コロナウィルス感染症COVID-19により大きな損害を受けた日本社会,特に多くのサービス学会会員の属するサービス産業の受けた影響は大きい.コロナ禍は,自然災害の増えた昨今でも世界的に未経験の規模で,社会全体が混乱し,断片的かつ正しいかどうかわからない情報に誰もが困惑した.学会の役割は,このような時に正しい情報や知識を提供する拠り所であるべきと我々は考えた.そこで,関係する産業界や学術界の会員,広くは社会全体に役立つ知識・情報・議論を能動的に発信していこうという緊急企画が立案された.マガジン委員を中心に投稿の呼びかけが始まったのが5月初旬のコロナ渦中である.

 幸いにして,多くの学会関係者の賛同と協力を得ることができ,5月7日から6月22日までの一ヶ月半の間に50件のコラムを寄稿して頂いた.内訳は,産業界から30件,学術界から20件である.産業界からは,航空,フィットネス,病院,看護,介護,医薬,小売,農業,金融,教育,不動産,宿泊,飲食,音楽,IT,物流さらには税務分野まで,実に多様な業界からの寄稿を頂いた.現場からのレポートや,課題・問題提起,Post,After,またはWithコロナに向けた提案も含まれる.学術界の内訳は社会科学系が11件,工学系が6件,医療・看護系が3件であった.学術界の分野は経営戦略,マーケティング,会計等の経営学関連,都市計画等社会学関連,数理的なシミュレーションやAI,データ分析技術など工学関連と,サービス学会らしい広い範囲からの寄稿を頂いている.企画の前半は現場の実情を報告するものが中心で,後半はCOVID-19に関連する課題へのソリューションやAfter, Withコロナの展望に関するものが増加した.

 5月初旬のタイミングでは,企画にあたりマガジン出版委員や学会の理事・監事はそれぞれ,誰に意義のあるコラムを書いてもらえるか,また,依頼できるかを考えたはずである.そして執筆者も情勢が不透明な中で何をどう書くべきか,迷われたに違いない.その中でこれだけの数の貴重な情報が集まったことに今更ながら学会の役割の重要さを実感している.

 サービス学会では,本緊急企画とは別に,WEBマガジンで7つの学術テーマを2020年から2年間の重点テーマとしている.デジタル化,サービス理論,サービスデザイン,サービス人材,人間行動,サービス生産性,ソーシャルインパクトの7つである.今回の緊急企画のコラムを,それらのテーマに再度分類してみたところ表1のようになった.複数のテーマにまたがるものがほとんどであるが,あえて主要テーマを一つ選ぶ形で分類している.これまで経験がない規模と期間の外出制限とそれに伴うテレワークやオンラインコミュニケーションへの移行の影響は大きく,それをデジタル化の切り口でとらえたものが15本と最多となった.次に,同様の現象を社会への影響の視点で捉えるソーシャルインパクトをテーマとするものが10本,人間行動の面から捉えたものが9本となった.また,コロナ禍の中,急場で対応した仕事や教育,日常生活などから浮上した様々なサービス設計上の課題に対するサービスデザインをテーマとするコラムも5本あった.

表1 学術テーマ別でみた緊急企画コラムの本数
学術テーマコラム本数
デジタル化
ソーシャルインパクト
人間行動
サービスデザイン
サービス理論
サービス人材
サービス生産性
該当なし
15
10
9
5
3
0
0
8

 これらの結果はマガジンだけでなく,今後の学会全体の活動にも活かしていくべきと考える.サービス学会では,COVID-19対応研究支援制度を発足し,COVID-19に関連する研究公募を6月22日よりスタートした.

 これは,「2020年に勃発し全世界を巻き込んだコロナウィルス感染症COVID-19により甚大な影響を受けたサービス産業の正常化と新たな持続的発展に貢献するためのサービス研究」を学会として支援するもので,支援金額は最大150万円,採択件数は3件程度である.コラムで取り上げられた事象や理論・分析などは,本公募のテーマに繋がるものと考えられる.例えば,コラムでは,外食産業の自粛要請に基づく休業で働きたくても仕事のないパートタイム従業員などを農繁期にある人手不足の農家とマッチングする事例があった.同じくコラムで取り上げられたシェアリングエコノミーも基本的に共通する思想がある.新型コロナウィルス影響下の社会に対して,直ちに貢献できる実践としてテーマの例に挙げられている「人手不足と人余りを解消し雇用を確保する適切なマッチングができる仕組みの構築」や「ニーズとシーズのマッチングができる仕組みの構築」といったテーマに直結する.また,感染拡大経路のシミュレーション結果を報告したコラムもいくつかある.これは,新型コロナウィルス影響下における産業の構造研究のシミュレーションや,次の感染症対策などに関わるサービス研究の例にある様々な分野のデータ利活用などのテーマと関連する.また,教育現場での授業のオンライン化や医療現場での成功事例や課題もいくつかのコラムで取り上げらえている.これらは,次の感染症対策に対する産業界・社会との協働のためのIT化や仕組み化ができていない産業への支援に関連する.コラムではコロナ禍での人々の行動や心理を取り上げるものも複数あり,インフォデミックやTransformative Service Research (TSR) として解説分析もされている.これらは人材育成や顧客のマインドセットの課題につながる.

 公募に関しての詳細は,以下のサービス学会ホームページをご参照いただき,振るってご応募いただきたい.

<サービス学会 COVID-19対応研究テーマ公募のお知らせ>
http://ja.serviceology.org/news/20200622_overthecovid-19.html

 

 最後にこの場を借りて,それぞれに大変な状況の中でご執筆いただいた執筆者の皆様,執筆者の紹介や依頼などでご協力くださった皆様に心よりお礼を申し上げたい.

参考. コラムのビュー数TOP10(6/25 9時時点の集計結果)

著者紹介

戸谷 圭子

明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授.
あさひ銀行(現りそな銀行),コンピューターベンダーを経て,1999年,金融サービスに特化したコンサルティングファーム(株)マーケティング・エクセレンスを設立,マネージング・ディレクター.ユアサ商事(株)社外取締役兼任.日本学術会議連携会員,人間工学デザインプロセス国際標準検討委員会委員,産業技術綜合研究所人間拡張研究センター客員研究員,経済産業省日本産業標準調査会臨時委員,サービス学会マガジン編集委員長をはじめ,サービス関連の役職を多数兼務.書著: 『最新版 イラスト図解 銀行のしくみ』(日本実業出版社),『ゼロからわかる金融マーケティング』(きんざい),『カスタマーセントリックの銀行経営』(きんざい),など多数.

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