2019年末,中国湖北省武漢市からはじまったコロナウイルス感染症COVID-19が,中国全土からアジア,さらに全世界に広がり,世界は大混乱に陥っている.
亀田グループにおけるCOVID-19に対応した活動は,2020年1月29日武漢からの政府チャーター機第1便で帰国され,勝浦ホテル三日月に収容隔離された191名の方々の健康チェック,感染管理対策,PCR陽性者の隔離入院といった初期対応からスタートした.その後は感染拡大に対応するため,2月26日にCOVID-19感染対策本部を設置し,日々のCOVID-19患者への対応と共に,千葉県県南地域に感染が蔓延した場合を想定した準備を行ってきた.
対策としては大きく分けて,地域のあらゆるステークホルダーを巻き込んだ地域連携システムの構築と,亀田総合病院を中心とする亀田メディカルセンターのフェーズごとの病院運営計画を策定した.地域連携として最初に行ったことは,医療機関や医師会,行政における役割の明確化であり,3月31日に地域の病院,医師会,行政,保健所等が集まり合意形成された.安房地域には小規模な自治体病院が3病院存在する.そのうち亀田グループと地域医療連携推進法人を作っている富山国保病院(51床)をCOVID-19専門病院とし,4月8日にはすべての一般患者を転院させ,外来診療も中止し,COVID-19の軽症,中等症患者の受け入れを開始した.
亀田総合病院の主な役割は,地域の基幹病院として人工呼吸器を必要とするような重症患者やハイリスクな中等症患者の受け入れ,発熱外来やPCR検査の実施等であるが,当初は地域内での感染がほとんど無かったために千葉県県北からの患者受け入れを行った.行政に対しては,他の地域で混乱のみられる,PCR陽性患者または疑い患者の転院搬送や救急搬送において,基本的に安房広域市町村圏事務組合が管轄する安房消防の救急隊が担うことを要望し合意された.医師会はCOVID-19感染者のための病床を確保するために,一般患者の転院にできるだけ協力することと,館山地域の中心的医療機関で,亀田グループの社会福祉法人太陽会 安房地域医療センターの発熱外来に医師を派遣することとなった.
一方,このような状況だからと言って,一般的な救急疾患や心疾患,脳疾患,多発外傷などの命に係わる病気や外傷が減るわけではない.普段なら助けられる患者を救えないとしたら本末転倒である.そのため一般診療,特に救急医療を維持するために,亀田総合病院の救命救急センターの機能は維持し,一般救急についてはグループ病院である安房地域医療センターで可能な限りカバーすることとした.そのためCOVID-19への対応としては,発熱外来のみとし,入院治療は行わないこととした.このように,感染が広がる前に,地域医療を崩壊させないための役割分担と連携が構築された.
同時に亀田総合病院では,県南地域におけるCOVID-19の蔓延に備え,多職種からなる「COVID-19対策TEAM」を結成し,最大,人工呼吸器15台を動かせるCOVID-19専用ICUと31床の一般個室病床を準備している.最も不足するであろうICUスタッフに関しては,初期研修医2年目と内科専攻医をローテーションから一時外し,COVID-19専用ICUへの配置を計画している.Postsurgical ICUに関しては集中治療科と共にそれぞれの外科系担当科が協力し治療にあたる.千葉県県南地域は人口の少ない,高齢化・過疎化地域であり,亀田総合病院以外に高度医療を行える医療機関が無いため,このようにCOVID-19対策と同時に一般診療の継続が不可欠である.
さらに,グループ会社が運営するJR千葉駅前のビジネスホテル(約140室)を,COVID-19,PCR陽性軽症者,回復者専用の宿泊施設として4月30日より受け入れがスタートした.運営は千葉市が行うが,準備にあたって,亀田総合病院感染症科の医師や感染管理専門看護師の協力を得て,また勝浦ホテル三日月での経験も活かし,感染管理システムおよび生活サービスシステムを構築した.
COVID-19は世界に大きな試練を与えると同時に,社会システムや価値観のパラダイムシフトをもたらすかも知れない.テレワークが普及すれば,風光明媚で土地も安く東京から近い南房総にとって大きなチャンスが来ると考えられる.
著者紹介
亀田 信介
医療法人鉄蕉会 亀田総合病院院長,社会福祉法人太陽会 理事長.
1991年 亀田総合病院院長就任.1987年 社会福祉法人太陽会 理事長就任.