サービス学会第13回国内大会が盛大な盛り上がりを見せる中,2024年度もあとわずかとなった.サービス学会のWebマガジン「サービソロジー」においても今年度を締め括りたい.

今年度は,3特集から合計13本の記事公開を計画し,このうち8本が2024年度に公開されている.残り5本についても2025年4月から5月にかけて公開される予定だ.それぞれの特集の概要を簡単に振り返るとともに,執筆および取材をご快諾いただいた皆様にこの場を借りて感謝を申し上げたい.

ヘルスケアサービス:

特集「ヘルスケアサービスの変革」では,近年生じるヘルスケアサービスの新展開を,4本の特集記事として取り上げた.特集を進める中で,サービスの根幹ともいえる価値共創がその変革のコアとして現れた.

各記事で取り上げた内容からは,ヘルスケアサービスの新展開が内包するヘルスケアについての新たな価値観・考え方や価値を生み出す実践の幅広さが見て取れる.

個別のトピックは,サービス学がこれまで議論し,またそこから発展した内容と強く関連するものである.すなわち,サービス学はこれからのヘルスケアサービスの更なる変革の一助足りえる領域である.また,そうでなければならないとも特集を通じて改めて感じた.本特集が,読者の取り組むヘルスケアサービスの研究・実務に刺激を与えられれば本望である.

デジタルコミュニケーション:

この特集では,サービス業における従業員向けデジタルコミュニケーションツールを,4本の特集記事として取り上げている(4本のうち2本は2025年4月に公開予定).綿善旅館の小野氏には,情報共有のためのツール活用と,自動化と不便さの中にある良さの両立の重要性をご紹介いただいた.北陸先端科学技術大学院大学教授の内平氏には,音声を活用して従業員の気づきを管理するシステムについてご紹介いただいた.ツールの進化と組織の適切なマネジメントの重要性を改めて認識した.また,今後公開される2本の記事について先んじて紹介すると,MS & Consulting株式会社の錦織氏,角田氏,村井氏からは,企業が自発的にツールを活用する意義についてお話しいただいた.Shamrock Records株式会社の青木氏には,字幕作成機能付きツールが障害者や健常者双方に利益をもたらす可能性をご紹介いただいた.これらの記事についても楽しんでいただければ幸いである.

価値共創を促すコミュニケーションを求めて:

価値共創プロセスであるサービスにおいて,重要な要素であるコミュニケーションを深く掘り下げることを目的に,本特集を企画した.この特集では,解説記事のほか5本の記事を計画しており,うち2本を2024年度に公開している.1本目はつくば言語技術教育研究所所長の三森ゆりか氏による「『国語』教育の改革が日本を救う-言語技術教育の必要性」で,言語の5機能(聞く・話す・読む・書く・考える)の重要性を説きながら今後の日本におけるコミュニケーション教育のあり方を論じている.2本目は,「組織内における適切なコミュニケーションをどう構築するか? ―株式会社カインズにおけるチームビルディングを事例として―」と題した株式会社カインズ中村聡太氏へのインタビュー記事である.チームビルディングの事例から,部下の”気づき"を促したり,多様な価値観を尊重したりしながら”経営理念”を踏み外さないようなチーム運営を,コミュニケーションの観点から掘り下げている.残りの3本は2025年度の公開となるが,いずれも示唆に富む内容である.ぜひ楽しみにお待ちいただきたい.

来年度に向けて:

来年度に向けた特集としては,今年度から継続中の「価値共創を促すコミュニケーションを求めて」に加えて,「サービスデザインの浸透と組織」が新たに企画されている.

「サービスデザインの浸透と組織」特集では,製造業やサービス業,行政などの現場などで,デジタル化やCircular economy等への対応に向けて,従来の業務形態からの脱却を目指してサービスデザイン(SD)実践の為の組織改革が必要となっている.この特集では,実際のSD導入の推進者からSD浸透のプロセスやその成果,まさに現在取り組み始めている「はじめの一歩」の事例の知見を共有してもらうことで,同様の難しさに直面する推進者の採用すべき原則・指針について議論する内容となっている.

来年度も多くの皆様の知的刺激を促せるように,積極的に発信していきたい.

著者紹介


嶋田 敏
立命館大学食マネジメント学部准教授.博士(工学).京都大学経営管理大学院講師などを経て,2024年より現職.主としてサービスプロセスのモデル化や定量評価の研究に従事.


髙橋 裕紀
筑波大学 システム情報系 助教.博士(工学).2022年より現職.サービス業における,従業員とサービス利用者の相互作用の研究に従事.


丹野 愼太郎
サービタイジング・エクセレンス合同会社 代表.同志社大学工学部卒業,2013年同志社ビジネススクール修了(経営学修士).産業ガスメーカー勤務,産業技術総合研究所を経て現職.製造業のサービス化に関する研究等に従事.

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