デジタル化は,近年注目されているキーワードの1つであり,今後もますます注目されると思われる.Internet of Things(IoT)やソーシャルロボット,人工知能(AI)等に代表されるデジタル技術を活用したビジネスの革新の取り組みは,デジタルトランスフォーメーションとして各種産業でその必要性が強く叫ばれている.2018年には経済産業省からもデジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドラインが公開され,官民を挙げて産業のデジタル化の推進が行われている(経済産業省2018)

サービス学,サービス研究においてもデジタル化はここ数年大きなトピックとなっている.例えば,顧客との接点(タッチポイント)にデジタル技術を導入することでどのような新しい価値が生まれるか,サービス現場の従業員や顧客の行動を観測・可視化することで,どうプロセスを改善できるか,といったサービス現場の課題から,センサーを活用した製造業の新しいサービスの開発やその分析まで,多様な課題が取り組まれてきた.デジタル化については,ビジネスモデルの革新や事業の生産性向上等,企業目線の課題に注目が置かれがちであるが,顧客の理解やその他の利害関係者への影響も考慮しつつ,より優れた価値を生み出すための分析・設計手法を考えてきたことがサービス学の1つの特徴であろう.

本マガジンの他の研究テーマであるソーシャルインパクトとも関連するが,AIをはじめとするデジタル技術活用の倫理・社会的影響についての議論が,政府・国際機関から,企業・産業の実際の意思決定にまで広がってきている.デジタル技術を活用し,多面的・長期的な価値をどう生み出すかという課題に対し,価値創出とその方法を検討してきたサービス学の貢献は非常に大きいと考える.本Webマガジンにおいても,デジタル化を通じた新しい価値創出のあり方について,研究や産業・社会実践の最新動向を取り上げていきたい.

参考文献

経済産業省 (2018). デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドラインVer. 1.0, 2018.
https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf(2020年2月13日確認)

著者紹介

渡辺 健太郎
2005年東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻修士課程修了.民間企業勤務を経て,2012 年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士後期課程修了後,産業技術総合研究所.現在,同研究所人間拡張研究センター所属.博士(工学).専門は設計工学,サービス工学.サービス設計方法論,ならびに支援技術の研究に従事.

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