はじめに

本オーガナイズドセッション(以下,本OS)は,主に生産工程,生産技術や製品開発などに携わる従業員を対象としたエンゲージメントに焦点を当てたセッションである.本OSは,明治大学の戸谷圭子氏(以下,戸谷氏)がオーガナイザとしてオムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー アドバンスドソリューション事業本部(以下,ASD事業本部)の片岡典子氏(以下,片岡氏),松井滋氏(以下,松井氏),笹田夏穂氏(以下,笹田氏)と,サービタイジング・エクセレンス合同会社の丹野愼太郎氏の5名が研究報告を行ったのち,聴講者とともにディスカッションをおこなった.まずは報告内容を簡単に振り返りたい.

発表風景

報告概要

笹田氏は,「製造現場の現状と課題」と題して日本の製造業の課題について論じた.主なポイントとして,労働人口の減少や雇用の困難性,社会や市場からの要請あるいは法制度に基づく人的資本情報の開示義務による負担増加について触れていた.これらの問題に共通する要素として「従業員エンゲージメント」が挙げられる.多くの製造企業では,従業員エンゲージメント向上に取り組む必要性を感じながらも後手になっている現状を,笹田氏は指摘している.

戸谷氏からは「サービス視点からの従業員エンゲージメント検討の必要性」と題して,サービス中心,すなわち価値共創中心への社会の変化,従来の従業員エンゲージメント調査における価値共創視点の欠如やスコアの一人歩き,仕事に影響を及ぼす生活世界の視点の不足について指摘し,企業と従業員の活動によって創出される共創価値を考慮する必要性を論じた.

丹野氏は「企業―従業員間の共創価値と従業員エンゲージメントの関係についての一考察」と題して,戸谷(2015)の提唱する「FKE-Valueモデル」を援用した従業員エンゲージメントモデル案とこのモデル案から得られる知見について触れた.

松井氏からは,「製造業特化型従業員エンゲージメントモデルの開発経緯と実践的活用」と題して,丹野氏かが触れたモデル案の開発経緯について述べた.このモデル案の開発にあたり,オムロン社のグループ工場や取引先を対象に定性調査,定量調査を繰り返し行い,精緻化を進めてきたという.松井氏は開発したモデルを使い,現場の職場改善に寄与した事例にも触れた.

片岡氏は「製造業特化型従業員エンゲージメントモデルの展望と,製造業の未来への貢献」と題して,開発した従業員エンゲージメントモデルを活用して実現したい将来像について述べた.片岡氏は,このモデルを最大限活用して「人が集まり,活き活きと働け」,「QCDを自律的に維持改善できる」製造現場の実現に向けて活動していきたいと熱く語り,報告を締め括った.この後,会場全体を巻き込んだディスカッションが行われた.

おわりに

ディスカッションでは,従業員エンゲージメントの測定方法やその後の施策,組織構造や組織文化のあり方など多岐にわたる議論が行われた.本OSの対象は製造現場であるものの業界を超えた共通の課題も多いことが,議論を通して改めて認識させられた.例えば,パワーハラやセクハラに代表されるような組織における上司と部下,あるいは管理職と非管理職との関係性について多くの企業や組織で問題として認識されている.このような問題に対する製造業特化型従業員エンゲージメントモデルでの取り組みや,調査結果を組織内に共有する際の注意点,施策案の実行に向けた評価方法について熱く議論が交わされ,大盛況のうちに終えた.

著者

丹野 愼太郎
同志社大学工学部卒業,2013年同志社ビジネススクール修了(経営学修士).産業ガスメーカー勤務,産業技術総合研究所を経て現職.製造業のサービス化に関する研究等に従事.

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