VDT症候群とは?

VDT症候群とは,VDT(Visual Display Terminal)作業,すなわち,コンピュータなどのディスプレイやキーボードなどの情報機器を用いた長時間の作業によって健康障害が症状として表れている状態のことをいい,主に眼科や産業保健領域で使用される言葉です.VDT症候群の症状としては,①眼精疲労などの視機能に関する症状,②首や肩のこりなどの筋肉・骨格系に関する症状,③いらいらや不安感などの精神・心理的な症状があります.特に,①の症状は作業時間に関わらず,9割の人に現れます.

VDT症候群は,当初,ディスプレイを注視することによる①②の症状として注目されるようになり,昭和60年,当時の労働省によって,初めてVDT作業におけるガイドラインが策定され,平成10年からは厚生労働省による調査も行われてきました.平成14年には,急速なIT化の進行により,心身の疲労を訴える作業者が増えたことに伴い,パーソナルコンピュータ(以下,パソコン)等の情報機器を使用する作業における「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」として見直されました.さらに,その後,キーボードをもたないタブレット端末やスマートフォン等が広く普及し,「平成29年通信利用動向調査(総務省)」*1によると,スマートフォンを用いてインターネットを使用している人の方がパソコンを使用している人よりも多くなるという,前年の調査と逆転した結果が示されました.これらのことから作業者の多様な作業形態に対応するため,厚生労働省は令和元年に,再びガイドラインの見直しを行い,「VDT作業」を「情報機器作業」として,「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(以下,VDTガイドライン)」*2を策定しています.

VDT症候群の原因についてみると,長時間の適切でない姿勢での作業と強い関係があることが分かっており,ある調査では,4時間以上の作業で,強い疲労感や,筋肉・骨格系に関する症状を訴える人が増えるという結果がでています.長時間の適切でない姿勢での作業では,長時間ディスプレイを見続けることに加えて,画面を凝視するために,頭(眼)や手の動きが固定されることによって,身体の動きが極端に制限されることになります.

オンライン授業に切り替え,2020年度は始まった!

札幌市立大学(Sapporo City University,以下,本学)は,北海道札幌市に位置する,平成18年に開学した比較的新しい大学で,デザイン学部と看護学部の2学部と,デザイン研究科と看護学研究科(博士前期課程,後期課程),助産学専攻科からなる公立大学法人です.本学は,デザイン学部と看護学部がコラボレーションするD×N(ディーバイエヌ)の連携教育を特徴としています.

1月末より拡大したコロナウィルス感染症COVID-19は収束に向かうことはなく,2020年度の授業計画を立てる3月に,2020年度はオンライン授業を行うことが決定しました.本学にとって,オンライン授業は初めての試みであり,授業開始前から学生・教員とも,会議や模擬授業を通して活用するグループウエアの使い方を学びながら準備を重ね,実際のオンライン授業が開始されたのです.

オンライン授業,要注意!-本学におけるVDT症候群の対策

オンライン授業の開始と同時に,VDT症候群の対策を開始しました.

全教員に向けては,学生のVDT症候群を予防するためのオンライン授業配信時の配慮を依頼しました.その内容は,①60分以上,連続した画面を見なくてもよい授業構成とすること,②講義中に姿勢をかえる,全身を動かす時間を設けること,③一定時間,画面から離れる課題(10分以上が理想)を出すこと,④部分的に紙媒体によるテキストや資料等を活用すること,の4点です.

学生に向けては,VDT症候群の予防啓発のためのリーフレット(図1)を作成し,配信しました.リーフレットは,デザイン学部の現役学生にデザインを依頼し,VDT症候群を予防するための「今,ただちに行える」行動4点に絞って,一目で内容が分かるイラストとともに簡潔に示しました.すなわち,行動を調整すること(①1時間に1回のストレッチ),環境を調整すること(②作業場所とディスプレイの明るさ,③位置や姿勢の調整),心身を整えること(④食事と睡眠)です.

加えて,VDT症候群で出現する症状は,本人が訴えない限り,周りの人が気づきにくい自覚症状のため,自分の体調をモニタリングして,環境や行動を見直そう!と呼びかけ,必要に応じて専門家に繋ぐためのメッセージを掲載しました.さらに情報が知りたいときのために,厚生労働省のQRコードも掲載しています.

このリーフレットは,デザイン学部と看護学部の協同であるD×Nを体現しており,かつ現代学生に活用されやすいものであると自負しています.また,本学のウェブサイトにもアップしています*3

図1. 学生向けVDT症候群の予防啓発のためのリーフレット「オンライン授業,要注意!」

分かってはいるけれど,どうしたら良いの?-助産学専攻科の取組み

オンライン授業を受ける学生は,厚生労働省によるVDTガイドラインにおいて拘束性のある作業をする者に該当します.教員は学生が心身に負担なく,学修過程を進められるよう支援する必要がありますが,教員である私たちも初めての体験であり,実際には試行錯誤の毎日です.VDT症候群を予防するための方策は,実施されて初めて効果を生むものです.そこで,本学で作成したリーフレットをもとに,助産師学生に提示した具体的対策をご紹介したいと思います.

在宅で受講する学生にとって,家の中の日当たりの良さは心地よいものです.しかし,ディスプレイ画面の見にくさにつながるため,日中の講義は窓からは離れ,室内灯をつけて明るさを保って画面を見るように促しています.また,前傾姿勢を長時間とることも避けなければなりませんが,音が聴きにくい場合は画面に近づく,真剣になるとずっと画面を見続けるといったことが起きます.イヤホンを使用することや,授業の途中で座位から立位,時に部屋で足踏みしながら受講することを提案しています.また,授業中にストレッチやヨガを取り入れて,学生からはリラックスできたと大好評です.ちょっとしたことですが,VDT症候群の予防行動を実行してもらうことが可能です.

リラックスといえば,ガムの咀嚼によるVDT作業中の眼疲労が低減する可能性が報告されています*4.対面講義でガムを噛むことをお勧めすることは滅多にありませんが,オンライン講義ではガムを噛みながらの受講を1つの方法として提案したところです.

VDT作業においては,身体の症状だけではなく,心の症状にも注意が必要です.特に,集中力が続かない,画面を見ているとイライラするといった症状は,「自分だけがおかしいのでは?」と思い込み,表明することが難しい場合があります.教員サイドから具体的な症状を提示して学生の不調が無いかどうかを確認するといった配慮も必要です.

加えて,VDT作業を長時間実施するのは教員も同じです.学生も教員も健康を保ちつつ,この難局を乗り越えたいものです.

著者紹介

荒木 奈緒

札幌市立大学看護学部教授.助産学専攻科長.
2009年,札幌医科大学保健医療学研究科博士課程修了後,北海道大学保健科学研究院創成看護学分野に着任.博士(看護学).2016年,札幌医科大学保健医療学部助産学専攻科,准教授着任.2019年より現職.
研究分野は母性看護学,助産学,遺伝看護学.

小田 和美

札幌市立大学看護学部教授.
千葉大学看護学部卒業後, 1989年,千葉大学大学院看護学研究科修士課程修了.2002年,千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程単位取得退学.看護学修士.
大学病院での臨床経験の後,岡山県立大学,岐阜県立看護大学,長野県看護大学を経て,2014年より現職.
研究分野は成人看護学(慢性期看護学),患者教育,外来看護.

  • *1 総務省 通信利用動向調査 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05a.html
  • *2 厚生労働省 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000184703.pdf
  • *3 本学では,ウェブサイト上ではオンライン授業を遠隔授業と称しています.  https://www.scu.ac.jp/covid-current/66639/#pdn-66639
  • *4 菅野範,安藤智教,浅川賢,大澤謙二 (2019),VDT作業中のガム咀嚼による眼疲労低減の可能性,日本咀嚼学会雑誌,29(2),58-64.
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