はじめに
2025年3月4日,サービス学会第13回国内大会において,オーガナイズドセッション(以下OSと称する)SDGsイノベーションが開催された.SDGsは17のゴールを持つ取組みであるが,その中でもサステナビリティとサービス価値創造に繋がる発表が行われた.セッションでは、資源の循環利用や廃棄物削減を促進するサーキュラーエコノミー,自然資本の回復と維持を目指すネーチャーポジティブ,そしてカーボンニュートラルによる炭酸ガス削減という3つの視角が強調され,これらを実現するための具体的なアプローチや技術革新が報告された.また,本セッションメンバーで行ったワークショップについても報告され,デザイン思考を用いてテーマに基づいたサービス価値創造の探求が成された.発表の概要を以下に示す.
報告概要
サーキュラーエコノミーへの「プロダクト概念」のTransition(森一彦先生)
サーキュラーエコノミーでは,資源生産性に照らし合わせ「プロダクト概念」を再構成することが重要になるという問題意識から,20世紀の産業社会での,モノに機能を内在化する「パッケージング」を介した機能標準化によるプロダクト概念から,ソフトウェアと融合したサービス・システムの中で「パスポート」機能を担うプロダクト概念を,より資源生産性の高いデジタル/サーキュラー社会での展開として考察している.具体的には,EUでの持続可能な製品イニシャティブ(SPI)(2022年)を構成する「エコデザイン規則(ESPR)」での「デジタル製品パスポート」(DPP)を事例として取り上げている.DPPは,持続可能性・循環性に関するデジタル情報を製品に紐づけて示すデータセットの総称であり,リニア型(大量生産・大量流通・大量消費)ビジネスモデルを循環型ビジネスモデルへとシフトしていく大きなチャレンジ性を秘めていることが指摘された.
人間と自然の相利共生を目指す農業サービスモデル(鶴川 亨氏)
自然との共生によるウェル・ビーイングを目指す農業サービスモデルについて報告された.このモデルでは,サービス提供者,サービス受容者,そして自然という3つの視点から,農業サービスが持続可能な発展をする方法について報告された.特に,環境に優しく,ネーチャーポジティブを意識した農業を消費者と共に実現するアプローチが強調されている.人間と自然の相互利益を実現することで,自然資本の回復と維持に貢献する取り組みとして興味深い内容であった.
カーボンニュートラル時代におけるソフトウェア開発の挑戦と展望(位野木 万里先生)
サービス開発手法として生成AIを使い,その上で顧客の視点,ソフトウェア開発者の視点,業界関係者の視点,など多面的な関係者を想定する事でより実践的な開発方法の提案が成され,これに即した形でソフトウェア開発における課題抽出が行われた.さらに,ソフトウェア開発におけるエネルギー効率の向上や,脱炭素化を考慮する事で,カーボンニュートラル時代に配慮しなければいけない課題を参加者全員が共有した.
三菱重工でのSDGsの取組み(藤岡昌則氏)
三菱重工でのSDGsの取組みについて,特に三原製作所の太陽光パネル設置により自社消費電力をまかない,また植栽による自然との共生について紹介している.長崎造船所ではカーボンニュートラルパークにおける脱炭素化技術の開発状況について紹介している.これらの取組みは、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上を通じて,企業の持続可能な発展を促進し,カーボンニュートラルの実現に貢献するものとして注目されている.

終わりに
本セッションでは,サステナビリティに関する多角的なアプローチが共有され,サーキュラーエコノミー,ネーチャーポジティブ,そしてカーボンニュートラルという視角に沿って,サービス創造における方法論としてデザイン思考が重要であるとの認識を共有した.各発表者の知見が集約され,SDGs達成に向けた実践的なアプローチが具体化され,今後のサービス・デザインや技術革新に向けた貴重な指針を得られた.
著者
藤岡昌則(ふじおか まさのり) サービスイノベーションラボ (同)代表 京都大学博士(経済学) 三菱重工業㈱でサービス開発を担当し現職。製造業のサービス化、医療組織のサービス・マネジメントが専門。