2020年2月頃より広がり始めたコロナウィルス感染症COVID-19の影響は,当初は中国線,続いての韓国線の限られた範囲にとどまると思われましたが,感染渦が欧州,米州と全世界に広がり,また日本でも感染爆発阻止のための外出自粛等の対応の実施にあたり,航空会社も他のサービス関連産業と同様に甚大な影響を受けることとなりました.

航空路線への影響

当社の中国線,韓国線は昨今の海外インバウンド需要等の伸びもあり,国際線の中でも重要な路線ではありますが,それでも感染初期の影響については第4四半期の部分的な路線のみの対応であり,事業経営に与える影響も限定的と見積もっておりました.当時は,ご搭乗されるお客さまの安全の確保と便削減影響の最小化,また,中国・韓国地域に行く乗務員の安全と,また,帰国後の当該乗務員の一定の観察期間が必要となり次の業務につくことができなくなってしまうため,他国,他地域路線への影響を最小化するための乗務割再編成等の工夫が主たる対応でした.

3月に入ってウィルスの影響が欧州,さらには米州,世界全体に急速に広がるにつれて,また国内においても感染爆発防止のための移動自粛等の対策と並行して,当社の就航路線対応も大きく変わり,路線便数組み替えが日々の対応となっていきました.

公共交通を担う航空運送事業者としては,下記の相反する課題に応えていかなければなりません.

ひとつは社会にウィルスを蔓延させないため,移動を自粛・制限するための物理的な「供給の停止」の必要性.他方は,なんらかの目的のためにどうしても移動をしなければいけない方への「移動手段の確保」.例えば,医療環境が十分ではない地域に出向く医療関係者のみなさまの移動,家族の疾病等(コロナ以外含め)の対応のために必要な緊急の移動,また,外出自粛情勢のなかでその生活基盤を支えるインフラを保守する方々の移動 等です.さらには,各種物流が制限されている中で,国民のみなさまの生活を支えるための物資輸送や国際協力の航空輸送も必要です.

わたくしどもは,相反するこれらの課題に対応するため,以下の対応をしています.

  • 可能な限りの運航便削減
    国際線は当初は政府が指定した「入国拒否もしくは入国後の観察期間が必要な国」基準に準じます.国内線は本当に移動が必要なお客様が不便を生じない基準(例 複数便運航都市路線は基本的には便間隔を3時間以内とする等)に準じて運航便を削減,移動自粛の徹底に伴い、更に便数削減を拡大しました.
  • 旅客スペースへの貨物物資搭載
    必要な貨物物資の輸送のため.単に客室の空いたスペースに貨物を積めばいいということではなく,可燃性物質の制限,搭載物の固定,緊急時の対応要員の配置等各種安全方策を施しています.

移動自粛/移動必要性の相反する課題に対応した最適解を模索しているおりますが,これにより以下の効果をも考慮に入れて上記減便を決定しております.

  • 運航変動費の削減
  • 無駄な燃料消費等地球環境を考慮

図1, 図2はGW実績の前年と本年の比較です.

図1  FY19のお客様ご搭乗実績推移(四半期毎)
(出所:日本航空HPプレスリリース資料数値より筆者作成)
図2  FY20  GWの運航便数及びお客様予約状況
(出所:日本航空HP プレスリリース資料数値より筆者作成)

3月に運航便,お客さまの数が大きく減りましたが,4月以降政府の移動自粛要請,入国制限(国際線)等の方針に従い,さらに運航便数が減っております.

安全運航の原点について

運航便数減/お客さまの減に拘わらず,わたくしどもの責務である「安全運航」についてはまったく変わりはありません.人間の性として,こうした状況下では今後の不安等により,士気の低下,緊張感の緩みということはありうるものですが,当社では安全運航の責任と使命にはいささかの変わりのないことを再確認し,以下を骨子に具体的に重点点検事項を定め,一便一便の運航を継続しております.

表1  社内における安全に関する周知および指示
(出所:日本航空Corporate Safety(社内資料のため骨子のみ掲載))
以下の3つの警鐘を強く意識し,次ページに示すガイドラインなども活用して,自身や職場での安全を確保すること.

① 今の運航環境は安全上のリスクが高い状態にある
② 安全より会社の事業継続に意識が集中しがちとなる
③ 安全に影響するのはないかという視点を常に持つことが必要安全上の問題だけでなく,自分自身や仲間の抱える問題についても,気付きや概念を躊躇せず,積極的に共有すること.

(「FLIGHT SAFETY」社*1からの通知に連動したもの) 

今,わたしたちにできること

コロナウィルスの影響がどの程度続くのかはまだまだ不透明ですが,運航便を減じたこの期間においては,「今,わたしたちにできることはなにか?」を全社員が考え,運航の安全の確保と来るべき日の準備として以下の活動をしております.

図3  今わたしたちにできること その1(出所:日本航空Facebook)

業務において実施していること

  • テレワーク(事務部門は基本,現業部門は最小出勤)
  • ご搭乗されるお客さまの検温(国交省要請に基づく協力)
  • 業務開始前の体調管理・検温等
  • 予約キャンセル料の特別措置(期間を定めた無料化)
  • マイレージ関連の有効期間の変更(お客さま利便性確保)等

来るべき日に向けて準備していること

  • 空港カウンター,車いす,ベビーカー,お客さま荷物搬送ベルトコンベア等の清掃
  • 接客マナー リマインド訓練
  • 機体整備(時間限界で管理されている要目の前倒し実施)
  • 各種技量訓練,安全研修 等

日頃より当然実施すべきものではあるかもしれませんが,多忙な日常業務でついつい疎かになってしまっていたものもありました.今,来るべき日に備え,こうした準備をしています.

日常運航の減少に伴い生じた時間を有効活用していること

  • (職種・性別に拘わらず裁縫が得意な社員が集まって)マスクを製作し,地域の幼稚園,保育園に寄贈
  • (園芸が得意な社員が集まって)地域農業の手伝い(事例:JALAgriport㈱における野菜収穫@成田)
  • (工作が得意な社員が集まって)フェイスシールドの作成および養護施設等への寄贈(JALエンジニアリング技術を活用)
  • (Facebook等を活用した)航空教室や安全の取組の紹介等

これらについては弊社Facebookにて「今,わたしたちができること」と称して社員が来るべき日に備えて取り組んでいる姿を紹介しております.

財務環境について

当社のFY19決算を先月末に発表しました.四半期比較においては 2020第4四半期の収入が大きく減少していることが明確であり,COVID-19の影響が企業業績にも明確に出ていることがわかります.

残念ながら現下状況においてこれを直ちに挽回するということは困難です.

この間,費用削減などの自助努力を続けながら,運航変動費(燃料費,空港施設使用料),整備費,その他共通経費等の管理可能費用についての削減努力を続けていく必要があります.

図4  FY19年度決算数値
(出所:日本航空HP決算発表および発表数値に基づき筆者作成(グラフ))
図5  日本航空営業費用内訳FY2018
(出所:日本航空HP決算発表2018(グラフは筆者作成))

さいごに

日本航空に限らず,サービス関連業界全領域においてはCOVID-19の影響を大きく受けております.今後どのくらい続くのかは予測が困難な状況ではありますが,お客さまをはじめ国民のみなさま,および社員の安全を最優先とした対応を継続するとともに,これが終息した暁には経済の活性化に向けて最大限寄与できるよう準備をすすめる方針です.「今,わたしたちにできること」を共通理念として各種業界のみなさまと協力していきたいと考えています.

著者紹介

落合 秀紀

日本航空㈱ 広報部担当部長(安全担当).東京大学工学部卒業(1984),日本航空㈱ 品質保証部長(JALエンジニアリング),日本トランスオーシャン航空㈱ 整備担当取締役等.

  • *1 世界中の航空会社に安全情報を提供する国際機関

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