前回の記事から引き続き,第12回国内大会の模様を報告する.本大会では,オーガナイズドセッション6件と一般セッション19件,加えてポスターセッションが設定された.全体で107件の発表演題があり,活発な討議がなされた.本記事では,編集委員(小早川・増田)が参加したセッションの一部について詳細をお伝えする.

サービスデザイン(3)セッション

本大会では,「サービスデザイン」をテーマとする口頭発表は3セッションあり,合計12件の発表があった.そのうち,最終日3月7日に実施されたセッション「サービスデザイン3」では,4件の報告がなされた.サービスデザインは,多様なステークホルダーの共創を基盤とするが,これらの報告では事業開発,研究協働,働き方,不登校支援など多様なフィールドに関わるサービスデザインの手法や知見が示され,議論が展開された.また,本大会初参加者による発表も複数件あり,サービスデザインに対する関心の広がりと分野を超えた議論の場の必要性が感じられるようなセッションであった.
 
1件目は,(株)日立製作所の八木将計氏らから,「サービス事業におけるカスタマーサクセス実現のためのPRePモデルによる業務モデリング」というタイトルで報告がなされた.これは,長期的に顧客と関係性を築かなければならないカスタマーサクセス(CS)の専門家(CSM)が,顧客業務や問題点を構造的に理解するための業務モデリング手法について研究したものである.具体的には,顧客の「タスク」ではなく「成果物」の関係性から業務を記述する「PReP(Products Relationship Process)モデル」と「KPIツリー」を組み合わせた提案手法を試行し,その効果を検証した.報告によれば,提案手法を用いることでCSMの属人的な知識や業務アプローチが形式知化されやすく,また顧客業務とプロダクトやサービスの関係性を明確にできる点が高く評価されたことが示された.

2件目は,東海大学の富田誠氏らによる「研究の模型表現と対話がもたらす協働可能性」というタイトルの研究報告である.この研究は,サービスデザイナーにとって重要な,多様なステークホルダー間の共創関係の構築という課題に着目し,特に異分野間の研究者の協働を設計するフェーズにおいて有用な方法について検討したものである.タイトルにある「研究の模型表現」とは,協働しようとする研究者が,自身の研究内容を手に触れるモノを用いて非言語的に表現することを意味している.情報通信分野と福祉分野の研究者2名が模型を制作し対話するワークショップを試行し,その結果について報告がなされた.また,表現における課題や今後の可能性についての議論が交わされた.

3件目は,産業技術総合研究所の大槻麻衣氏らから,「Immersive Puppet Studio: AR人形劇とVR体験によって連続的なデザインを実現する参加型サービスデザインツール」というタイトルで報告がなされた.これは,参加型デザインの活動にAR/VR技術を取り入れたプロセスおよびシステムの提案を検討したものであり,特にアクティングアウトや人形劇のように人の演じる力を用いるデザイン活動に着目したものである.報告では,提案システムと既存手法の比較検証の結果や本システム利用が適しているデザイン対象のタイプについての知見が示された.また,プロセスを変えた場合のシステム利用の効果や今後の可能性についての議論が交わされた.

最後に,(株)日立製作所の依田崚汰氏らから,「こどもの居場所における支援記録の効果的な共有に関するサービスアイデア - 学校教職員の情報取得と活用に焦点を当て -」というタイトルでの報告がなされた.この研究は,不登校の子供の支援にあたる教職員が支援者に比べて接点が少ないという課題に対処するため,子どもの情報を効果的に活用できるように類型化し,教職員に届ける仕組みを提案するものである.報告では,技術的実現性およびニーズ・受容性の観点による検証結果として,支援記録中の文を自動的に類型化する際の判定ロジックの改善の必要性があることや想定ユーザーのニーズ・受容性を確認したことが示された.また,この仕組みにおける情報提供者である子どもの位置づけや今後の課題についても議論が交わされた.

観光サービスセッション

3月6日に実施されたセッション「観光サービス」では,座長の原辰徳氏(東京大学)のファシリテートのもと,4件の報告がなされた.観光サービスに関して,民間企業,行政,地域住民,旅行者など多様な観点からの議論が展開され,地域の活性化に関する様々な知見が提示された.観光サービスは,多様なビジネスやその利害関係者を包含する視点を提供するが,このような観光サービスの議論から,様々な研究を横断する連携が想像されるようなセッションであった.
 
1件目は,京都外国語大学の前田優希氏らから,「ユーザー生成コンテンツを用いた観光体験サービスのプロモーション: PSRと訪問意向の関係におけるエンターテインメントの媒介効果」というタイトルで報告がなされた.これは,京友禅工房における体験サービスのプロモーションが,パラソーシャルな関係(メディア上の人物に対してその視聴者が築く擬似的な人間関係)にある相手に及ぼす影響を実証的に研究したものである.その結果,企業が作成したプロモーションコンテンツよりユーザーが作成したコンテンツを閲覧した視聴者の方が,また,ユーザーと直接的な知人の方が,京友禅工房における体験サービスへの訪問意向に正の影響を及ぼすことが明らかとなった.

2件目は,慶應義塾大学の鈴木莉保氏らから,「GBA:地域資源から考える新たなアンテナショップの提案」というタイトルで報告がなされた.アンテナショップGBAは,自然資源に焦点を当て地元の人の意見を盛り込んだアンテナショップを指す.この報告では,地域のショーケースをどのように実現できるかという観点で,岡山県真庭市のアンテナショップとして1日限定で開催された「ローカルショーケースGBA」での価値共創活動に着目している.GBAでは地元の人々と会話しながら地元の食べ物を食べたり,ポスターやハンドブックで地元のことを学んだり,地元の産品からその地域を訪れたような気分になれる,従来の現地体験とは異なる体験が提供されたが,このイベントの開催前や開催中の定性調査から共創活動の価値や今後の可能性について議論が交わされた.

3件目は,文教大学の種村聡子氏らから「観光サービス分野のリカレント教育における学習支援の検討: プログラム支援担当者へのアンケート調査結果から」というタイトルでの発表であった.これは,観光サービス分野のリカレント教育プログラムの運営担当者による支援内容を明らかにし,リカレント教育における学習支援の必要性を検討したものである.発表では,リカレント教育プログラム運営担当者の支援状況の課題が分析され,プログラムの課題として,終了後の評価やサポートが不十分であること,プログラムの実施方法と最も重視していることとの乖離があったことなどが報告,議論された.

最後は,京都外国語大学の増田央氏から,「ITを活用したサービスエコシステム形成に関するケイパビリティ: ホスピタリティ産業における企業能力調査」というタイトルでの報告であった.ホスピタリティ業界でサービスエコシステムを構築するためのダイナミックケイパビリティとIT を活用ダイナミックケイパビリティとの関係に着目した内容で,分析の結果,創業100年を境に違いが見られた.具体的には,創業から100年未満の企業では,IT活用のダイナミックケイパビリティの「統合」がサービス エコシステムの形成に統計的に有意なプラスの影響を及ぼしていたが,創業から100年以上の企業(老舗)では,IT活用のダイナミックケイパビリティの「統合」がサービスエコシステムの形成に統計的に有意な影響を及ぼしていなかったことが明らかとなった.

著者紹介

小早川 真衣子(サービスデザイン3セッション)
千葉工業大学先進工学部准教授.2019年 東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了.博士(美術).多摩美術大学 研究員,愛知淑徳大学コミュニティ・コラボレーションセンター,産業技術総合研究所 人工知能研究センター 特別研究員を経て現職.産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 外来研究員.社会的に展開するデザインの実践とその方法・方法論の研究に従事.

増田 央(観光サービスセッション)
京都外国語大学国際貢献学部グローバル観光学科准教授.博士(経済学).京都大学大学院修了後,北陸先端科学技術大学院大学,京都大学を経て,現職.情報技術活用の観点での経営学,マーケティング,観光,サービス工学に関する研究に従事.

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