2015年9月に国連が持続可能な開発目標(SDGs)を採択してから,5年が経過しようとしている.この目標にコミットするよう,多くの企業や自治体が,活動のリフレーミングを試みている.異常気象の多発や排外主義の跋扈など向かい風の状況が続く中,着実に社会を前進させるためには,学術知や実践知の結集が必要であろう.本誌では,様々な社会課題とサービスとの関わりを「ソーシャルインパクト」と括り,その動向を追っていきたい.

サービス学会でも継続的に議論されてきたトピックに,製造業のサービス化/Product-Service Systems(Baines et al., 2009)がある.これらは,元来,脱物質化の促進による持続可能性の向上を目指し提出されたコンセプトであったが,その発展期においては,経済成長や企業の競争力向上といった経済的側面が注目を浴びた.一方,近年では,欧州の研究者を中心に,再び持続可能性の側面が注目を集めている.この背景にあるのは循環経済(Circular Economy)のアジェンダだ.サービス化による持続可能性へのインパクトが如何ほどのものかに関しては,現在も慎重に議論が続けられているが,見逃せない接点だと言えよう.

また,サービソロジー20号(Vol. 5, No. 4)21号(Vol. 6, No. 1)で特集してきたように,地球環境だけでなく,我々人間のよい状態=ウェルビーイングにサービスがどう貢献できるかも重要な論点である.ウェルビーイングへの貢献を目的としたサービス研究領域はTransformative Service Research(TSR)と呼ばれる(Anderson et al. 2013).TSRにおいては,この領域で必要なのはアクションだと主張されている(もちろん理論も重要だ).実務家だけでなく研究者が,人々のウェルビーイングのために,どのようなアクションを起こしていくのか目が離せない.

以上に見てきたトピックを裏返すと,サービス提供に関わる倫理や責任といったトピックも考えられる.特に,近年のデジタル技術の進展は,効率化や高度化をもたらす一方,人々のウェルビーイングを損なう可能性も指摘されている(Burr et al. 2020).デジタルの時代においてサービス事業者が果たすべき社会的責任や,それを促す社会制度がどうあるべきかについては,今後議論を深めるべきトピックであろう.

世界的なアジェンダによる,ある種の制約に加えて,消費文化にも変容の兆しが見えつつある中,これらのトピックに真面目に取り組むことは,もはや事業の周縁にあるものではなく中核になっていくと予想する.本Webマガジンでは,ソーシャルインパクトの視点から,社会的意義をもつ営みとしてのサービス像を掘り下げていきたい.

参考文献

Anderson, L., Ostrom, A. L., Corus, C., Fisk, R. P., Gallan, A. S., Giraldo, M., … Williams, J. D. (2013). Transformative service research: An agenda for the future. Journal of Business Research, 66(8), 1203–1210.

Baines, T. S., Lightfoot, H. W., Benedettini, O. and Kay, J. M. (2009). The servitization of manufacturing: A review of literature and reflection on future challenges. Journal of Manufacturing Technology Management, 20(5), 547–567.

Burr, C., Taddeo, M., & Floridi, L. (2020). The ethics of digital well-being: A thematic review. Science and Engineering Ethics, Online first paper.

著者紹介

根本 裕太郎
東京都立産業技術研究センターIoT開発セクター副主任研究員,博士(工学).首都大学東京システムデザイン研究科にて博士後期課程修了後,日本電気株式会社を経て,2018年4月から現職.専門分野はサービス工学,設計学,Product-Service Systems.近年は,サービスにおけるテクノロジー活用とウェルビーイングに関心をもち,日本TSRコミュニティの共同主宰を務める.

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