本特集では,ロボットホスピタリティを軸に,サービス理論,デジタル化,人間行動,サービス人材,サービスデザイン,サービス生産性,ソーシャルインパクトの観点でサービスにおける技術活用を論考した.

まず慶應義塾大学の山口高平氏から,巻頭言として「サービスロボットとユーザー視点」という題で,ホスピタリティ産業におけるロボット活用が紹介された.ここでは,マルチロボットカフェの実験で,複数のロボットがお互いを避けて動く様子がエンターテインメントになることが判るなど,ロボットならではのホスピタリティ特性を活かすユーザー視点を持つことが重要であることが示された.本稿より,ロボットホスピタリティを実現する理論拡張の方向性として,ロボットの高機能化に対し,最初からユーザー視点を入れたアジャイルな研究開発の視点の重要性が確認できた.

ヴイストン株式会社の大和信夫氏は,「ロボットとホスピタリティについて考える」というテーマで,ロボットとサービス受容者との共創関係のあり方を提言した.同氏は,ホスピタリティは「相手に何が求められているのか,どうすれば喜ばれるかを察して行動することである」として,現状のロボットは人間を理解することが難しく,人間側がロボットに対してホスピタリティを持って接することが,サービスをデザインする上で重要であると説明した.例えば,介護分野で用いられるセラピーロボット(赤ちゃんロボット)は,介護士が,被介護者に対してロボットを託すことで,被介護者がロボットの世話をする形で社会参加の機会や信頼関係の構築がなされるという.ロボットとの交流により,サービス受容者に社会的役割を提供するといった価値創造の観点は,ロボット活用の対象範囲をより拡張する重要な視点であると考えられる.

東京藝術大学の藤崎圭一郎氏は「道徳の顕れとしてのロボット」として,ロボットやAIが生み出すサービスやホスピタリティにおける倫理及び道徳の重要性を唱えた.ホスピタリティは他者に幸福感のある体験を提供することであり,その利他的な行為は「良い行為」とされるが,一方で,その連鎖において他者を誘導する意図を込めることもできる点において,「倫理や道徳をめぐる面倒な問題」を生じさせるという.ロボットホスピタリティが生み出すものとして,支援や信頼よりも,依存や誘導の度合いが高まれば,その未来はディストピアになりかねないが,ロボットが個々の人間の主体性を最大限に尊重する人間中心社会の新しい道徳の顕れとなる可能性もあると論じた.本稿より,ロボットとの交流が増加する社会における道徳の重要性を,深い論考を通じて確認することができた.

東京都立大学の和田一義氏は,「コンビニ業務を対象としたロボットの競技会」と題して,コンビニにおける各種業務の自動化を目的としたロボット技術を競う Future Convenience Store Challengeや近未来のコンビニ像のアイデアを募るFuture Service Designといった取り組みを紹介した.Future Convenience Store Challengeでは,コンビニの日常業務の把握及びロボット技術による自動化・省力化のニーズを探る調査やヒアリングに基づいて,トイレ清掃タスク,陳列廃棄タスク,接客タスクの3種類が対象競技として設定されている.競技ルールは技術の進歩に合わせて毎年見直しを行い,現実の課題解決を実現できるよう難易度を上げているという.このような競技会の場を設けることは,社会におけるサービス生産性の向上やロボット技術の高度化を促進するだけでなく,優れたアイデアを持つサービス人材の発掘にもつながると考えられる.

埼玉大学の山崎敬一氏らは「エスノメソドロジー的視点に基づく購買支援システムの開発」として,人間の相互行為や相互理解の分析に基づくサービスロボット開発の視点を説明した.ここでは,高齢者介護施設における食事場面でのケアワーカーと高齢者の交流に関したサービスロボット開発の取り組みや,小売店舗におけるロボットを用いた買い物支援の取り組みが紹介された.ロボットと被験者のやり取りに関する実験では,単に発言をし続けるロボットに対して,一旦発言を停止し,被験者が振り返ったタイミングで発言を再開するといった対応をするロボットの方が,より発言が傾聴される傾向があったという.ロボットが顧客とコミュニケーションを行う過程において,顧客のノンバーバルな情報に基づくデータを踏まえて顧客側の関心が高い時にロボットに対応させることが,ホスピタリティを向上させるためには有効であると説明した.本稿より,人間行動の特性を踏まえた人とロボットとのインタラクションを明確化することで,より円滑な価値共創が生まれる可能性を確認できた.

NTTコミュニケーション科学基礎研究所の亀井氏らは,「サービスロボットのオントロジーの標準化」*1と題し,ロボット関連技術の標準化の動向と,ロボットサービスオントロジーの標準化に向けた取り組みを紹介した.これまでのロボット技術の標準化の取り組みから,ロボットサービスのオントロジーを定義する流れは必然的であり,その標準化により,ロボットサービス開発におけるモジュール化や再利用性の向上に伴うサービス開発の効率化が期待できるという.併せて,ロボットサービスオントロジーは,サービスオントロジーとロボットオントロジーの結節点に位置づけられるものであり,特にロボット対話サービスや小売サービスにおけるオントロジーの定義がロボット技術と関連が強いと説明した.ロボットホスピタリティでは,ロボットと人との交流時の特性を把握することが重要であるが,本稿より,まずロボット対話サービスや小売サービスに関連するオントロジーの標準化と技術活用の視点が重要になるということを確認できた.

本特集で議論されたロボットホスピタリティを軸とした研究には,サービス研究における自動化技術(AI)活用に際して必要な4つの能力,「機械的AI」,「分析的AI」,「直感的AI」,「共感的AI」(Huang and Rust, 2018)が複合的に含まれている.「機械的AI」は反復的なタスクを扱い,観察に頼って反復的に行動し,環境に確実に反応するため,極端な一貫性を必要とする.「分析的AI」は,複雑でありながら,体系的で一貫性があり,予測可能なタスクを実行する.多くの場合,大量のデータを処理し,そこから学習することを伴う.「直感的AI」は,複雑,創造的,混沌,経験的,全体的な視野で,文脈に沿うなど直観的な理解が必要なタスクを実行する.「共感的AI」は,多くの場合,人間のような見た目を持ち,人間のように行動するように設計され,ユーザーの幸福のために心理的な快適さを提供する.このような観点でロボットホスピタリティのスコープを分類し,知見を蓄積・発展させていくことも今後のサービス研究において重要になるだろう.

他方,サービス・ピラミッドを応用した技術,従業員,顧客の関係を包括的に説明する視点(De Keyser et al., 2019)を用いると,ロボット(技術),従業員,顧客がどのような関係を持つのかといったパターンでロボットホスピタリティのスコープを分類することもできる.例えば,「従業員と顧客のやり取りをロボットがサポートする」,「ロボットと顧客のみでやり取りをする」,「ロボットは従業員のサポートのみを行なう」といった組合せである.それに加え,近年の拡張現実(AR)の発展により,物理的な環境での交流だけでなく,デジタル上の環境を通した仮想ロボットと顧客のインタラクションも実現可能となった.ARの実務適用は,サイバー空間とリアル空間をつなぎ,上記のロボットホスピタリティのスコープの組合せにおいて,さらに価値創造を促進することになるだろう.

本特集では,サービス提供に伴う自動化技術の活用について,ロボットホスピタリティを軸に様々な観点から議論した.サービスにおける技術活用が進む中,ロボットホスピタリティに対する体系的な理解の必要性が,より一層高まると考えられる.本特集が提供する多様な視点が,ロボットホスピタリティに関する今後の研究や実務上の展開に資すれば幸いである.

参考文献

De Keyser, A., Köcher, S., Alkire, L., Verbeeck, C., & Kandampully, J. (2019). Frontline Service Technology infusion: conceptual archetypes and future research directions. Journal of Service Management, 30(1), 156-183. doi:10.1108/JOSM-03-2018-0082

Gruber, T. R. (1993). A translation approach to portable ontology specifications. Knowledge acquisition, 5(2), 199-220. doi:10.1006/knac.1993.1008

Huang, M.-H., & Rust, R. T. (2018). Artificial Intelligence in Service. Journal of Service Research, 21(2), 155-172. doi:10.1177/1094670517752459.

著者紹介

増田 央
京都大学経営管理大学院特定講師.博士(経済学).京都大学大学院修了後,北陸先端科学技術大学院大学を経て,現職.サービスのデジタル化の影響に着目した,サービス工学,経営学,マーケティング,観光に関する研究に従事.

青砥 則和
日本電気(株)入社後,通信機器関連の事業部およびグループ会社にて,グローバルSCM改革,生産情報システムの開発に従事.現在,サクサ株式会社 経営戦略部に所属.明治大学専門職大学院グローバルビジネス研究科修了.中小企業診断士.

*1 計算機科学におけるオントロジーの最初の工学的定義は「概念化の明示的な記述」(Gruber, 1993)とされる.

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