床掃除ロボットRoomba(ルンバ),アザラシ型セラピーロボットPARO(パロ),人型ロボットPepper(ペッパー),新しい犬型ペットロボットaibo(アイボ)など,サービスロボットは一部普及してきたが,人との自然なインタラクションなど,研究課題も多い.
例えば,ペッパーの場合,ペッパーの定型的対話反応に人はすぐに飽きるので,臨機応変的な会話能力が求められるが,その実現はまだ困難である.ただ,ペッパーの動作機能は低いが,ユーザーがその利用方法を根気よく検討して実用化に成功した企業もある.はま寿司では,1年半かけてペッパーに受付業務を担当させ,ペッパーが手を高く挙げて「いらっしゃいませ」と対応させたら1時間半程度でモーターが壊れてしまったので,小さな挙手動作に変更させたら,長時間動作可能になったそうである.こうして,多くの店舗でペッパーが受付業務を担当し,受付付近の混雑が解消され,店員の業務効率は3割程度向上したそうである.ロボット機能と業務の擦り合わせを根気よく続けて,実用化することに成功した例である.
一方,私の研究室では,マルチロボットカフェを実践し評価している.2018年10月,大学祭で6種類のロボットを連携させたカフェを開店した.例えば,ペッパーが「クレープ生地の上に,似顔絵,ハート形,星形を描くことができますが,何か描いてほしいものがありますか?」と来店客に尋ねる.来店客が「私の似顔絵を描いて下さい」と注文すると,その注文データがロボットに送信され,ロボットマシン「Q」がクレープ生地を作って,カメラでお客さんの顔を撮影し,アプリで顔の輪郭線を抽出し,その輪郭線データをロボットアームJACO2に送信して,JACO2がクレープ生地の上に似顔絵を描く.この似顔絵描画機能は大変人気があった.またトヨタのロボットHSRは,注文したソフトドリンクをテーブルまで運び,胴体と腕を伸ばして,来店客にソフトドリンクを手渡す.さらに,ゴミ回収ロボットSociBot(ソシボット)は,クレープ用ゴミ箱とソフトドリンク用ゴミ箱の2つのごみ箱を背中にかついで店内を巡回する.ソシボットは顔の表情が変わるが,その顔が怖くて,子供達は「え~,何,この顔!」というような感じで最初は近づかなかったが,慣れてくると,ソシボットの後をずっと追いかける子供も出てきた.
来店客がマルチロボットカフェを評価したところ,サービスの迅速性や共感性の評価は低く,礼儀正しさやエンターテイメントの評価は高かった.低い評価は,ロボットは,人のようにはテキパキとは動けないこと,移動の途中に声を掛けても素通りしてしまうなど,臨機応変な対応ができないことに起因していた.しかしながら,ロボット双方がぶつからないようにお互いを避けて店内を移動する様子などは,人の店員なら当たり前であるが,ロボット店員の場合は,エンターテイメントになることが判って,新しい発見があった.
ロボットホスピタリティを実現する場合,ロボットの高機能化も重要であるが,ユーザーが関心を寄せるロボットの振る舞いなどは,実践してみて初めて分かるため,システム要求分析段階からユーザー視点を取り入れたアジャイルな開発プロセスが重要であろう.
著者紹介
山口高平
慶応義塾大学理工学部管理工学科教授.工学博士.大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了後,大阪大学産業科学研究所助手,静岡大学工学部助教授,同大学情報学部教授を経て,2004年より現職.
人工知能学会元会長(2012~2013年)現顧問.情報システム学会会長.
知識ベース推論,機械学習,知能ロボットなどの研究に従事.