サービス学会ではゲーム理論やオークションメカニズムを用いたサービス運用の最適化や顧客ニーズとのマッチングに関する研究が盛んである.また,今大会では大規模言語モデルのサービス設計への応用についても複数の発表が行われた.私が座長を担当したセッションでは,学生を中心に実務にも直結する興味深い発表が行われ,ディスカッションも多いに盛り上がった.

報告概要

大規模言語モデルを用いた対話的な設計教育のための選択型学習スタイルの開発
大規模言語モデルを用い,個人の課題やニーズに合った教育プログラムの提供は,例えば言語習得への応用が話題になっているが,本発表では環境配慮型設計(エコデザイン)の学習において,習熟度や教育方法の違いに合わせた課題設定を行い,その効果検証を行った興味深い取り組みを紹介いただいた.このアプローチは学習テーマに寄って様々な応用可能性が考えられ,今後の発展が楽しみな研究である.

組合せオークションを用いた駐車場利用者の回遊性向上手法に関する研究
観光地において,観光客が複数の場所を見て回るように促す回遊促進策は地域活性化に効果的な取り組みとして知られている.本研究発表では,地方都市における回遊支援の問題として,徒歩での移動するには距離がある場所を巡るために,車で来た観光客をいかに他の交通手段も活用させながら回遊してもらうか,という地域の実情に沿った具体的な課題を設定し,その上で,組み合わせオークションの仕組みを使い,顧客の特性や関心に合わせたクーポンを配布しながら,異なる移動手段を提示しつつ回遊を促すという新たなソリューションの提案とシミュレーション結果を提示していた.観光促進は交通や飲食,小売といった複数のサービスが関係する複雑な課題であるが,オークションを用いた課題解決の取り組みは年々発展を続けており,今後地域の経済振興の中で活用がされていくことが期待される.

データ収集における協力行動の理論分析と経済実験:不完備情報下の非線形公共財ゲーム
AI等を用いた情報サービスは,多様なデータを収集することで,サービスの質の向上を図ることができる.一方で,自分のデータがもたらす効果は必ずしも目に見えづらいことも多く,また,データを提供することにはプライバシーへの懸念から否定的な反応を示すユーザも少なくない.この研究の特長は,提供されるデータを公共財と位置づけ,よりよいサービス提供のためにどうすればデータ提供をしてもらえるようになるか,という問いを立て,ゲーム理論に基づく検証をした点である.ユーザへの配慮とデータサービスの質の向上という両立が難しい問題に対し,新たな角度から切り込んだ興味深い発表であった.

おわりに

サービス学が取り組む課題は現実の問題と直結しているものが多く,学生が短期間で取り組むには困難なテーマが多い,という印象を持っていたが,近年は研究で用いられる先端的な手法をエレガントに当てはめ,新たな問題解決の方向性を感じさせるような学生の発表を目にする機会が増えており,学術・実務両面への貢献を生み出す分野としての発展を感じている.実際,企業の方々にも多く出席いただいており,そこから学び取れることは少なくないのではないかと思う.ぜひ今後も多くの学生にこの分野で研究に取り組んでもらえることを期待するばかりである.

著者

渡辺健太郎
国立研究開発法人産業技術総合研究所人間社会拡張研究部門ソシオデジタルサービスシステム研究グループ長.工学博士.デジタル技術を活用したサービスシステムの設計方法論の研究に従事.

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