6月12日に令和2年度第2次補正予算が31.9兆円という過去最大の規模で成立した.

中小企業に対して様々な経済対策が打たれているが,正直に申し上げると制度が複雑すぎて全ての制度を完全に理解できている事業者はほぼいないのではないだろうか.本稿では事業者向けの緊急経済対策について,短期・中期・長期のフェーズに応じて企業がどのような制度を利用していくべきか,特に重要性の高い制度に絞って整理していきたい.

コロナウィルス感染症COVID-19に対する緊急経済対策として打ち出されているのは,4月30日に成立した令和2年度第1次補正予算(25.6兆円)と冒頭のCOVID-19に対する第2次補正予算である.第1次補正予算では,アベノマスクが話題になるとともに,10万円の特別定額給付金,持続化給付金,雇用調整助成金と言った返済不要の国からの財政支出,いわゆる真水の対策,さらに,日本政策金融公庫や民間金融機関を通じた中小企業の資金繰り支援が含まれる.今回の第2次補正予算では,融資による資金繰り対策の予算追加の他に,持続化給付金の支給対象を拡充し,さらに追加で1兆9,400億円の予算が割り当てられた.また,売上が減少した事業者に対して家賃を補助するための家賃支援給付⾦が創設された.この制度も2兆242億円という破格の予算額だ.それぞれについてみていきたい.

真っ先に検討すべき支援制度:返済不要の給付金

まず,優先順位の高い順に,返済不要の給付金制度のポイントを整理する.

持続化給付金: 中小企業や個人事業者が対象で,1月~12月までのいずれかの月の売上が前年同月比で50%以上減少した場合に利用が可能だ.法人には200万円,個人には100万円を上限として給付され,超短期的な対策としては非常に効果がある.創業期における特例など,様々なケースも対応できるようにしているため,要件に当てはまらないと思ってもまずは特例を確認してほしい.申請方法は原則として中小企業庁の事務局HP(別サイトへ移動)からの電子申請となるが,サポート会場も随時開設している.電子手続が苦手な方も,無理だと諦めずに会場に足を運んでほしい.

また,第2次補正予算では2020年1月から3月までに創業した事業者も対象となるために,該当する事業者は今後発表される情報をしっかりと確認してほしい.

家賃支援給付金: これは第2次補正予算で創設された制度で,こちらも中小企業または個人事業者が対象となる.5月~12月までのいずれかの月の売上高が前年同月比で50%以上減少した場合に,家賃の1/3~2/3の金額を6ヵ月補助する.月額上限は法人は100万円,個人事業者は50万円で,最大600万円の給付金が支給される.執筆時点では申請方法などの詳細は公表されていないが,持続化給付金に準ずる形になると予想される.

雇用調整助成金: これは休業等する場合に社員に支給する休業手当を一部補助するという制度である(非常に複雑な制度のため詳細は割愛する).開始当初は,手続きが非常に煩雑かつ膨大な資料が必要で非常に使い難い制度であったが,要件や提出書類などが徐々に緩和された.他の制度と比べて明らかに申請の難易度が高いため,影響額などから考えても中小零細企業では優先度は低いと考えてよいだろう.5月からはオンライン申請が開始したはずであったが,システムの不具合で止まっており,まだまだ改善の必要がある制度である.

中期視点で検討すべき支援制度:融資制度,納税猶予

返済不要の支援制度の検討が終わったら,次は融資制度や納税猶予の検討だ.

特例融資制度: 当然のことだが融資はいずれ返さなければいけないお金なので,躊躇している事業者もいるのは事実である.ただ,今回の特例融資制度は売上減少要件を満たせば3年間は実質無利子で融資が受けられる.融資の実行額は月商の3~6ヵ月分を目安としているため,相当な額の資金調達が可能だ.また,元本の返済を要しない据置期間や返済期間についても通常ではあり得ない長期の設定が可能となっている.これによって,毎月の返済額を抑えることができ,キャッシュフローの圧迫を抑えられる効果が期待できる.

融資制度の窓口は優先度が高い順に「⽇本政策⾦融公庫」「⺠間⾦融機関」「商工中金」の3種類がある.特に「⽇本政策⾦融公庫」は提出書類も少なく,比較的容易に申請できるために是非検討して欲しい.ただし,融資窓口は非常に混み合っており融資までに相当の期間を要しているので,早めの相談をお勧めする.なお,融資制度の一覧は経済産業省HPの中小企業向け資金繰り支援内容一覧表(別サイトに移動)が非常に見易く整理されているので参考にして欲しい.

特例納税猶予制度: リスケ中の会社等は融資の審査が通らない可能性もある.融資が利用出来ない場合に最後の手段として検討すべき制度が特例納税猶予制度だ.特例納税猶予制度は,①COVID-19の影響により2月以降のいずれかの単月売上が前年比でおおむね20%以上減少しており,②国税を一時に納付することが困難な場合,に利用が可能だ.元々ある制度であったが,COVID-19の特例として,納期限から1年間の納税が猶予され,猶予期間中の延滞税が全額免除される.

窓口はそれぞれ,国税の場合は税務署,地方税の場合は各自治体,社会保険料の場合は年金事務所となる.特に消費税や社会保険料については業績に関係なく納付が必要となるケースが多く,資金繰りへの影響が大きいために是非検討して欲しい.

将来を見据えた支援制度:補助金制度

COVID-19の影響は短期間で収まるものではないだろう.事業への直接的な影響はもちろんのこと,融資の返済や納税猶予の支払や,得意先の売上債権の焦げ付きによって資金回収が出来なくなることも考えられる.この状況を脱するためには,守りの策のみならず,業務改善や設備投資,新規の事業開発といった攻めの策が必要となってくるであろう.

そのような時に活用できるのが補助金制度である.生産性革命推進事業として第1次補正予算では700億円,第2次補正予算で1,000億円の予算が組まれた.具体的な補助金制度は3つあり,①新製品・サービス・生産プロセスの改善に必要な設備投資等を支援するものづくり・商業・サービス補助金,②小規模事業者が経営計画を作成して取り組む販路開拓等の取組を支援する持続化補助金,③ITツール導入による業務効率化等を支援するIT導入補助金がある.

中小機構の生産性革命推進事業ポータルサイト(別サイトに移動)に詳細が載っているので,攻めの策を支援する制度として是非活用して欲しい.

最後に

短期・中期・長期の対策という視点で様々な支援制度をみてきたが,最後に注意して欲しいことがある.それは,これらはCOVID-19に対する緊急経済対策であるという点である.今の状況でCOVID-19の影響を受けていない事業者はいないと思われるが,売上の減少要件がCOVID-19の影響に関係なく偶々満たされることもあるし,売上の発生時期を調整することで給付金の受給を受けてしまっている事業者も相当数いるのではないかと予想される.

これらの緊急経済対策は,まずは必要な事業者に支給するためにスピードを重視した対応を取っているが,COVID-19が落ち着いてきたタイミングで給付金の受給を受けた事業者に対して不正受給のチェックが行われていくであろう.実際,日本郵便社員による持続化給付金の申請も問題視されている.

国の予算を使って実施されている経済対策であるため,節度をもって利用していただきたい.

著者紹介

山田 典正

アンパサンド税理士法人 代表社員 税理士.
大手税理士法人での経験を経て,平成27年1月に独立開業.現在はアンパサンド税理士法人の代表を務める.中小同族会社の税務相談・経営周り全般の相談から大手上場企業の税務相談まで幅広い分野で活躍.事業承継,組織再編,連結納税,国際税務,事業計画策定,補助金・融資の支援と広範囲に渡る業務実績を有する.
アンパサンド税理士法人HP:https://ampersand-tax.jp/

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