2025年度もあとわずかとなった.サービス学会のWebマガジン「サービソロジー」においても今年度を締め括りたい.

今年度は,2つの特集「価値共創を促すコミュニケーションを求めて」,「サービスデザインの浸透と組織」から合計9本の記事公開を計画し,予定通り公開することができた.それぞれの特集の概要を簡単に振り返るとともに,執筆および取材をご快諾いただいた皆様にこの場を借りて感謝を申し上げたい.

価値共創を促すコミュニケーションを求めて:

価値共創プロセスであるサービスにおいて,重要な要素であるコミュニケーションを深く掘り下げることを目的に,本特集を企画した.この特集は昨年からの継続企画であり,昨年度は2本,今年度は3本の記事を公開した.

1本目は京都府亀岡市のフリースクール「ちとせ」の理事である石田千穂氏, 髙見雅子氏, 中島愛子氏へのインタビュー記事「気づきを設計するコミュニケーション ―育ちとつながりの家 ちとせにおける活動を事例として―」である.本稿では,「自分とは異なる者」としてレッテルを貼られやすい困りごとを抱える子どもとのコミュニケーションに焦点を当てている.相手に対して自分の思いをうまく伝えられない場面において,本当の意味で相手を理解することの重要性やコミュニケーションをスムーズに図るための「空間設計」の重要性について触れている.

2本目は,「顧客をインフルエンサーにするリゾートホテル経営:顧客領域を考慮した価値共創の実践」として国際観光ホスピタリティ総研株式会社の窪山哲雄氏と本田路子氏へのインタビュー記事である.この記事では,画一的な接客ではなく顧客の状況に応じた能動的な体験を提供してリテラシーを高めることで,顧客を自発的なインフルエンサーへと変え,価値共創を生み出す企業側の働きかけの重要性を論じている.

3本目は,国立情報学研究所の武田英明氏へのインタビュー記事「AIエージェントを受け入れる分人型社会において,人間とAIはいかに協働すべきか」である.

西洋の「個人」概念ではなく,人間を複数の顔を持つ「分人」と捉える分人型社会について論じており,AIエージェントが普及する時代において,日本特有の文化的背景を生かしながら分人としての人間とAIとの協働による新たな価値共創の可能性に触れた内容となっている.

サービスデザインの浸透と組織:

本特集は,様々な組織におけるサービスデザイン実践と組織浸透の取り組み最前線を,計5本の特集記事として取り上げた.KDDI 花井氏・新井田氏(2025年5月記事執筆時),メルペイ 草野氏からは,サービスデザインの組織浸透の一種のロールモデルとして,サービスデザインやUXデザインを実践するデザイン組織の社内における戦略的位置づけ,そこから,全社的な価値創出へと展開するプロセスについて提示いただいた.加えて,多様な領域におけるデザイン活動の実践の最前線として,大学内における価値循環プラットフォーム「ShareWel」の構築(東京大学 柳澤氏ら),人間中心デザインによる職場環境の改善(日立製作所 中村氏),製造現場での技能・知識伝承の高度化(千葉工業大学 小早川氏ら)を紹介いただいた.これらの記事は,サービスデザインを組織的活動に取り入れることで組織構造の変革と社会的価値創造が実現できることを実証する興味深いものであった.本特集が,サービスデザインをまさに今取り入れようとする実践者の後押しになることを期待する.

2026年度に向けて

来年度は,3つの特集を企画しており,簡単に触れておきたい.

1つ目は学習者も学ぶ内容も複雑化する現状に対し,「学び」をサービス学の観点から捉え,多様化する教育サービスの価値創出についてそれぞれの学びの意義と実践を取り上げる「多様な学びと教育サービス」である.この特集では,“テクノロジーと教育サービス”,“公教育と生涯教育”,“生涯教育と学びの場”という視点での記事を計画している.

2つ目は「代行とうしろめたさ」という,本誌で扱うのは初めての試みのテーマである.この特集では,代行という典型的なサービスとその利用に付随する感情,社会における制度化の押し引きについて考察する.

3つ目は,「高齢化社会におけるサービスのあり方」として,高齢者を「支えられる存在」から「社会を支える存在」に視点を変える特集である.超高齢社会にふさわしい,新しいサービスのかたちを考える特集企画となっている.

いずれの特集も社会的課題を包含した内容となっており,来年度も読者の知的刺激を促せる記事を発信していく所存である.

著者

丹野 愼太郎
サービタイジング・エクセレンス合同会社 代表. 2013年同志社ビジネススクール修了(経営学修士).産業ガスメーカー勤務,産業技術総合研究所を経て現職.製造業のサービス化に関する研究等に従事.

三竹 祐矢
東京大学人工物工学研究センター 助教.東京都立大学大学院修了後、2023年4月より現職.サービス工学,ライフサイクル工学の研究に従事.

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