ナポリと香港とともに世界三大夜景と言われる函館ではあるが,今回のコロナウイルス感染症COVID-19の蔓延より,函館で見られる夜の風景は大きく様変わりした.夜景スポットに導く函館山ロープウェイが運休となり,朝市や赤レンガ倉庫街,湯の川温泉では,観光客の姿がほとんど見られない.インバウンド需要が函館の経済を牽引してきたが,インバウンドの回復にはかなりの時間を要し,また観光客が求める観光資源の価値も今後大きく変わるであろう.COVID-19との戦いは長期戦と予想されるため,移動の自粛明けから,マイクロツーリズム(近場旅行),日帰り観光,宿泊観光,インバウンドへと,函館が提供する観光サービスを段階的に組み立てる必要がある. 

本年5月に,NHK函館放送局から函館夜景の分析の打診があり,6月1日(月),ほっとニュース北海道で放送された.都市計画を専門とする私の研究室では,16年前に論文「都市夜景の俯瞰景に関する計量分析-函館市を対象として」を都市計画学会論文集に発表していた.それを検索しての連絡であった.放送局からの依頼は,(1)中期的トレンドの把握:過去15年と現在(COVID-19感染拡大前)との比較,(2)COVID-19感染拡大の影響抽出:COVID-19感染拡大前と後であった.放送局より提供いただいた,函館山からの定点夜景写真から,十字街を中心に中期的に光量が変化していること,COVID-19感染拡大の影響で光量が落ちていることが確認できた.一方で,気候などの条件から画像情報で数値比較することは難しいと判断した.そこで,客観性を確保するために,函館とのゆかりが希薄な大学院生修士たちに,素直に目で見える明るさを時系列比較するよう依頼した.そして,放送局と相談し,変化を裏付けるため,人口動態や空き家,交通量のデータを用いて都市計画の観点からの解釈を行うこととした.

まず,中期的トレンド変化の把握(1)では,全体,そして夜景の大部分を構成する西部地区での光量が落ちていることを確認した.郊外化などにより人口密度が低下しており,特に,西部地区での空洞化が大きな要因である.人口減は交通量も落としており,函館夜景の特徴となるヘッドライトの明かりが減っていることも示せた.さらに,空き家の増加や,北海道新幹線開通により建設された高層のホテルやマンションは,夜景をまだら模様にさせていること,省エネ,遮光カーテン,LED化などのライフスタイルの変化が明かりの質を変えていることを指摘した.一方で,COVID-19の影響(2)は明らかで,函館空港や湯の川温泉の光量が落ちていることが一目でわかる.対照的に,住宅地では変化が少なく,「ステイホーム」が浸透していることが読み取れた.その立地条件(場所と高さ)の良さから,夜景は函館の生活様式やまちづくりを反映する総合指標である.同じ光であっても例えば作為的なディズニーランドのエレクトリカルパレードのそれとは全く意味は異なり,生活の明かりの集合体である函館夜景は栄枯盛衰に従い変動する.

また,函館とその周辺には屋外観光地も多い.時間差入場など観光施設を面的にコントロールできれば密を作らないことを実現できる.函館ならではの生活に密着する三密回避ツアーを例示として提案し,新しい旅行スタイルを開発する意義を総括とした.

今回の取材分析では,COVID-19の影響で現地に行けないため,リモートという制約がある中で分析と提案をしなければならなかった.それを逆手にとり,函館を訪問したことが無く,全く先入観を持たない修士学生2名を分析班に組み込んだ.お陰で,彼らには,COVID-19収束後に函館派遣を確約せざるを得なかったことも付け加えておく.

オンラインだと時空間を越えて放送局と頻繁に情報交換ができ,現地にいないハンデを克服できた.加えて,分析手法に選択肢が少なため,かえって集中できる環境も確保でき進捗管理は容易であった.これまでの大学と地域との関わりの順序は現場→提案の順序であったが,今回は提案→現場となり順序が逆であった.ウィズコロナで,地方の活性化を課題に関東圏の学生がバイアスのない目線で集中して取り組み,アフターコロナで,現場を訪問し,五感で自分たちの提案を検証する,大学地域間の新たな連携様式とも言えよう.

昨今,東京一極集中解消や地方創生事業の一環として,若い世代に地方との関わりが求められているが,地域おこし隊,ましてや地域移住はハードルが高い.しかし,今回のような活動は,自粛生活を強いられてエネルギーを蓄えているデジタルネイティブには絶好の学習機会である.「人のため」と学生の目が輝いているのが印象的だった.COVID-19感染症対策の一環として,政府そして本学でも学生への現金給付が検討されている.経済的支援も大事だが,コロナ禍で学生が求めているのは将来を見据えた社会貢献である.函館放送局との連携を通して,それを実現できたと自負している.

写真左 閑散とする函館朝市(2020/05/24,藤田涼平撮影) / 写真右 三密回避の撮影(2020/05/26,下津大輔撮影)

著者紹介

大澤 義明

筑波大学システム情報系社会工学域 教授.
都市計画学会論文賞(2009年),オペレーションズリサーチ学会文献賞(2001年),応用地域学会長(2019年~)

おすすめの記事