クリエイティブワークショップへのCOVID-19の影響

私の所属する日立製作所東京社会イノベーション協創センタでは,新事業,新サービス,新ソリューションの創生に取り組んでいる.その活動の中では,自社で開発したNEXPERIENCEというサービスデザインの方法論を用いながら,アイデアを生み出すためにクリエイティブワークショップ(以下,ワークショップ)を実施している.ワークショップでは,ファシリテーターのナビゲートのもと,参加者が一堂に会して,付箋紙にアイデアを書き込み,ホワイトボードなどに貼り付け,議論していく.

様々なテーマでワークショップが日々開催されているが,3月下旬からコロナウィルス感染症COVID-19対策のため在宅勤務となり,対面での開催が困難になった.そこで現在模索しながらではあるが,リモートワーク環境でのワークショップを実施している.ワークショップは,サービスデザインだけでなく,教育やコンサルティング活動などでも有効であり,多くのかたが試行錯誤されていると思う.ここでは,リモートワーク環境でのワークショプに利用しているツールや実施上の工夫について紹介したい.

リモートワーク環境の支援ツール

リモートワーク環境でワークショップを実施するには,「オンライン会議ツール」と「オンライン共同作業ツール」があるとよい.前者については,Zoom,Microsoft Teams, Cisco WebEx Meetings,Google Meetなどがある.後者については,オフィス系ソフトのクラウドサービスであるOffice365,Googleドキュメントなどでファイルを共同編集できる.特にワークショップの用途に向けたホワイトボードツールとして,MuralやMiro がある.ホワイトボードに書き込む感覚で,ブレーンストーミングや情報整理などの共同作業ができる.

日立のオンラインでのアイデア創出支援ツール

我々もオンライン会議と共同作業のツールの2つを利用している.ここでは後者の例として,社内で開発し利用しているアイデア創出支援ツールの機能を紹介したい.いずれの機能もWEBブラウザから利用する.

(1)付箋紙投稿機能: 図1左側は,各参加者の付箋紙投稿画面である.参加者はアイデアを手元で記入しておき,適切な付箋紙を選んで投稿できる.議論の流れに応じて,ファシリテーターが適切なアイデアの投稿を促したり,参加者自身が関連ありそうなアイデアを適切なタイミングで投稿できる.

図1. 付箋紙投稿画面

(2)ホワイトボード機能: 図1中央は,全員が閲覧するホワイトボードである.ファシリテーターは,投稿された付箋紙を確認しながら適切な位置に配置し,他の参加者にアイデアを膨らませる議論を促す.

(3)投票機能: アイデアを多く出した後,その中から有望なアイデアへと絞るための投票機能がある.参加者がアイデアに投票し,ホワイトボードに票数として集計表示される.我々は通常,多くのアイデアの中から一次投票により幾つかに絞り込んでから,詳細なアイデア評価を次の機能で行っている.

(4)アイデア評価機能: 図1右側は,各アイデアを評価するための画面であり,ホワイトボードのアイデアが自動でコピーされる.この画面で,アイデアの価値や実現性などを議論しながら,アイデアをブラッシュアップし,価値の高い有望なアイデアを選び出す.

リモートワーク環境でのワークショップの工夫

ワークショップをリモートワーク環境で円滑に進行するためには,様々な工夫が必要になる.COVID-19対策で在宅ワークショップを実施した経験から,課題と工夫について以下に述べる.

[参加者] オンラインでは,参加者が自由なタイミングで発言しにくい.そのためオンライン会議ツールのチャット機能の併用も工夫の一つである.対面ではあまり発言しなかった参加者も,逆にチャットであれば意見を出しやすかったという声も聞かれた.

[サブファシリテーター] ファシリテーターがひとりで進行しながら,チャットを議論に取り入れたり,議論を書き留めるのは大変である.そのためサブファシリテーターを任命して分担しておくとよい.また在宅勤務の増加で回線が逼迫し、ファシリテーターのネットワークが一時的にダウンすることもあった.バックアップの役割を決めておいたり,「ダウンした場合は回復までアイデアのシンキングタイムにする」などと予め取り決めておくのも有効であった.

[ファシリテーター] オンライン会議と共同作業の両方の画面は,画面が小さいと見にくい.大きなディスプレイがあればよいが,無い場合にはPCとスマートフォンの両方でアクセスして2画面にする方法もある.また,画面では参加者の反応がわかりにくいという課題もよく聞かれた.議論に賛同しているかや,何か話したそうなかなどの確認が難しい.参加者数が多くなるにつれ,全員の表情を瞬時に読みとることは難しい.そのため,オンライン会議ツールのイイねボタンや反応機能を利用し,参加者も態度を示すと議論の合意形成が促進された.

上述した工夫については,準備時に決めておいたり,ワークショップ開始時に参加者に作法として知らせておくとよりスムーズに進めることができた.

オンラインならではの良さ

リモートワーク環境でのワークショップの課題と工夫について述べたが,オンラインならではの良い点もある.ひとつは,付箋紙などのゴミが出ない.また,共同作業ツールを用いて,非同期で参加者が都合の良い時間にアイデアを書き込み,ほかの参加者が閲覧することも可能である.さらに,アイデアがデータとしてそのまま残るので再利用しやすい.これにより,続きのワークショップを実施しやすかったり,保存しておいた過去のアイデアをヒントにしてアイデアを出しやすくなる.

このように,リモートワーク環境はCOVID-19対策だけでなく,空間と時間を超えて,世界の参加者とのワークショップを実施したり,過去のアイデアを活用することなども促進できると考える.私も今回の出来事を契機に,ピンチをチャンスに変えるアイデアを出していきたい.

*)本文中に記載されている会社名,製品名,サービス名等は,各社の登録商標または商標です. 

著者紹介

小野 俊之

日立製作所 東京社会イノベーション協創センタ 主管研究員,博士(情報科学).九州大学理学部卒,大阪大学大学院情報科学研究科マルチメディア工学専攻博士後期課程修了.電気学会フェロー,大阪大学・電気通信大学の非常勤講師.
現在,イノベーション創生方法論の研究とその適用による新事業創生支援に従事.

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