本コラムは、産業戦略研究所代表の村上輝康氏によるコラム「ムラカミロジー」のvol8で、2本に分けておお届けします。本稿はその1本目です。
1. 日本のサービス学研究に独自性はあるか?―サービス学フォーメーションWGの問い掛け
2026年3月に開催された第14回のサービス学会国内大会においては、前回に続きオーガナイズド・セッション(以下、OS)のひとつとして、村松潤一氏(以下、村松)を代表者とする「サービス学フォーメーションWG」の発表が行われた。OSでの発表は、WGの個々のメンバーがOS参加者に対して個別に「問い掛け」を行い、そのメンバーが関連する発表を行った上でフロアとディスカッションを行うという形であった。筆者からは、日本のサービス学研究の独自性発揮の領域としての「生活者ドミナント・ロジック」についての提案を行ったが、これについてはまだWG内での議論を十分に尽くしているとはいい難いため、このサービス学会Webマガジンの「ムラカミロジー」の場で公開するのが適切と考え、ここにOSでの発表内容をふまえ、それを発展させた考察の結果を記しておきたい。日本のサービス学研究の、国際的なパースペクティブの下での独自性は必要か、必要だとすると独自性はどこに求められるべきかについて考える上での参考になれば幸いである。なお、以下では、現在のサービス学についての基礎的な知識を有する読者を前提として記述を進めていく。
筆者からの「問い掛け」は、「サービス学会創設以来の活動を通じて、日本のサービス学研究は、その独自性や特色といえるものを構築できたでしょうか?」というものである。この「問い掛け」は、2025年度のサービス学フォーメーションWGの一連の活動の途上において、ホー・バック氏(以下、ホー)と筆者との間で交わされた議論や関連するテーマでのメールでのやりとり等を通じて行われた一連の対話から生まれたものである。その対話の内容を(筆者の視点で)整理したのが、表1である。
この「問い掛け」に対して、ホーは、これまでの日本のサービス学研究はマーケティングや経営学、情報学等の既存の学会活動と差別化できていないものであり、別の学会で発表しているようなサービス学研究は、真のサービス学研究とは言えない、としてNOという立場を鮮明にした。それに対して筆者からは、GDPの7割を占めるという重要性を持ちながらも、科学的・工学的研究がなおざりにされてきたサービスというテーマについて、何か別のテーマとの関連でではなく、純粋にサービスだけを目的として研究する学術の存立の必要性に鑑み、それを文理融合、産学連携、グローバルの相において実現すべきというサービス学会設立の理念に照らせば、これまでサービス学会で実施されている研究には十分独自性があるとして、YESの立場をとった。

ホーは、手続き主義の立場で研究のジャンル分けはあくまで研究の掲載誌が規定するとし、筆者は、実体主義の立場で研究のジャンル分けは、(掲載誌を問わず)研究の掲載内容が規定するという基本的立場にたっている。ホーは、これまでのサービス学会の活動の成果には、「独自性は無い」という明快な意見で、筆者は表1に示した、おもてなしを切磋琢磨の価値共創とする研究から、サービスにリビングラボ方法論やサービス工学を適用する研究までの諸研究事例は、いずれもサービス学会らしい独自性をもった成果を上げている、という意見である。なお、これらの研究事例は、JSTの問題解決型サービス科学研究開発プログラム(S3FIRE)で国のサービスサイエンス研究開発として実施された研究や、学会誌「サービソロジー」において展開されたサービス学研究から抽出したものであるが、ここに示される研究については後に第5章において個別に言及する。ホーは、学会誌が、ここにしかないという独自性を持った投稿を集められることが重要とし、筆者は、他の学会とくらべた独自性という相対的な独自性はすでに十分存在していると考えているが、同時に、グローバルなパースペクティブで見ても独自性を担保できるような、日本のサービス研究の絶対的独自性の追求努力は今後も必要であるとした。
この一連の対話の中で、ホーは、研究の入口論の立場からあくまで自立的な独自のサービス学が必要と主張し、筆者は、社会の中で、社会のための学術としてのサービス学が重要という出口論の立場である。個別の主張には相違があるが、いずれもグローバルなパースペクティブでみて絶対的な独自性を主張できる日本独自のサービス学が必要と考える点では、結局は同じ立場である、ということを確認して現在に至っている。これが、この「問い掛け」の背景である。
2. グローバルにみた日本のサービス研究の独自性とは
では、グローバルに見たときの「独自性をもった日本のサービス学」とはどのようなものなのであろうか。この問いに応えようとするに際して絶好の機会を与えてくれたのは、2025年12月1日から3日間、スウェーデンのストックホルムで開催されたサービス学の国際学会ICServ2025である。筆者は、ちょうど10年前にサンノゼで開催されたICServ2015で「サービス価値共創フレームワーク(ニコニコ図)」を発表した。このフレームワークが10年の時を経て、「価値共創のサービスモデル」へとどのように変化したかを明確にし、それが日本サービス大賞という場で日本の実践者のサービスイノベーション理解にどのように貢献しているかを示す論文を発表することになっていた。
では、グローバルに見たときの「独自性をもった日本のサービス学」とはどのようなものなのであろうか。この問いに応えようとするに際して絶好の機会を与えてくれたのは、2025年12月1日から3日間、スウェーデンのストックホルムで開催されたサービス学の国際学会ICServ2025である。筆者は、ちょうど10年前にサンノゼで開催されたICServ2015で「サービス価値共創フレームワーク(ニコニコ図)」を発表した。このフレームワークが10年の時を経て、「価値共創のサービスモデル」へとどのように変化したかを明確にし、それが日本サービス大賞という場で日本の実践者のサービスイノベーション理解にどのように貢献しているかを示す論文を発表することになっていた。筆者がその論文を発表するのと、まったく同じセッションで、カスタマードミナント・ロジック(以下、CDL)の提唱者であるクリスティーナ・ハイノネン氏(以下、ハイノネン)が、データ化された生活のためのウェルビーイング中心フレームワークにむけて、という興味深いテーマで発表することになっていた。そこで、グローバルな視点からその妥当性を検討できるのではないかと考え、日本のサービス研究の独自性確立についてWGでこれまで議論してきたことを、ハイノネンに直接ぶつけてみた。それまでのWGの議論において、日本のサービス学の独自性発揮の場として唯一提起されていたのは、市場での取引を前提としない「生活世界」における価値創造の研究の重要性を主張する村松の「生活世界」論であった。WGでは、それとは別に、WGメンバーの張 婧氏(Zhang Jing。以下、張)から、「価値共創マーケティングの深化」等において張が展開した議論をふまえて、従来のマーケティング研究から、サービスドミナント・ロジック(以下、SDL)を経て、北欧学派に至るサービス学におけるパラダイム変化の経緯についての図1のフレームワークを用いた発表があり、ハイノネンのCDLが、変化の先端にあるという「北欧学派のカスタマーパースペクティブアプローチ」という発表が行われていた。そのような中から、ハイノネンの研究が、村松のいう市場での取引を前提とする価値創造研究と考えることができるとすれば、その先端のさらに先に、村松の主張する「生活世界」論を位置づけることができ、日本のサービス学研究の独自性をそこに求めることができるのではないか、という仮説が生まれてきたのである。

図2は、きわめて簡素化された表現ながら、サービス学のパラダイムの変化の経緯を、価値共創のサービスモデルの一部を用いて説明するものである。図の左側は、サービスの提供者サイドであり、右側は利用者サイドで、その間の領域はサービスにおける両者のやりとりを示しており、この図では、提供者から利用者への価値提案の態様が示されている。①の伝統的なマーケティングにおいては、サービスの提供サイドの企業が、利用サイドの消費者に対して、その購入を一方的に働きかける関係になっており、張は、それを図の細い点線で示される三角形のように表現する。そこでは、グッズドミナント・ロジックにしたがって、提供者から提供されるサービスには、あらかじめ価値が備わっているとみなされる。このプロバイダー中心の見方に対して、革新的なサービスのパラダイムを提供したのが②のバーゴ&ラッシュのSDLである。バーゴらは、サービスを提供者から利用者への一方的な働きかけとしてではなく、提供者と利用者の間の相互関係に着目して、この太い点線の長方形の部分の構造とメカニズムを、最初は8つ、最終的には11の基本的前提Fundamental Premises (FP)によって明らかにした。それに対して異を唱えたのが、③のグルンルースをはじめとする北欧学派のサービス・ロジック(以下、SL)である。グルンルースらは、①の三角形を逆転させて、サービスの利用者である顧客が、自身の経験やロジック、利用する資源を通じて自身にとって重要な価値を引き出す能力の発揮を、顧客の価値創造のプロセスと捉え、このプロセスこそがサービス理解の核心をなすと考えた。サービスの提供者としての企業は、潜在的な顧客にとっての価値の実現を約束するプロミスを的確に設計し、市場取引を通じてそのプロミスを遂行することによって顧客の価値創造を支援する。したがって、提供サイドの企業にとっては、プロミスを介していかに効果的に価値創造のプロセスを推進するかが最重要課題となる。さらに、北欧学派のハイノネンは、企業と顧客のインタラクションにとどまらない、顧客固有の振る舞いの重要性を理解せずして、サービスの価値は説明できないとして、④の長方形で示すように、顧客にとって価値がどのように顧客の中において創造されるかを中心に据えた研究こそが最も重要であると考えるCDLを提唱した。そして、その顧客固有の振る舞いの理解には、サービスエコシステムにおける顧客とサービス提供者との関係よりも広範囲な、顧客に焦点をあてた社会的、商業的、物理的、仮想的な機能をも備えたエコシステムとしての、顧客エコシステム(ハイノネンの用いるCustomer Ecosystemsという言葉の日本語への翻訳を、「顧客エコシステム」でなく、「カスタマー・エコシステム」と表記する場合もあるが、本稿では「顧客エコシステム」で統一する)の概念が重要であるとしている。

そのようなサービス学のパラダイム変化の流れの中で、村松の「生活世界」論は、企業と顧客の間の交換価値を拠り所とする市場取引関係をベースとした世界の外側に「生活世界」という世界を規定する。そこでは、サービスを通じた文脈価値の実現こそが目的であり、この社会的調整のメカニズムの中では、市場は手段にすぎない、と考える。①の伝統的マーケティングは、勿論、②のSDLや③のSL、④のCDLのいずれもが、市場での取引関係を前提としたものであり、その点において、「生活世界」論は、①から④までのサービス学のパラダイムの外側にある。したがって「生活世界」という概念こそが、サービス学のフロンティアの鍵概念であるという主張である。
それに対して、ハイノネンは、ストックホルムでの筆者との対話において、CDLは、顧客の振る舞いに焦点をあてた非常に広範なテーマを対象とするロジックであって、市場取引の外側にある「生活世界」の中にいる受け手に関連するテーマはすでに顧客エコシステムに関わる諸研究の対象となっているとする。「生活世界」の概念についても、CDLは、顧客が活動する場としてLifeworldという言葉を用いており、暗に、村松の提起した「生活世界」論の研究領域は、CDLの研究領域に包含されており、それは特段のフロンティアを構成しない、と考えているのである。
「生活世界」、Lifeworldを包含したCDL研究の事例についてのハイノネンの説明を聞きながらも、依然として「生活世界」を切り口としたサービス研究に、日本のサービス研究の独自性を追究する糸口が残されているはずと思わせたのは、今年度(2025年度)のWG活動の中でWGメンバーの根本祐太郎氏(以下、根本)の、生活世界に分け入ってその構造をより明確にすることに挑戦した「生活世界の再構成:不登校当事者を中心としたサービスエコシステムの動態に関する質的研究」と、WGでの発表「生活世界の再構成の再構成経過報告」の存在であった。根本は、生活世界を、「特定個人が継続的に関与する複数のサービスシステムで形成されたエコシステムであり、そこでの価値経験の座として、当人の心的システムも包含する」と定義して、「心的システム−サービスシステム−生活世界」の三層構造として把握している。そして、図3に示すように、「不登校問題」という、明らかに市場の取引関係とは距離をおいた問題をサービス研究の対象としてとらえた。その上で、不登校になやむ当事者の心的システムに関わる複数のサービスシステムとその関わりの構造を同定し、不登校問題を脱した(必ずしも、登校に戻ることを意味しない)当事者の「心的システム−サービスシステム−生活世界」の構造への遷移の分析によって、エイジェンシー(価値共創の中で、資源を統合し、他者との関係を通して状況を変化させる能力、行為主体性)と制度の間のダイナミズムやオーケストレータ機能(サービスエコシステムの中で、多様な主体を繋げ、調整し、価値共創が成立するように働きかける機能)への着目の重要性という帰結を導いている。このような、村松による「市場の取引関係の外側にある生活世界にサービス研究の独自性追求の糸口がある」という主張の上に立って、明らかに市場取引の外側にある不登校問題にサービス研究の手法を適用し、興味深い帰結を導いている研究の存在は、ハイノネンの「カスタマー=顧客」の概念をどこまでも拡張することによって、生活世界を包含しようとするロジックを突破する可能性を直感させたのである。

3. 「生活者ドミナント・ロジック」の提案
それでは、日本のサービス学の独自性を示す領域はどこにあるのか。「生活世界」論は、研究の場である「生活世界」を鍵概念として議論を展開したが、「生活世界」が”カスタマー=顧客”の活動領域にあたるということになると、CDLに包含されてしまう。それを避けるためには、「場」を鍵概念とするのでなく、”カスタマー=顧客”が指し示す領域を越える「主体」を鍵概念とすることが妥当ではないか。
そこで提案したいのは、「生活世界」という場=環境でなく、「生活者」という研究対象の「主体=アクター」を日本のサービス学の独自性追求の鍵概念とするというアプローチである。「生活世界」そのものは、サービス現象が発現する場ではあっても、サービス現象そのものではない。サービス現象は、あくまで「生活者」によって担われるものであり、研究の主要な対象は生活者の振る舞いであり、その構造やメカニズムなのである。このため、サービス学がそのフロンティアで研究の対象とすべきはサービス現象の主体である「生活者」である、とすることによって、日本のサービス学の独自性追求の糸口が得られるのではないか、というのが、「生活者」を中心に置こうとする第一の理由である。
第二の理由は、「生活者」という概念が、日本で生み出され、英語表現の存在しない、日本独自のオリジナルな概念だからである。欧米には、消費者や顧客、市民、国民、大衆という言葉はあっても、「生活者」という言葉は無い。この日本にしかない「生活者」という言葉を鍵概念とすることによって、日本のサービス研究の独自性発揮の糸口を得ることができるのではないか、という仮説である。
第三に、日本の「消費者」や「顧客」は、1980年代にはじまった価値観の多様化とともに、単に「経済的な豊かさ」を求めるだけでなく、「生活における幸せ」を求めはじめているのではないか、という点である。この点、すなわち、効用関数の内容の本質的な変化については一種の通念になりつつあるが、今日までその主体概念はあいまいなままであるように思える。そこで、経済的な豊かさを求める「消費者」や「顧客」に対して、生活における幸せを求める、幸福論の対象となる主体を、「生活者」と明確に弁別することによって、従来からのウェルビーイング論の輪郭をはっきりさせたい、という理由である。
ここで、社会システムの中の「生活世界」において、必ずしも企業―顧客関係を必須としない、ウェルビーイングの実現を追究する「生活者」を軸にしたサービス学を「生活者ドミナント・ロジック」と呼び、そこに日本のサービス研究の独自性を求めたい(図4)。「ウェルビーイングを追究する」という表現をするのは、「生活者」が、単に経済的効用を求める消費者や顧客より、広く深い効用を求めると考えるからである。価値共創のサービスモデルにおける社会システムは、サービスという取引現象一般が営まれるユニバースにあたるが、「生活世界」は、市場の取引関係を必須としない(しかし、市場の取引関係を排除するものでもない)日常生活を営む生活者が活動する経済・経営的な空間であり、社会システムの中に位置づけられる。図4には、「広義の生活者」という表現もあるが、これは、日常生活の一シーンを越えた、社会的・政治的・技術的な側面での、より長期間にわたる生活一般やそれまでの人生全体を含む、いわば、広義の生活をいとなむ者というべき概念である(後に再度言及する)。社会的・政治的・技術的な側面を経済・経営的な側面から弁別したのは、サービスという視点から見ると、いわゆるPEST分析を構成する4つの要素は、経済とその他に分けられると考えられるからである。

「生活者」という言葉は、英語には無い、日本語に独自の表現であると述べたが、それは日本古来の言葉ではないし、明治維新前後に入ってきた外来語でもない。その言葉の初出は大正から昭和への変わり目の1926年で、宗教色の強い劇作家の倉田百三による雑誌「生活者」の発刊に求められるといわれる。そこでの「生活者」は、俗世間に抗してストイックな倫理で自己を律する宗教的な求道者を指しており、現在のこの言葉の意味合いとは異なるニュアンスを持ったものであった。戦前から戦後にかけて、論壇では「生活者」という言葉を用いた議論がさかんに行われたというが、それは戦時の国家の枠組みに組み込まれた「国民」や、マルクス主義的な労働運動における「労働者」に対置される「生活者」という使い方であった。経済や経営の分野での「生活者」という言葉の使用は、経済学者の大熊信行による1960年代の「消費者から生活者へ」という形での「生活者」という言葉の使用まで待たねばならなかった。ただ、大熊の「生活者」も、経済取引の視点にたつ生活者ではなく、生命の維持・持続を求める人間を再生産する存在として「生活者」を考えるものであり、これも現在の生活者という言葉とはニュアンスの異なるものであった。
それに対して、より現在に近い形でこの言葉が頻繁に用いられるようになったのは、なんといっても高度成長時代が終わった1980年代後半以降の価値観の多様化の時代に、生活者マーケティングという概念が普及しはじめてからである。最初は、価値観やライフスタイル研究において、 シンクタンクによる大規模な生活価値観調査が行われ、「生活者」という言葉が使われはじめてからであると思われるが、その後、1980年代後半以降には、広告代理店も加わって、生活者マーケティング、生活者行動、生活者視点等と、頻繁にこの言葉が用いられるようになった。
そして、1993年に宮澤喜一内閣が生活大国五か年計画を発表し、「生活者・消費者重視の視点」を謳い始めるに及んだ。そこから「生活者」という言葉は、経済・経営の世界の言葉としてしっかりと定着し、現在では、生活者1万人アンケートや生活者総合調査といった調査統計すら存在するほどになっている。
さらに、生活者という言葉は、経済・経営の世界を越えて、より広く、社会という面では、生活者支援、生活者優先、生活者目線、政治的な表現としては、生活者主権、生活者ファースト、技術の面では、生活者中心設計、生活者インターフェース、メタバース生活者といった、多様な使い方がなされている。このような経済・経営の世界における日常生活を越えた社会的・政治的・技術的な生活も含む生活一般をおくる「生活者」は、「広義の生活者」として、日常「生活者」と区別するのが望ましい、と考えられる。つまり、「生活者」には、日常生活をいとなむ短期的、微分的な「生活者」と、より長期の、それまでの生活者としての人生全体を含むような長期的かつ積分的な「生活者」の二種類があると考えることができる。このような総合性をそなえた「生活者」は、最終的には「人間(=human being)」とした方が良いのかもしれないが、ここでは、あくまでサービスに関わる人間の一側面を捉えるという意味で「広義の生活者」としておきたい。
日本のサービス学の独自性を確立するために「生活者ドミナント・ロジック」という概念を導入するとすれば、当然、SDLやSL、CDLとならぶ英語表現が必要である。しかし、「生活者」には、英語表現が無いという問題がある。このため、「生活者」を、必然性の乏しい造語や冗長な表現を避けながら、あえて一語で英語表現をするなら、”Seikatsu-sha”とするのが妥当であろう。“Seikatsusha”としないで、間にハイフンをいれるのは、SDLと区別するために、略語をSsDLとすることができるという理由の他に、一語ではあまりに長すぎて外国人にはどこで切って良いか分かりにくく、発音しにくいからである。また、説明する時にもSeikatsuが生活で、shaが者であるため意味を説明しやすいし、SsDLが明らかに日本発のコンセプトだということが伝わりやすい、という利点もあるからである。
ムラカミロジー (8):日本のサービス学研究の独自性―「生活者ドミナント・ロジック」の提案②(2026年6月8日 公開予定)に続く。
参考文献
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著者
村上 輝康
産業戦略研究所代表.サービス学会顧問.日本生産性本部理事・サービス産業生産性協議会幹事・日本サービス大賞委員会委員長.情報学博士(京都大学).



