まちは,多くのサービスが交わされる背景空間である.それと同時に,まち自体に焦点を当てたサービスも数多く生み出されている.そのようなサービスにクローズアップするとき,ここ十年ほどトレンドでありつづける「スマートシティ」は見過ごせないコンセプトであろう.

スマートシティという言葉が登場したのは,意外にも早く1990年代だとされる (Albino et al. 2015).当時から現在に至るまで,その定義や力点は話者によって異なる.Nam and Pardo(2011)は,多岐にわたる学術的定義を総括したうえで,スマートシティというコンセプトにはテクノロジー,制度,人の3つの側面があるとした.まず,1つ目のテクノロジーの側面では,もっぱら情報通信技術(ICT)によるデータの活用が話題にのぼる.まちの基盤にICTを据え,様々なデータをリアルタイムに収集・解析・活用することで,人の目だけでは達成できない水準のマネジメントを実現することが期待できる.特に,エネルギー供給や交通といった都市インフラの運用コストを削減したり,まちに暮らす人々の安心・安全を向上したりすることは,スマートシティの中心的なトピックである.2つ目は,制度の側面である.スマートシティは,サステナビリティを掲げた制度設計のもと,スマートグリッドなどの電力関連のコンセプトと共に浸透してきた歴史がある.まちを対象とする性質上,スマートシティの実現には,行政による制度設計が不可欠である.3つ目は,人の側面である.スマートシティは,都市運営者によるICTの利活用やエネルギー消費の効率化,言い換えれば運営者側のスマートさだけではなく,ユーザー側のスマートさも含意する.この点は見過ごされがちではあるが,スマートシティの評価指標として市民の創造性やまちへのエンゲージメントの高さを用いる例もある.

ここまで見てきたスマートシティのコンセプトを,サービス学の視点から再解釈し,本特集におけるスマートシティの像を素描したい.本特集では,スマートシティを「様々なサービスの相互作用を通じて,新たなまちの機能や文化が形成され,よりサステナブルなまちへと漸進していくプロセス」と捉える.図1にこれを図式化した.

図1 本特集におけるスマートシティの全体像

ここでのサービスには,まちのデータを整備・管理するある種メタなサービスと,そのデータを活用することで生まれる様々なサービスが考えられる.前者をメタサービス,後者をサービスと呼び分けて,図1に示すように2つのレイヤーに分けて議論することとする.メタサービスやサービスを創出するアクターには,行政,企業,市民の3者が挙げられる.メタサービスレイヤーで決定されたデータマネジメントの仕組みや制度により,サービスレイヤーにおいてどのアクターが主導するサービスが有力になるかが変わる.例えば,行政がまちのデータを囲い込む指針を定めたならば,企業や市民がそれを活用したサービスを生むのは当然難しい.また逆にサービスレイヤーの様相によって,メタサービスレイヤーで誰が主導権を握るのかが変わる可能性もある.このような相互作用が,国や地域ごとのアプローチの差異(例えば,米国や中国,北欧の差異)を生むと考えられる.加えて,サービスレイヤー内で相互作用が起きることもあるだろう.これらの相互作用の結果として,まちの新たな機能や文化が形成され,まちが変化していく.

このようにスマートシティを捉える利点は,まちの営みに関わる様々なサービスを包含できること,加えて,複数のアクターによる多点的な価値共創,つまりサービスエコシステム (Vargo et al. 2015)の理論を介してスマートシティを議論できることにある.本特集では,行政や企業,市民の活動に携わる方々に,デザインやデジタル化,ソーシャルインパクトなど様々な観点から解説記事を執筆していただく.これにより,国内外のスマートシティの現状やビジョンを俯瞰するとともに,上記のようなエコシステム的な捉え方からサービス学への示唆を明らかにしたい.

参考文献

Albino, V., Berardi, U., and Dangelico, R. M. (2015). Smart cities: Definitions, dimensions, performance, and initiatives. Journal of urban technology, 22(1), 3-21.

Nam, T., and Pardo, T. A. (2011). Conceptualizing smart city with dimensions of technology, people, and institutions. In Proceedings of the 12th annual international digital government research conference: digital government innovation in challenging times, 282-291.

Vargo, S. L., Wieland, H., and Akaka, M. A. (2015). Innovation through institutionalization: A service ecosystems perspective. Industrial Marketing Management, 44, 63–72.

著者紹介

根本 裕太郎
東京都立産業技術研究センターIoT開発セクター副主任研究員,博士(工学).サービスにおけるテクノロジー活用とウェルビーイングに関心をもち,日本TSRコミュニティの共同主宰を務める.

大隈 隆史
国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター スマートワークIoH研究チーム長,博士(工学).人の「はたらく」活動を人間拡張により支援する技術の研究開発に取り組む.

赤坂 文弥
NTTサービスエボリューション研究所 研究主任,博士(工学).Living Lab,Service Design,CoDesign,HCIの研究と実践を行っている.サービス学会,デザイン学会,ヒューマンインタフェース学会の会員.

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