ShareWel(シェアウェル)とは

ShareWel(Sharing and reuse platform for well-being)は,大学内の物品のリユースとシェアリングを促進するwebプラットフォームシステムである.東京大学インクルーシブ工学連携研究機構(RIISE)の価値交換工学講座の活動の一環として筆者ら文理横断チームが開発し,2023年11月より,東京大学工学系研究科と情報理工学系研究科(以下,工学系・情報理工系と略す)にて試験的に運用している.本システムを1年間運用した結果,従来比で約5倍のリユース出品数を実現した.この成果が評価され,2024年度の東京大学総長賞を受賞した.本報告では,ShareWelの仕組みと取り組みを紹介し,今後の展望を述べる.

ShareWelの動機

「もったいない」をなくしたい

大学は,什器や研究・教育機材など,様々な物品を保有している.これらの原資は,国からの運営費交付金だけでなく,公的機関や民間からの競争的資金など多様である.また,物品の管理は,部局,学科,研究室などの様々な組織単位でなされている.どの研究室がどのような物品を保有しているかは,研究室外から見えにくい.そのため,使用頻度の高くない物品を,複数の研究室が購入し保有している事態が生じうる.また,競争的資金による3年,5年の期間のプロジェクトで購入した物品は,プロジェクト終了後に使用頻度が落ちて研究室に遊休資産として保管される場合がある.研究室が保有する物品は,教員の退職や異動,研究テーマの変更,スペースの確保などの様々な理由により,処分する必要が生じる.

工学系・情報理工系では,不要物品が生じた際,メールで構成員に照会し,引き取り手が見つかれば譲渡できるリユースの仕組みがある.引き取り手が見つからなければ廃棄となる.不要物品を照会するか廃棄するかは,物品の管理者や担当者の判断に依存している.大型物品の廃棄では,定期的に所定の場所に物品を集める.回収を待つ大型廃棄物の中には,まだ使用可能と思われる什器や機材をよく見かける.この,「もったいない」状況を改善できないか,という思いからShareWelのプロジェクトが始まった.

廃棄とリユースの現状

物品の廃棄量を工学系・情報理工系で調査したところ,2021年10月から2022年11月までで4,175件,物品数にして8,675点あった.廃棄処分された物品種の内訳としては,事務用品が最も多く,次いで部品・材料・廃材であり,合計で半数以上を占めていた.

これに対して,メールでの不要物品として照会された件数は119件,物品数は292点であった.このことから,廃棄物品数に対して照会物品数の割合は,わずか3.4%程度に留まり,大半が廃棄されていることが分かる.不要物品として照会された物品種の割合を調べたところ,事務用品が最も多く半数を占めていた(図1).その中でも,机,椅子,本棚などの什器が多い.これらの什器は,一般にライフタイムが長い.また,省エネ性能などを考慮する必要もない.さらに,同じキャンパス内での取引では,配送による廃棄量もほとんどない.したがって,什器をリユースすることで環境負荷が増えるとは考えにくい.個人で使用するこだわりの家具ならともかく,公共的に事務用に使われる什器は,機能を果たせれば多少古く汚れがあっても使用に耐える.大量廃棄に出される什器の中には,それほど古くも汚れもない,まだ十分使えそうなものが散見される.大学では,スペースが貴重な資産であり,その確保のために什器を手放す場合が生じる.このとき,引き取り手がすぐに見つかればよいが,見つからない場合は,まだ使えても廃棄せざるを得ない状況がある.以上から,筆者らShareWelチームは,まず什器のリユースを主な対象として(しかし,それに限らない物品も含めて)検討することとした.

図1 工学系・情報理工系におけるリユースの照会割合

リユースへのバリア

メールでの不要物品照会は,リユースへの意思である.これが,廃棄に対してわずか3.4%であったことは衝撃であった.什器に限って考えると,修理不可能なまで使い切った物品が廃棄の大半を占めるとは考えにくい.調査や議論を通して,リユースへの意思を阻害する要因を抽出した.まず,メールでのコミュニケーションが煩雑になりやすく負担が大きいこと,譲渡におけるガイドラインが未整備であること,などの事務的な作業負荷や情報整理の問題が挙げられた.また,事務側や引き取り手との直接的なやり取りや,どの程度の状態の物品を照会に出して良いのかが不明である,などの心理的な負担の声があった.さらに,引き取り手がなかなか決まらず結局廃棄するなど,待ち時間の心理的,事務的負担も挙げられた.

ShareWelの開発と実装

2.3で述べた課題をふまえて,ShareWelを開発した.Web上で不要物品を登録し,簡単な手続きで事務方や引取り手と取引が可能なプラットフォームシステムである.学内のメールアドレスを用いてログインアカウントを簡単に作成できるようにした.システムの特徴を,各ステークホルダーの視点から紹介する.

図2 ShareWelのweb画面

引き取り手:ShareWelにログインすると,図2に示したように,出品されている物品がサムネイル画像の形式で一覧表示される.取引が終了した物品は,サムネイル画像右上に「取引終了」と表示される.これにより,引き取り手が見つかっていない物品が一目で分かる.また,取引が終了していることを知らずに問い合わせる,といった齟齬を防ぐ.物品のサムネイル写真を選択すると詳細画面に移動する.詳細画面から,出品者,物品説明,物品の状態,数量,引き渡し場所と期限の情報が閲覧できる.そして,この画面から,出品者への問い合わせメッセージをweb上から送ることができる.ShareWel上でのメッセージは,登録メールアドレスにも送信される.

出品者と事務方:図3に,引き取り手,出品者,および事務,それぞれの作業フローを示す.図中の破線で示したボックスは,ShareWel導入により無くなった従来のメール照会の手続きである.出品者がShareWel上で不要物品を登録すると,自動的に事務の担当者にメールが通知される.事務担当は,掲載の可否を判断し,譲渡しても良い状態の物品の場合は承認ボタンを押す.これにより,出品内容がShareWel上に,即時掲載・公開される.

図3 ShareWel導入前後の業務フローの変化

ShareWelの効果

ShareWelを工学系・情報理工系で1年間導入して試験的に運用した.ユーザ登録は任意であったが,学内ポータルサイトへの掲載やチラシの配布などにより,1,099名の有志ユーザ登録を得た.約1年間の試験運用で,出品数523件,取引数300件を記録し,従来のメールによる不要物品照会数の約5倍を達成した.以下に,業務改革とGX(Green Transformation)の効果に加えて,ユーザの声から得られた参加者のwell-beingに繋がる効果を論じる.

業務改革およびGX

ShareWelの主なステークホルダーは,大学全体,事務,出品者,および引き取り手である.それぞれの効果を以下に述べる.

大学全体:ShareWelの導入により,不要物品や遊休資産の有効活用が促進されれば,学内の研究・教育活動の活性化と経費削減が両立できる.また,大学からの廃棄量が減り,カーボンニュートラルへ貢献できる.

事務方:図3に示したように,事務方の作業が掲載依頼メールの確認,掲載判断,可否のボタン押下のみとなり,大幅に省力化される.実は当初,ShareWelの導入により取引件数が増えると,事務作業が増大するのではとの懸念の声があった.DXによる省力化が,ShareWel導入の同意を得る決め手となったと考える.

出品者:図3に示したように,出品者は,ShareWel上に出品情報を入力し,掲載されるのを待てばよい.これは,2.3で示した事務方とのやり取りに対する心理的なバリアを解消する.また,図2に示したように,他の出品状況を閲覧できるため,物品の状態を気にせず,気軽に出品できる.これにより,これまでリサイクルか廃棄かを迷っていた物品についても,とりあえずShareWelに掲載してみる,という動機をもたらしたと考える.

引き取り手:物品の一覧表示とカテゴリ検索機能により,物色や欲しいものの検索が容易である.また,引き取り状況のリアルタイム把握が可能であり,取引が終了している物品に対する出品者との問い合わせがなくなり,効率化された.

ユーザの声とwell-being

試験運用期間中に,利用ユーザ80名に対してアンケートとインタビューを求めたところ,60名から回答を得た.感謝を伴うポジティブな回答や,建設的な改善アイデア,課題についてのコメントが多数寄せられた.紙面の都合で全てを紹介できないが,以下に特徴的なものを紹介する.

①退職予定教員の研究室に声掛けし,研究室で不要となる物品をまとめて出品する「ガレージセール」を実施した.これを実施した研究室の担当者から,「掲載後,沢山の引き取り希望の連絡があり,当日の朝から事前に予約をした人だけでなく,ガレージセール品を見に来た人たちが続々とやって来て,30点近くあったものの8割以上は引き取り先が見つかりました.」との回答を得た.

②退職する教授のお気に入りだった木製の机と椅子の行方を教授が気にかけていたところ,ある学生が引き取った後に「学生が集って研究する場所で使わせていただいています.」との感謝の報告が届いた.机と椅子が学生の元に渡った話を聞いた教授は,学生が有効活用してくれたと喜ばれた,とのことである.

③「リユースをきっかけに,同じ学内だけれども普段会えなかった人たちとの交流を楽しめた」という声もあった.

①からは,ShareWelにおけるガレージセールにより,引き取り手が迅速に決まる様子が見て取れる.②から,教授の思い入れのある家具が次の世代の学生へと継承される様子がうかがえる.より新しいものがより価値があるとは限らない.筆者が知る英国の大学の教授室には,何世代にも渡って継承されてきた家具があり,歴史の重みと価値を感じたことを思い出した.③からは,モノのやり取りを通じた人材交流の可能性が垣間見える.機材の使用上のノウハウや,それを使用した研究成果など,使用を通じて得た情報が価値をもちうる(Ho & Yanagisawa, 2025).モノだけでなく,モノに付随する情報(von Hippel, 1994)をも循環できれば,それが新たな価値となって伝播し,ひいては研究・教育活動のさらなる活性化に寄与しうる.

ShareWelの今後

4.2のユーザの声①~③に共通する特徴は,業務効率化やGXだけでなく,ShareWel参加者の主観的well-beingを高める効果と可能性である.ShareWelから生まれた小さなwell-beingの集まりが,「いらない」を「嬉しい」に変換する可能性を秘めている.

今後は,リユースのみならずシェアリングにも拡張する予定である.また,ShareWelを一種の実験装置としてとらえて,多様な研究者に活用してもらうことにより,GXの研究基盤として貢献したい.さらに,ShareWelの仕組みやノウハウをパッケージ化できれば,他の大学,学校や,企業などの組織にも展開できると考えている.そのためには,草の根的なShareWelの活動を持続するための経済基盤が不可欠である.前途多難であるが,多くの方々からの激励やご支援に答えるべく,今後も持続可能な設計を考えていきたい.

謝辞

ShareWelは,東京大学インクルーシブ工学連携研究機構(RIISE)の価値交換工学講座の活動の一環として開発,実施している.ShareWelチームのマネージャである阪本絵美特任専門職員には,毎週のミーティングや様々な活動を強力にバックアップして頂いている.RIISEメンバーの方々には,ShareWelの活動を多方面からご支援いただいている.工学系・情報理工学系事務部の財務課からは,ShareWelを学内の事務システムと連携させるためにご尽力いただいている.そして,ShareWelユーザの皆様には,ShareWelの活用による価値循環への貢献に加えて,建設的なフィードバックや激励を頂いている.ShareWelにご支援ご参加いただいているすべての皆様に,深く感謝の意を表します.

参考文献

Ho, M.-X., & Yanagisawa, H. (2025). The value of user-generated information exchange: Driving sustainability in peer-to-peer circular economies. Journal of Cleaner Production, 491(144811), 144811.
von Hippel, E. (1994). “Sticky Information” and the Locus of Problem Solving: Implications for Innovation. Management Science, 40(4), 429–439.

著者紹介

柳澤 秀吉
東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授.博士(工学).同大インクルーシブ工学連携研究機構,大学総合教育研究センター,人工物工学研究センターを兼務.日本機械学会フェロー,日本感性工学会副会長,日本デザイン学会理事など務める.専門は,設計工学,感性設計学.

木見田 康治
東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・特任准教授.博士(工学).東京理科大学工学部第二部・助教,東京都立大学システムデザイン学部・助教を経て,2020年より現職.主としてCircular Economy,Product-Service Systems,製造業のサービス化,サービス工学,設計工学の研究に従事.

文 多美
株式会社メルカリR4D研究員.博士(環境学).東京大学研究員を経て,2024年より現職.専門は環境政策,消費者行動,環境影響評価.持続可能な消費に向け,中古品・シェアリングを用いたサービス・製品システムをLCAの思考から評価する研究に従事.

松下 旦
京都大学情報学研究科特定研究員・東京大学マーケットデザインセンター招聘研究員.博士(経済学).専門は,ゲーム理論とマーケットデザイン.機械学習と経済学の融合分野における研究に取り組むとともに,複数の社会実装プロジェクトにも従事.

ハウタサーリ アリ
東京大学大学院情報学環特任准教授.博士(情報学).同大インクルーシブ工学連携研究機構を兼務.専門は,ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI),Computer-Mediated Communication(CMC).

早矢仕 晃章
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻講師.博士(工学).同大助教を経て,2021年より現職.専門はデータ利活用知識の構造化とデータ設計支援.データエコシステムにおける分野横断的なデータ連携及び支援システムの研究に従事.

川原 圭博
東京大学大学院工学系電気系工学専攻教授.博士(情報理工学).同大助教を経て,2019年より現職.同大インクルーシブ工学連携研究機構機構長兼務.専門はIoTおよびAI応用.

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