3月2日の国会で全国一斉休校要請が出されて以来,およそ3ヶ月が経過した.中央大学附属中学校・高等学校(以下,本校)では4月の自宅学習期間を経て,5月18日からオンライン授業を実施している.都内では6月1日から分散登校などの形で登校が再開された学校も出てきているが,本校では感染予防体制の徹底を図るため,6月20日までオンライン授業を継続する予定である.ただし,登校日を設けるなど,オンラインと並行して授業再開に向けての準備は進めている.

コロナウイルス感染症COVID-19が中等教育の現場に与えたインパクトは大きく,今後どのような後遺症が出るかはまったく不明である.いま学校にできることは生徒の学びを止めないために最大限の努力をすることである.本コラムでは,本校のオンライン教育に関する取り組みを時系列で紹介するとともに,オンライン教育について私見を述べたい.

3月~4月上旬:LMSの本格的な運用開始

18万冊の図書館や中高あわせて8つの実験室など,物理的環境の充実に予算を費やしてきたため,これまで本校のICT環境整備は決して進んでいる方ではなかった.新学習指導要領に対応するために,これまでも校内WiFiの整備や1人1台端末に関する議論はしていたが,今回のコロナ禍には間に合わなかった.教員の意識にも温度差があり,昨年度にLMS*1としてGoogle Classroomが導入された際も,積極的に活用していた教員は限られていたと思われる.

そのような中で,本校におけるCOVID-19に対応した活動は, LMSを全学年に導入し本格的な運用をはじめるところからスタートした.生徒とのやりとりに必要なコミュニケーション環境を早急に用意する必要があったからである. ICT部門を担当する教員の尽力により昨年度の早いうちに生徒用アカウントの発行が完了していたこと,先行して運用していた学年・教員からノウハウが共有されたことで,比較的短期間で全学年・教科で運用を開始することができた.当初は生徒から「科目ごとに課題の配信方法がバラバラでわかりにくい」といった問題が指摘されたが,生徒と教員の双方が試行錯誤することで徐々に改善されてきている.

LMSの導入は,この3ヶ月間で経験した変化の中でも大きなものであり,既になくてはならないツールとなりつつある.これまでICTに積極的でなかった教員からも「やってみると自分でも簡単に使えることに驚いた」という声が上がっており,教員の意識にもインパクトを与えた出来事だったと感じている.

4月中旬~5月上旬:オンラインホームルーム,三者面談の実施

 4月中の授業再開が不可能になったことを受け,生徒の学習習慣を維持するために LMS上での課題配信をスタートした.この時点ではGW明けの授業再開を想定していたため,対面授業をスムーズに再開するための自習課題という位置付けであった.中学1年生と3年生の一部では動画やライブ配信によるオンライン授業が開始されたが,ほとんどの学年・教科はワークシートやレポート課題などテキストベースの配信を行った.

同時に,保健体育科が調査した生徒の行動記録から,昼夜逆転生活に陥りつつある生徒が多数いることが判明し,生徒の生活習慣をいかにして維持するかが議論された.また,生徒教員間および生徒同士のコミュニケーション不足も問題視された.そのため,学年・担任主導でGoogle Meetを使った「オンラインホームルーム」を実施することとした.保護者から子供の生活週間が改善されたという評価が多数寄せられており,この取り組みには一定の効果があったと見ている.ただし,もっと早く始めて欲しかったという厳しい評価もあったことは反省すべき点である.

さらに,4月下旬から5月上旬にかけて,生徒・保護者・教員による三者面談を実施し,オンライン授業に向けての不安や懸念を確認した.お互いの顔を見ながら話ができたことで双方に安心感が生まれた部分もあったように思う.

5月中旬~現在:オンライン授業の実施

5月18日からオンライン授業が開始され,現在も続いている.主としてオリジナルの講義動画を配信する方法(動画配信型)と講義資料やワークシートをPDFで配布する方法(テキストベース型)を展開している.ビデオ会議システムを利用する方法(双方向型)も検討されたが,各家庭のIT環境にばらつきがあり,学習面での不利益を被る生徒が発生することが予想されたため,本校では実施していない.とはいえ,前述のオンラインホームルームに加え,質問対応や英検2次試験対策など個別指導が適する場面では双方向型も展開されている.数学科や英語科のように双方向型の質問時間を設けている教科もある.

対面授業がそうであるように,オンライン授業もやり方は教員によって様々である.以下は高校2学年の実施例である.

表1 高校2学年におけるオンライン授業の実施例

オンライン教育を経験して

実際にオンライン教育を実施してみて,「やってみればそれなりにうまくいく」と感じている教員が多いようである.もちろん「思うような授業ができない」という声もあるが,「動画ならではの見せ方ができるため,単元によっては対面より効果的」という意見も出てきている.少なくとも何もしないよりはマシなことは明らかであり,いまはその「マシ」が学びを止めないために必要だと考えている.慣れない状況の中,授業や課題に真剣に取り組んでいる生徒のことを誇りに思う.

生徒からは,「動画なら苦手なところを何度も繰り返し見られる」という意見が多い.「体調不良で配信された日に授業が見られなくても,後追いできるので置いていかれる心配がない」といった意見もある.対面授業では教員のペースで学習が進みがちだが,オンライン授業は生徒が自分のペースで学ぶことができるため,より主体的な学びになることが期待できる.

一方,オンライン教育で見えてきた課題には,「即興的な学び合いの場」を形成するのが難しいというものがある.たとえば,生徒から「リアルなら友達にすぐ聞けるのに」「チャットやメールだと質問したいことをうまく書けない」といった声がある.対面授業では,授業中や授業後に生徒同士が議論し教え合う場面が自然に発生し,それが学びを確かなものにするのだが,オンラインではこれがうまくいっていないようである.また,教員から多いのが「生徒の反応を見られない」という意見である.対面授業では,机間巡視や生徒のアウトプットを見ながらその場で授業を作り直すことができるが,動画配信型ではそれは不可能である.双方向型にすることで解決する部分もあるのかもしれないが,人間の学びは視覚情報に限られないので,画面の中だけですべてを完結するのは難しいだろう.

さらに,体育実技のようにそもそもオンライン化が不可能な科目もある.外出自粛の影響もあり,体育実技のオンライン授業は,ストレッチや体操などで生徒の運動習慣を維持させるに留まっており,十分な指導ができていないと感じている.直接指導ができないため運動技能の向上は期待できず,体育教育の本来の目標である「運動を通じた楽しさの追求」の達成は非常に困難である.同様のことは,理科の実験や家庭科の実習など専門的な道具を必要とする教科にもいえる.学校教育には,自分の体や手を動かすことで学ぶ場面も多くあり,それらはオンラインでは大きく制限される.オンライン教育の実施により,そこに多くのメリットがあることはわかったが,それが逆に対面授業の役割の大きさを浮き彫りにしたように思う.したがって,LMSや動画教材などオンライン教育のうまくいっている部分を対面教育でどのように活かしていくかが今後の課題である.

著者紹介

三輪 貴信

中央大学附属中学校・高等学校教諭,博士(工学).早稲田実業学校非常勤講師,早稲田大学助手,日本工業大学駒場高校専任講師を経て,2019年4月より現職.

  • *1 Learning Management System(教育・授業支援システム).学習教材の配信,課題の添削,成績管理などを統合したプラットフォーム.
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