能な地域開発での差別化要因

増田 日本の地域活性化は,どこの自治体でも取り組まれています.ただ将来的には,残る所,残らない所といった議論も想定されます.地域開発における差別化要因としてはどういった観点があるでしょうか.

山本 結局,消費者の選択ということになると思います.ニセコみたいに日本人はあんまり行きませんという形になっていたのが,いきなり外国人が山ほどやってきて,それで盛り返している,復活しているみたいなところもありますよね.だから,マーケットをちゃんと変えれば,いろんなニーズはあります.正直,今のところ地方の側が工夫されてないところもいっぱいあると思うんですよ.ものすごくいいものを持ってたりとか,人が来てくれそうなところもあるのに,うまく紹介できていない.それを外国人の方が勝手に見つけて,インターネットで紹介されて,自分たちで行ってるみたいなところが,現在の流れかなというふうに思っています.日本はそういう意味では観光資源はたくさんあるので,まだまだだと思いますね.

だから,一定の富裕層の方々がやってきていただけるような,一流の観光地っていうのを育てるということを考えると,日本では今のところ捨てるところがないような気がします.それぐらいやはり価値はあると思うんですよ.東京とか大阪もまだまだ開発できるところもいっぱいあると思います.

増田 この辺りの対応の遅れは,そういった観点を推進できる人材が不足しているということでしょうか.

山本 そうですね.実際,そもそも日本人だけでやり切れる訳じゃない.海外から人が来る訳だから.ホテルや百貨店でも中国系の従業員の方がたくさんおられますよね.それが当たり前なんだっていうふうに思えば全然問題ないという感じもします.それに違和感があるというんだったら別ですけど.そうでなければある程度のレベルの人材を育成するという試みをもうちょっとやれれば,外国人の方を現場の管理職として採用することも進むのではないかと思います.

増田 そこの多様性を突破できれば,後は,日本はコンテンツ的には海外の訪問者を惹きつけられる….

山本 そうなんです.日本で働きたいっていう,まあ若い間だけでもって思っておられる方もたくさんいますよね.だから,大学が教育機会を提供して,日本でいろんなところで働いてもらって,国に帰ってもらっても観光開発に力を発揮してもらう.それで日本流のいろんなやり方みたいなのを勉強するし,もちろん日本だけじゃなくて,全世界共通のものをちゃんと勉強してもらえればいいので.そういうべースをサービスの生産とか消費という意味で,日本で教えられればいいなと思うんです.

働き方の多様性について

増田 働き方の多様性を増やすためにはどういった観点が必要になるのでしょうか.

山本 どうしても今までの職業教育というと,基本的にその職に就くための訓練というのが大きい訳です.航空会社の客室乗務員になるとか,分かりやすい出口型のカリキュラムがないと志願者が来ないという側面もあって,今まではそうでした.これからは,そこで働く人たちの多様性を想定したような教育というのが色んなところで広がっていくと思います.例えば,医学部の教育課程だったら,多職種連携の授業も必修になっています.観光学,教育学みたいなところも,もっと多職種連携の講義とか実習というのを取り入れたらいいと思うんですよね.観光は地域全体としてサービスを提供していって,なおかつ施設も使っている訳ですから.鉄道は鉄道,ホテルはホテルとか,こういう考え方でやっていると結構難しいんじゃないかなと思うんですよ.もちろん頭ではみんな分かりますよね,観光は全体で一つのサービスですよとか.頭で言うのは簡単だけど,人間そんな便利じゃないので.結局,鉄道会社に入った人は鉄道のことを考えていますから.総合的なサービスを地域で展開しようということを考えると,やはりそういう発想の人材を作らないと無理ですよね.僕はホテルのことをやりたいんだっていうホテルマンの方ばっかり何百人いても,サービス生産は施設内だけで留まるので,限界があります.

本来は,鉄道会社は総合的な地域サービス提供企業として存在している.学校を配置するとか,医療機関を配置するとかいうのを今までやっている訳ですね.結局,そこで暮らす人のためのものを作って,あとはもう電車に乗ってくれっていうことだけですけど.そういう発想を,それが,インターネット時代になってどう変わっていくのかということも,自分の肌で感じなきゃいけないとなると,一つの業種に固まっていたのでは難しいかなと思います.

増田 やはり経営層のレベルからそういう多様性を許容するという考え方が必要になるのでしょうか.

山本 経営層は現状の人手不足にはもう背に腹は変えられないので,否応なく雇ってはいるんですけど,問題は現場の人たちが多様性のある組織を使いこなせるかということですね.使いこなせるかどうかは,やはり経験ですよね,日本語が分からない人も含めてどうやって多様な人々と生活して仕事するのかという論点が必要でしょう.

地域活性化におけるサービス学の活用

増田 サービス学の観点からの,今後の地域活性化の取り組みに関する貢献に関してはいかがでしょうか.

山本 観光は,その街の中で完結する訳じゃありません.結構,距離のある所から人が来て,そこでさまざまな活動を別の場所でやるということが観光の基本だからです.その距離をどうやって突破していくのかが,観光の一番難しいところということになると思います.観光開発ということを考えると,どうしてもその距離を縮める方法を考えなきゃいけないので,航空路線の問題とか,鉄道とか高速道路とか,そういう交通手段というのがないと,なかなか観光を使った地方都市の活性化というのはできないですよね.

だから,いくら地方の遠いところにディズニーランドを作っても,それはなかなか来ていただけない.ということは,反対に,観光地は集中しがちになるという問題を抱えている訳です.京都は典型的ですけど,その分母に比べて,でっかい分子がドカンとやってくると,観光公害という問題が起こってきてしまいます.こういった極端な解が出てきてしまうっていうことは,観光の場合,しばしば起こります.非常に需要の波動が大きい訳です,それをうまく平たくしていくということが,ずっと大きなテーマではあると思います.

もしサービス学が,こうした点で役に立つということになると,持続的な,時間をかけた観光地の開発と,そのインパクトの確立というのに,色々と手を差し伸べられるんじゃないかなと思っています.サステナブルというのは,ちょっと幅が広すぎるかもしれませんが,人材育成まで考えると,やはりそこが一番不足しているところかなというふうに思いますね.

例えば,私が住んでる西宮だと,一番大きな観光施設は甲子園球場ですが,もう年間何百万人の人が来る訳です.それは西宮市がどうしようが,もうそれは阪神電鉄との間で存在して,ずっと継続して関連する仕事が発生する訳です.プロ球団もあれば,高校野球もやっている.そういうふうに,企業の役割というのは非常に大きい訳です.中核的なサービスを支える,周りの持続的な施設や,その機関というのが,どうあるべきかというのは,非常に興味があるところかなと思います.サービス学を考える時に,ステークホルダーを時間軸で見ていくということを,真剣に考えていく必要はあるでしょう.

インパクトの量というのは,当然クロスセクションというか,ある一定の時間で測る訳ですけど,多くの成功した地域開発の事例はやはり時間軸が非常に長いですね.非常に長い時間をかけて,そのインパクトを利用していくということを考えると,必ずしも一過性のものだけで勝負しないようにするということが大事だと思います.温泉地が転換していく事例では,熱海が一番大きな成功例かなというふうに思います.寂れていった観光地を,比較的高齢者の方が,長期に住んでいただけるような形で転換しています.でも,その転換には30年近くかかっている訳です.地権者や建物が入れ替わるのに時間がかかりますから,いったん寂れて復活するのには時間が掛かります.同じような構想でやっておられる温泉地がいくつかありますけど,時間軸を長く取れるようなものに転換をしていくということが大事かなと思いますね.

先ほども話しをしましたが,観光に関して言うと,人づくりの部分も遅れが目立っています.高度な専門家もなかなか作りきれていない.生産性が低く給料が高くならないという問題があって,それが新しい産業を作るという意味ではマイナスになっています.

地方都市が衰退していったりとか,それから観光で色々お金を投入してもうまくいかないという状況に関して,私たちのサービス学会のメンバーも色んな形で手助けをしていますけど,一番多いのは街おこしや地域ブランドではないかと思います.ただ,その街そのものの活性化というんですか,街の形を変えるところまで考えているっていうのは少ないんじゃないかなというふうに思うんですよね.だからそこまで考えられれば,サービス学の幅も広がって課題も明確になりとてもいいかなと私自身は思っています.そういった観点が勉強できる基礎的な理屈みたいなものが,本来はサービス学会や,私がいるマーケティングのところとか,それからサービスエンジニアリングとかですね,そういった立場から提供できないといけないと思うんです.

著者紹介

山本 昭二
関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授,博士(商学),神戸大学大学院修了後,関西学院大学商学部教授を経て,現職.サービス・マーケティングの研究に従事.消費者行動学会長,サービス学会長などを歴任.

増田 央
京都外国語大学国際貢献学部グローバル観光学科准教授.博士(経済学).京都大学大学院修了後,北陸先端科学技術大学院大学,京都大学を経て,現職.情報技術活用の観点での経営学,マーケティング,観光,サービス工学に関する研究に従事.

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