はじめに
2020年度に始まった新型コロナウイルスの流行により外国人旅行者が激減し,今後もこれまで通りの方針で誘客できるか見通せない中,インバウンド需要の取り込みを観光の中心としていた各地域はパラダイムシフトを迫られている.新型コロナウイルスが流行する前の観光は,ビザの戦略的な緩和や外国人旅行者向け消費税免税制度などを追い風に飛躍した(国土交通省,2020).このため各地域でも,大量送客・大量消費を前提として,ツアー客の取り込みと接客の効率化に力を入れていた.しかしコロナウイルス流行後はその前提が崩れたため,多くの地域が苦境に立たされている.一方, 日本は2021年の旅行・観光競争力ランキングで首位となり(共同通信,2022),外国人観光客の受け入れが2年2か月ぶりに再開するなど,明るい兆しも見えてきた.このような流れをいち早く地域活性化につなげるためには,アフターコロナの観光業に対する国の施策としてアドベンチャーツーリズムの推進が掲げられているように(観光庁,2022),地域“ならでは”の体験を付加価値とすることで旅行者を呼び込む必要があるだろう.すなわち今後は“観光客”という漠然とした集団に紋切り型の商品を販売するのではなく,旅行者の人間としての行動に目を向け,ニーズに応じて観光体験をデザインし,それが適切に機能するよう改善するという,持続性のあるシステムへと地域の観光事業を変革していくことが求められる.
このような変革に向けた取り組みの一環として,われわれは外国人旅行者のニーズを定量的に測定・タイプ分類し,タイプごとに求める観光体験が違うことを明らかにした.本稿では,このような定量的な調査を行う2つの意義と,実行するうえでの課題を挙げたうえで,調査の概略と成果を紹介する.なお本稿の執筆にあたり,破田野ほか(2021)およびHatano, et al.(2021)で速報したデータを再分析,再構成した.
定量的な調査の意義と課題
意義1:新たな観光戦略の立案への寄与
地域が変革に取り組む際に最も大きな問題となるのは,観光資源の不足であろう.もちろん観光資源の保有数だけが誘客を左右するわけではなく,近隣の観光地との関係や交通の便による影響もある.しかし,資源が少ないと観光客が選択できる行動の幅が必然的に狭くなるため,地域の魅力,すなわち訪問するに足る観光体験を生み出すことが難しくなる.旅行・観光競争力ランキングで日本が首位となった要因のひとつが観光資源の豊富さであったことや,観光資源が豊富な地域の魅力は高く評価される傾向があるとの報告(杉本・菊地,2014)があることからも,観光資源の少なさが地域振興の妨げとなるとの懸念は残る.
このため観光資源を増やす取り組みが必要となるが,その際,観光戦略を立案する「能力」の不足が問題となるかもしれない.各地域では,コロナウイルス流行の前から地域ブランドや新たなツーリズム商品などの観光資源を創出しようと様々な取り組みを行ってきた.しかしその現場では「地域資源を観光資源に変えていく能力」や「観光戦略や地域戦略を立案する能力」の不足が認識されてきた(日本生産本部,2010).取り組みを実行する力がありながらも,十分な成果が得られなかったということは,ここで不足が指摘されている「能力」とは旅行者のニーズを把握する力であると考えられる.つまり,ニーズが把握できないため戦略を立案できず,立案したとしても結果につながりにくいため,継続的に取り組むことが難しかったのだろう.
定量的な調査を行う1つめの意義は,このような問題の解決に寄与できることにある.一般的に,旅行者のニーズを把握したい場合,図1の左側のように定性的な質問を行うことが多い.この方法は直感的に理解しやすいため,質問項目を作りやすく,回答者の負担も少ない.しかし定性的な調査でわかるのは,どのような回答が多かったかという傾向だけであるため,ニーズを細かく把握するには不向きである.これに対して図1の右側のように定量的な調査を行えば,ニーズを数値として把握できるうえ,様々な統計的解析も可能となる.この方法を用いるには,尺度の構成や統計的解析などに高い専門性が必要となるという難点があるが,それをクリアすれば,信頼性の高いデータを根拠として観光戦略を立案できるようになる.
意義2:効果的な類型の提供
観光戦略の立案をする場合,旅行者を類型化して捉える必要があるが,その際に不適切な類型を用いると対策を誤る可能性がある.たとえば外国人旅行者を対象とした場合には,類型としてデモグラフィック属性がよく用いられる.デモグラフィック属性とは,国籍や年齢,性別などの人口統計学的な特徴の総称である.これを用いれば,アジアの旅行者はショッピングを好み,欧米の旅行者は日本ならではの体験を好むといった推定を行うことができる.しかし,そのような類型だけをもとに観光戦略を立案することは適切ではないだろう.
確かに,デモグラフィック属性に基づく推定は,素早く“まあまあ”の精度で実行できるため,目の前の相手への即応が求められるような場面では実用的であるといえる.また国籍によって旅行形態は異なり,中国や台湾の旅行者は団体ツアーを利用することが多く,旅館や温泉などの従来型観光を好むのに対して,オーストラリアの旅行者は個人旅行が多く,日本の歴史や文化を体験する「新たな観光」を好むという(松井・日比野・森地・家田,2016).このような好みの違いは行動にも反映され,観光地での動線や購入する土産物まで違うという報告もある(有馬 ほか,2014).したがってデモグラフィック属性による判断が完全に誤りというわけではない.特にアジアの旅行者への対応は大量送客・大量消費の前提と合致していたため,これまでは合理的でさえあった.
しかし,ツアーやショッピングを好む欧米人もいれば,アドベンチャーツーリズムに魅力を感じるアジア人も存在する.同じアジアの旅行者であっても日本で行った行動にはばらつきがあるとの報告もある(青木,2016).したがって,個人化や多様化への対応が期待される今後の観光を計画する場合は,デモグラフィック属性よりも効果的な,新しい類型が必要となる.
そのような新たな類型を導出・提供できることに,定量的な調査を行う2つめの意義がある.すなわち,定量的に測定された旅行者のニーズを統計学的手法で分類すれば,旅行者のニーズをダイレクトに反映した類型を得ることができる.こうした類型を利用することで,ニーズを的確に捉えたサービスの提供が可能となり,地域の魅力を高める効果が期待される(Arimond & Elfessi,2001).さらに,デモグラフィック属性が利用されてきた経緯を考えれば,直感的に理解しやすいことも重要である.そこで調査では,タイプ分類を行ったうえで,利用者がニーズを捉えやすいよう,類型を可視化する.
課題:ニーズの測定方法の確立
以上で述べた通り,定量的な調査を行えば,旅行者のニーズを的確に把握し,類型化できると考えられるが,そのための手法は未確立である.旅行者のニーズは「観光動機」や「旅行者モチベーション」などをキーワードとして研究されてきたが,その主な関心は,旅行という行為そのものを分析することにあった(林・藤原,2008).すなわち従来の研究は,個人を旅行という行動に突き動かす要因は何か,旅行先の選定にかかわる要因には何があるか,などの定性的な分類が主目的であった.このため,旅行者のニーズを定量的に把握するには,それらの要因をもとに新たな尺度(ものさし)を構成する必要がある.さらに,いま必要としているのは“日本を訪れる外国人旅行者”のニーズの把握であるため,尺度を構成するためには,自国に居住していて訪日意欲がある外国人に,日本における旅行のニーズを問う必要がある. また様々な旅行者のニーズを測定し,類型化するためには,できるだけ多くの国・地域で性別や年代に偏りがないデータを取得する必要もある.これらの課題を解決するため,われわれは旅行者のニーズを測定するための定量的な尺度(観光動機尺度)を新たに作成し,それを用いて上述の要件を満たす外国人を対象とした調査を行うこととした.
調査の概略と成果
観光動機尺度の作成
観光動機に関連する国内外の研究(佐々木,2005; Mohammad,et al.,2010; 林・藤原,2012; Correia,et al.,2013; 岡本,2014; Hassann,et al.,2020)をもとに,新たに観光動機尺度を作成した.尺度の構成に際しては,上述した先行研究から186項目を収集し,そこから重複を除いた160項目について,50名の参加者に重要度を7段階で評定するよう求めた.また,その結果をクラスタ分析(Ward法)したうえで,旅行代理店や地域の観光部署の担当者との合議によって33項目(図2,評定項目)を選出した.
作成した尺度を用いて,様々な国や地域に住み,訪日を希望している個人を対象に調査を行った.この調査には8つの国と地域から,自国に居住し,訪日を希望する1157名が参加した.参加者の内訳は,アメリカ161名(男性81名,女性80名;平均44.8歳),イギリス160名(男性81名,女性79名;平均43.5歳),フランス100名(男性52名,女性48名;平均37.8歳),ドイツ127名(男性67名,女性60名;平均41.3歳),イタリア134名(男性69名,女性65名;平均40.3歳),中国171名(男性89名,女性82名;平均35.5歳),台湾154名(男性71名,女性83名;平均44.8歳),香港150名(男性77名,女性73名;平均44.3歳)であった.参加者の募集に際しては,性別と年代(20代・30代・40代・50代・60代以上)が均等になるようにした.調査はweb上の質問紙で行い,各国の標準言語に翻訳した観光動機尺度の各項目について,重要度を「まったく重要でない(1)〜とても重要(7) 」の7段階で評定するよう求めた.
続いて,調査によって得られた評定値を因子分析によって解析し,図2にF1~F6で示した6因子を抽出した.このうち第一因子(F1)はショッピングや観光名所,ホテルでの滞在などに関する項目が多く,都市型の観光ニーズを反映する項目群であるとの解釈から「都市」因子と命名した(図には因子名のみ表記).そのほかについても順に,現地の食や街並みなど非日常性へのニーズを示す「現地」,ハプニングやスリルを求める「刺激」,他者や新たな自己との出会いを期待する「出会」,現地の芸能やアートを楽しむ「文化」,自然や景観を満喫したい「自然」のように命名した.この結果から,旅行者のニーズには多様性があることと,それらを観光動機尺度によって測定できることが確認された.
観光動機タイプの分類と有用性の確認
観光動機タイプの分類
分類に際しては,図2の各因子に含まれる項目の評定値の平均を用いてWard法によるクラスタ分析を行った.これにより参加者は8つのクラスタに分かれると解釈できたため,それぞれを「観光動機タイプ」と呼び,回答の傾向から個別に名称を付けた.たとえばすべての因子の平均点が高かった第1クラスタは「T1.欲張り型」,F1.都市の因子に含まれる項目の平均点が低く,特に「友人・知人に自慢したい」や「同行者と語り合いたい」の項目の評定値が低い第2クラスタは「T2.一人旅型」とした(以降では“T1.”や“T2.”は省略する).レーダーチャートの各因子のうち,赤で示したものは他の因子より統計的に有意に平均値が高かったもの,青は他の因子より有意に低かったものであり,線の形状と併せて確認することで,各タイプの特徴を細かく把握できる.
デモグラフィック属性による類型との比較
続いて,デモグラフィック属性による類型と比較するため,国・地域ごとの観光動機タイプの割合を算出した.図4を概観すると,大枠としては欧米とアジアで違いが認められた.まず,欧米は全体に観光動機尺度の得点が高く,積極的といえる.アメリカとフランスでは欲張り型が,イギリスとイタリアでは一人旅型の占める割合が大きい(残差分析で検定の結果p < .05;以下も同じ).これに加えイギリスは,自然型の割合も大きい.一方アジアは刺激や出会いを求めない傾向にある.たとえば中国・台湾・香港はいずれも休息型とツアー型の割合が大きく,欲張り型や地域体験型の割合が小さい.これに加えて香港は家族型の割合も大きい.この傾向は,デモグラフィック属性が“まあまあ”正しいことを意味しており,それゆえ実用されてきたと推察される.しかし,同じ地域であっても傾向は一貫しておらず,例えばドイツは地域体験型と家族型の割合が大きいし,台湾では4人に1人以上が一人旅型である.これらのことから,やはりデモグラフィック属性ではなく,観光動機タイプに応じた対応が必要と考えられる.
観光動機タイプによる体験意欲の違い
観光動機タイプに応じた対応の有効性を確認するため,地域の「ストーリー」を体験したいと思う程度が観光動機タイプによって異なるか検証した.ここで述べたストーリーとは,本調査にあたって独自に作成したもので,図5のように地域の特色の説明,体験の提案,施設や観光スポットの紹介を組み合わせて紹介することにより,読者が「その地域でどんな体験ができるのか」をイメージできるようにした資料である.調査で提示したストーリーは図5の表に示した7つで,いずれも共同研究を行った赤穂市にある観光資源を用いて,観光の専門家が作成した.図5の右側に示したのは「A:料理」の例であり,タイトルや説明文などは日本語で示されているが,調査ではこれらを各国の標準言語に翻訳したものを用いた.参加者は,観光動機尺度への回答後に7つのストーリーを読み,それぞれについて体験したい程度(体験意欲)を7段階(1:まったく~7:とても)で評価した.
分析の結果,観光動機タイプごとにストーリーの体験意欲が異なることが明らかとなった.図6は観光動機タイプごとの体験意欲の平均を示したものであり,欲張り型はすべてのストーリーの体験意欲が高いのに対し,気まぐれ型は総じて値が低いなど,タイプによって違いが認められた.このことは,新たに作成した観光動機尺度が旅行者のニーズを的確に捉えていることを示唆している.また,それぞれのタイプにおいて他より体験意欲の評定値が高かったストーリーには図5の表と対応する色を付け,逆に他より低かったストーリーは黒で示した.これにより,たとえば一人旅型は料理,塩づくり,宗教文化,内海遊覧の各ストーリーの体験意欲が高く,そのほかのストーリーが低いため,好むストーリーに明確な差があることがわかる.また,他のストーリーとの間に有意な差が認められないストーリーはグレーで表示しており,欲張り型と気まぐれ型はストーリーの好みに差がないことがわかる.8つの観光動機タイプを概観すると,料理や内海遊覧は色がついているタイプが多いことから,この地域(赤穂市)ではこの2つのストーリーにまつわる観光資源が魅力になる可能性が高い.その一方で,街歩きの体験意欲は総じて低いため,地域の魅力として整備するためには相応のコストや工夫が必要と考えられる.
地域の変革に向けて
調査結果と観光戦略
以上,調査では新たに観光動機尺度を作成し,その有効性を検証した.作成した観光動機尺度を用いて8つの国や地域に居住する1157名を対象に調査を行ったところ,旅行者のニーズには6つの因子があり,それによって旅行者を8つの観光動機タイプに分類できることがわかった.この8タイプは,調査を行ったすべての国や地域にあまねく存在しており,タイプごとに好むストーリーが異なったことから,作成した観光動機尺度の妥当性が確認され,デモグラフィック属性ではなく観光動機に応じて観光資源を整えることの有効性も示された.
このような研究成果は,地域が観光施策を計画するうえでの指針となりうる.たとえば今回共同研究を行った赤穂市では料理や内海遊覧のストーリーの体験意欲が高かったため,これらを観光の主軸として観光資源を整備すれば高い費用対効果が見込める.また赤穂市“ならでは”の体験を盛り込みたいのであれば,体験意欲が高い宗教文化のストーリーに関する観光資源を整えたり,国内で人気が高い赤穂浪士ゆかりの武士道のストーリーの体験意欲が伸び悩んだ理由を探ったりといった対策も講じられる.ほかの地域でも同様にして,独自のストーリーや複数の観光資源について観光動機タイプごとの評価を測定し,その結果をもとに観光体験をデザインできると考えられる.
もちろん,そのような取り組みの成果は一朝一夕に出るものではないだろう.地域資源の掘り起こしには人手もコストも必要となる.しかしここで示したように,定量的な指標に基づいて観光体験というサービスをデザインすることは,その過程で生じるロスを抑えつつ,地域の魅力を高める,堅実かつ有効な方略であると考えられる.
地域への訪問意欲を高める要因
今回の調査は旅行者のニーズの把握を目的としていたため,地域での観光体験が実際の誘客につながるかについて積極的な検証を行えない.しかし,参加者がストーリーを読む前と読んだ後の2回,赤穂市を訪れたい程度(訪問意欲)について7段階(1:まったく~7:とても)で評定するよう求めた結果,読む前よりも読んだ後の訪問意欲が有意に高くなっていた.このことから,地域の情報に触れたことが何らかの評価に影響し,訪問意欲が高まったとの仮説が成り立つ.
そこで今後の手がかりを探るため,訪問意欲を目的変数とする共分散構造モデル(図7)を構築し,事後に訪問意欲が高まる機序の推察を試みた.このモデルでは,片平ほか(2018)が提案した感性の階層モデルをもとに,まずストーリーの印象が感情を喚起し,それが体験意欲や好悪の評価につながり,訪問意欲を規定するという機序を仮定した.図中の「非日常」と「特色」は印象,「楽しい」と「不安な」は感情であり,詳細な手順は割愛するが,ストーリーを読んだあとに聴取した評定値を因子分析することで抽出した(評定に用いた項目は各因子に付記した).図7を概観すると,赤穂市への「訪問意欲」に影響していたのは「好き」という評価(赤穂市について「好き」という言葉が当てはまる程度を7段階で評定)やストーリーの「体験意欲」で,それらは感情や印象の影響を受けていたことがわかる.また「好き」は「非日常」,「特色」,「体験意欲」から正の影響を,「不安な」から負の影響を受けていた.加えて「体験意欲」は「楽しい」「非日常」に影響され,「楽しい」は「非日常」に強く影響されていた.
この繋がりを総合すると,地域での観光体験の構成だけでなく,その伝わり方によっても訪問意欲が左右される可能性が見えてくる.すなわち観光体験が,地域“ならでは”や非日常的であるとの印象を与えれば,楽しそう(不安ではない)との感情がわき,好き・体験したいなどの評価を介して訪問意欲が高まることが推察される.この推察は,あまりに当然であり,これまでも配慮されてきたに違いない.しかし,それを量的な指標とすることで,何をどのように発信すると訴求力が高いのかを測定し,観光戦略に反映することがはじめて可能となる.したがって今後は,観光動機タイプに応じた情報発信についても検証を進める必要があるだろう.
おわりに
本稿では,地域の変革に向けた活動の一環として,旅行者のニーズを定量的に測定することの意義を述べたうえで,実施した調査の概略と成果を紹介した.既に述べたように,旅行者のニーズの把握ができないと地域の変革は難しい.すなわち,旅行者にとって地域の何が魅力的に映るのか不明確だと,整備すべき観光資源を適切に絞り込めず,対策が場当たり的になり,効果があったか否かも判定できないといった負の連鎖が生じ,地域が疲弊してしまう恐れがある.しかし,旅行者の行動に目を向け,ニーズに沿ってサービスの方針が定められているならば,整備する対象や改善する目的などが明確となり,コストと成果の関係を検証することも可能となる.
われわれは,このような取り組みが地域の魅力を持続的に高めるとの期待を持っている.これは,効果が認められた施策を中心にサービスを拡充していくことで,地域の魅力が増すだけではなく,何が地域の魅力であるのかについての共通理解が醸成されると考えられるためである.関係者が地域の魅力についての共通認識を持っていれば,それを維持し,高めるためには何をすればよいのかを個々人が意識できるようになる.その結果,地域の魅力が継承,洗練されていき,かつて観光庁が目指した「観光地域ブランド(観光庁,2018)」が確立されるかもしれない.
このような利点がある反面,現時点では観光動機タイプの判定に時間がかかるため,実用性を高めるには,簡便な判定方法を開発する必要があるだろう.これまで旅行者のニーズを把握する際にデモグラフィック属性が用いられてきたのは,“まあまあ”の推定を素早く行えたからだと推察される.したがって,たとえ観光動機タイプによる推定が有用だと認識していたとしても,肝心のタイプ分類に手間がかかるのであれば実用性が低くなる恐れがある.このため地域の担当部署が観光戦略を練る場合に用いる“フルサイズ”の観光動機尺度とは別に,旅行代理店や観光案内所などが顧客のニーズを即座に把握する際に利用できる“簡易版”の尺度があることが望ましい.このため筆者らは,今後そのような尺度の開発を進め,関西学院大学感性価値創造インスティテュートで準備を進める「感性メトリックバンク」で公開することを計画している.
参考文献
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著者紹介
破田野 智己
2005年立命館大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程後期課程単位取得退学,2021年より関西学院大学理工学研究科専門技術員.意思決定や嗜癖に関する研究に従事.https://ist.ksc.kwansei.ac.jp/~nagata/kvc/
竹澤 智美
2004年立命館大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程後期課程退学.博士(文学).現在甲子園大学心理学部専任講師,関西学院大学感性価値創造インスティテュート客員教授.感性印象や知覚にかかわる研究に従事.
杉本 匡史
2015年京都大学大学院教育学研究科修了.同年,筑波大学人間系研究員.2016年関西学院大学大学院理工学研究科博士研究員,2018年関西学院大学研究特別任期制助教,2022年より同特別任期制講師.博士(教育学).https://researchmap.jp/msugimoto
徐 貺哲
2020年千葉大学大学院博士課程修了後,関西学院大学博士研究員を経て,2021年より弘前大学教育推進機構助教.主に数理モデルを用いた人間の認知メカニズムの形成に関する研究に従事.
森川 貴嗣
マサチューセッツ工科大学への研究留学を経て2021年関西学院大学理工学研究科博士後期課程単位取得満期退学.2022年よりSound&Future合同会社 最高戦略責任者CSO.専門は臨床心理学,精神医学,音楽心理学.
東 泰宏
2011年関西学院大学大学院理工学研究科情報科学専攻卒業.同年,株式会社電通国際情報サービス入社.現在,ISI-Dentsu South East Asia Pte.Ltd.General Manager.主に,金融業務アプリケーション開発におけるプロジェクトマネジメントに従事.
渋田 一夫
1990年青山学院大学大学院理工学研究科物理学専攻博士前期課程修了,富士ゼロックス株式会社入社.2015年東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻専門職学位課程(MOT)修了.2020年4月より関西学院大学感性価値創造インスティテュート特任教授.専門は感性工学,サービスデザイン.
長田 典子
1983年京都大学理学部数学系卒.同年三菱電機(株)研究員.1996年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了.2003年より関西学院大学理工学部情報科学科助教授,2007年教授.2020年感性価値創造インスティテュート所長.専門は感性工学,メディア工学等.博士(工学).