今回のコロナウィルス感染症COVID-19は,2010年代半ばから成長を続けていた各シェアリングエコノミーのサービスに対して,複雑且つ大きな影響を与えている.

ただ,全体のトレンドとしては,デジタル化・リモートワーク化が進むにつれ,ますますシェアリングエコノミー型,ギグエコノミー型のサービスモデルが役に立つシーンが増えていくと言えよう.

リアルで人と会えない,ということの影響

シェアリングエコノミーというものは,独立して活動する他人である個人同士が,ネット上でマッチングされ,実際には,主にリアルの場においてサービス提供が行われるという枠組みである.そのため,シェアリングエコノミーのいくつかのサービスにおいて,COVID-19の影響により,リアルで人と会えないということがボトルネックとなり,売上の激減を余儀なくされている.

具体的には,旅行産業やイベント産業において大きな影響が出ている.民泊,旅行先でのガイドサービス,イベント会場としてスペースをシェアするサービス等である.またシェアオフィスにおいても,出社する人が減っているため,契約席数が減っている.ただ,シェアリングエコノミー産業全般を見渡した場合,リアル主体のサービスであっても,実際に売上が激減ないし減少しているセクターは思いのほか少なく,逆に伸びているセクターも多い.例えば,以下のサービスは伸びを示している.

ベビーシッター・家事代行サービス: 子どもたちが保育園,幼稚園,小学校等に通学できなくなることにより,ベビーシッターの利用が非常に高まっている.また,会社員の方々がオフィスに出社せずに自宅にいることにより,自宅の清潔さを維持するため,もしくは,自宅で食事を用意する機会が増えたため,家事代行の利用も高まっている.

デリバリ・宅配サービス: レストランに行くことができないため,UberEatsやエニキャリなどのデリバリのサービスを利用するケースが急増している.またTwidyのような買い物代行などのサービスも伸びてきている.

以下のサービスは,COVID-19の影響を受けつつも伸びる分野にも対応している.

イベントスペースや会議スペースシェアのサービス: スペースの利用が減った分,ビジネスパーソンの自宅近くのワーク環境としての利用が増えてきている.

駐車場シェアのサービス: 駐車場シェアにおいては,イベント会場近くの場所の利用は減少しているが,現在,通勤等において,公共交通機関ではなくマイカー利用をする人が増えており,結果,通勤時での駐車場シェアは伸びを示している.

他にも,オフィス街の空きスペースで,ランチ弁当を販売していたキッチントラックのサービスでは,COVID-19で多くのビジネスパーソンが在宅勤務になりオフィス街に出る人が減ったことで,住宅街での空きスペースでの販売にシフトしつつある.主に飲食店や小売店などに対して,1時間や2時間からの皿洗いやホールスタッフやレジ係などの短期労働力を提供するTimeeのようなサービスにおいても,飲食店自体の売上減少に伴い利用が減少した一方で,デリバリサービスなどからの引き合いは急増しており,自らもまたデリバリサービスを開始している.ストアカやTABICAなどのリアルに出会い,レッスンや体験を提供していたサービスにおいては,オンラインでのサービス提供もメニューに追加し,今では,コロナ前を上回るマッチング数になっているケースも多い.日本全国の空き家を,月額の支払いで借り放題となる多拠点居住のアドレスというサービスでは,緊急事態宣言中こそ利用が減ったものの,緊急事態の終了が見えてきたタイミングから,これまでにない勢いで申し込み希望者が増えてきている.COVID-19で一気にリモートワーク化したことで,多くの人が,都市部に住む必要を問い直し,地方移住などを検討し始めているからだと考えられる.

オンラインのシェアリングエコノミー

オンライン完結型のシェアリングエコノミーのカテゴリにおいては,コロナ前に比べ,すでに数割以上の伸びを出している.

リモートワークが進むことで,もはや同じ会社内・組織内でやりとりをする優位性が著しく減っている.フラットに見た場合,例えば,デザイン業務について,社内のデザイナーよりも,外部のデザイナーの方が,質も良くコストも安いケースが多いため,今後,ますますクラウドソーシングなどのオンライン完結でのシェアリングエコノミーは増えていくだろう.加えて,ホスト側の視点で見ても,多くのビジネスパーソンが,通勤をしなくてよい,業務が管理されない,という環境下となり,副業を簡単に開始できるようになっている.

今後もリモートワークが主要因となり,会社や組織の役割自体が継続して減少していくだろう.ますます,会社ではなく社会全体で役割を担う,つまり,ギグエコノミーは伸びるだろうし,これらの傾向は不可逆的なものと言えるだろう.

今後の展望・「変化に対応したい」というニーズ

そのため,流通総額が減少するとしても,それはプラットフォーマーに直撃するわけではなく,一義的には,減少しているセクターのホストに大きな収益悪化をもたらすだけである.一方で,プラットフォーマーとしては伸びるセクターにスピーディに参入することができる.極論を言えば,占いの先生と相談者のマッチングサービスであれば,メニューに「オンライン占い」と追加するだけで,オンラインに進出することが完了するわけである.

既存の産業,既存のリソースを抱えている会社が新規に参入するのに比べて,シェアリングエコノミーのプラットフォーマーは非常に低コストで,且つ,スピーディなため,今回のCOVID-19によらず,大きな社会変革期にはすぐに市場に参入してサービスを広げることができるという足腰の強さを持っている.

そればかりではない.

もっと重要なことは,社会全体が今回のCOVID-19で,「変化に対応したい」というニーズを,より強く持つようになったことである.シェアオフィスを利用している企業は,COVID-19の影響を受けて1ヶ月単位で契約席数を20席から5席などに減らし,スピーディにコストダウンしている.結果的に,今日時点では,シェアオフィス運営会社としては売上が減少している.ただ,普通の会社は,普通にオフィスを半年単位の契約で借り,内装や家具なども購入しているため,誰も出社しないのに何も手を打てないのが現状だ.今後,COVID-19が落ち着いた頃には固定的なオフィスを使うのではなく,柔軟に座席数などを変更できるシェアオフィスへの移転をする会社が増大するだろう.もはやリモートワーク中心となった従業員についても同様だ.日々,顔を合わせて働くわけでもないだけに,企業はこれまで以上に,変化対応を迫られる.コア人材以外の従業員を,シェアリングエコノミーなどで工面することを志向する企業もでてくるだろう.

今回のCOVID-19で,シェアリングエコノミー産業に多くの影響があったが,全体のトレンドとしては,デジタル化・リモートワーク化が進み,ますますシェアリングエコノミー型,ギグエコノミー型のサービスモデルが役に立つシーンが増えていくと言えよう.

補足:COVID-19による経済的ダメージと社会的ダメージ

COVID-19により,安全性を優先するため多くの経済活動が停止させられ,大きな経済的ダメージが発生している.一方で,

  • 通勤をしない.
  • 地方に住み自然を楽しむ.
  • ラフな服で,家族と過ごす.
  • 外食ではなく,自宅で味噌汁や魚を食べる.
  • 無駄な買い物しない.
  • 環境に優しい.

ということは,本来,社会的に見て非常にプラスと言えよう.結局,見栄のための無駄な買い物で経済にプラスがあったところで,全く意味がないのだ.

今回のCOVID-19は,マンションの一階にある24時間営業のコンビニでいつでも醤油を買えるというセーフティネットより,地域でいつでもご飯をおすそ分けしてもらえるというセーフティネットの方が幸せであるということに気付くきっかけになったと思う.地域で,車を貸しあったり,子どもを預かりあったり,という,こういったコミュニティ型のシェアリングエコノミーは,経済指標とは逆行するのだが,私としては,いまこそ,みんなでこういう社会を目指したいと考えている.

著者紹介

上田 祐司

株式会社ガイアックス 代表執行役社長 https://www.gaiax.co.jp/
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 https://sharing-economy.jp/
1974年大阪府生まれ.1997年同志社大学経済学部卒業.卒業後にベンチャー支援を事業内容とする会社に入社.一年半後,同社を退社.1999年,株式会社ガイアックスを設立し30歳で上場.2016年一般社団法人シェアリングエコノミー協会を関係者らと設立.
ガイアックスは,シェアリングエコノミーとソーシャルメディアの領域で,複数の事業運営とベンチャー投資を行っている.

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